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2 はじまり

「テリー!ごはんできたわよー!」

「はーい母さん!」


僕はあわてて自分の部屋を飛び出しダイニングルームへ向かう。

なんていったって今日は僕の10歳の誕生日だ!

きっと豪華な食事に違いない!


ダイニングルームに入ると母さん、父さん、妹のリティア、僕以外の家族全員がすでにそろっていた。

そして机の上には想像通り、いや想像以上に豪華な食事。


「がはは!テリー、母さんの料理に感激するのはいいが、席につかんと食事は始められんぞ?」


父さんに注意されて慌てて席につく。


「さあ、今日の主役もそろったことだし、始めましょうか!」


すると、母さんが祝いの歌を歌いだす。

「-----♪ーーー♪」


これは、僕の住んでいる村の伝統のようなものだ。

子供が誕生日を迎えた日の夕食時に、その母親が子供にむけて誕生を祝う歌を歌うのである。


一分ほどでその歌はおわり、僕たちは食事を開始する。


もぐもぐ…

うん、やっぱり母さんの料理はおいしいや!

料理上手な母さんが誕生日の時だけつくってくれる特別なメニューは、僕の誕生日の楽しみの一つだ!


「おいしいよ母さん。」

「ああ!俺は母さんの料理よりもうまいものを食ったことがない!」

「まぁ、お父さんたら。」


そんな風に楽しく食事を楽しんだ後、僕の誕生日の楽しみの二つ目がやってくる。


父さんがオレンジ色に輝く石を十個置いた。

僕がそれに触ると、石から上に向かって指先ほどの大きさの炎が飛び出した。

石は力を失い灰色に戻る。


これはバースデーフレイムという誕生日の時の定番イベントである。

魔法使いが石に火の魔法を込めたフレイムストーンというものを歳の数だけ用意し、その炎を一息で吹き消すことができればその人は一年幸せに暮らせるという、いわばおまじないのようなものだ。


「さあテリー。思いっきり吹き消すんだぞ!」


空中に浮かぶ十個の炎。

僕は思いっきり息を吸い込み、吹き消そうとしたその時、



僕の前に横からふーーーっと息を吹きかけた者がいた。

僕の妹、リティアである。

炎は半分の五個だけ消えた。


「こらリティア!それはお兄ちゃんのだろう!」


リティアをしかる父さん。


「だって…リティアもやりたかったんだもん。」


涙で目を潤ませるリティア。


「えーっと、父さん。別に僕は大丈夫だよ。それに、昔全部吹き消せなかった年があったけど、その一年も僕は充分幸せだったしさ。」


僕も実は結構楽しみにしてたんだけど、大事な妹を泣かせてまで優先することではない。


「おにーたんごめんね…」

「いいよ。それに、リティアは次の誕生日で5歳になるだろう?だから今回ちょうど五個消せたリティアはもっともっと幸せになれるかもしれない。」


とうとう涙をポロポロと流し始めてしまったリティアをそういって慰めた。

ついでに頭を優しく撫でてやる。

あ、すこし涙が収まった。


第二の楽しみを意外な形で奪われてしまったが、僕にはもう一つ。

第三の楽しみがあるのだ。


「おにーたん、これあげる。」


そう、誕生日プレゼントだ。


リティアが一枚の紙を渡してくる。

これはなんだろう…と、裏をむけるとそこには絵が描かれてあった。

それは人間の絵で、体部分はなしで顔部分だけ大きく書かれている。

薄い肌色の顔、耳にかかるくらいの長さのブラウンヘアー。髪色に黒を少し混ぜたような色の目。


髪の長さから母さんでないのはわかるし、だいぶ日に焼けた色をした肌の父さんとも違うだろう。

いや、そんな要素で比較しなくても僕にはわかる。


これは僕だ!

赤の他人に見せたらわからないかもしれないが、僕はこの絵を見た瞬間にこれは自分だと確信した。

なぜかって?お兄ちゃんだからに決まってるだろう!


「お兄ちゃんを描いてくれたんだね。リティアありがとう。」

「えへへ。」


嬉しそうにほほ笑むリティア。

涙はすっかり止まったみたいだ。


「父さんと母さんからのプレゼントだがな、これは…もう少しあとで渡すことにする。」

「そうね…。リティアが眠ったころにあなたの部屋にもってくわ。」


今渡すと何か都合の悪いことがあるのだろうか?

「リティアもみたい!」

「だーめ。ほら、そろそろ眠くなってきたんじゃない?」

「まだ眠くないもん!」


***


一向に眠ろうとしないリティアを寝かしつけるのに手間取ったのか、母さんたちが僕の部屋を訪れたのは、だいぶ夜遅くになったころだった。

僕も少し眠たかったが、それよりも誕生日プレゼントに何がもらえるのかという楽しみの方が大きかったのでなんとか我慢できた。


「テリー、プレゼントを渡す前にお前に伝えておきたいことがある。」


父さんがいつにもなく真剣な顔つきで語りだした。


「人間は生まれた時からどんなことに適性があるかが決まっている、という話は知っているか?」

「あんまり詳しく知らないけど、父さんが村一番の力持ちとか、母さんが包丁で誤って指を切っちゃったときに包丁の方を先に心配するとか、そういうこと?」

「ああ、難しくいうと父さんはSTR、母さんはVITの値が高い、という。」

「それは生まれた時からずっと変わらないの?」

「そうだ。値には他にも種類があるが、人はこの値に適した成長をするようにできている。」

「じゃあ村長さんとか村のみんなは…」

「ああ、普通は父さんたちほど一つの値だけが特化していることはないんだ。全部の値が平均的か、いくつかの値が他より少し大きいだけとかな。」


「そうなんだ…。でもなんで今そんな話を?」

「それはね、私たちの値の異常な(・・・)偏りがあなた、いえあなたたちにも受け継がれているからよ。」

「母さん…、リティアはわかるけど、でも僕は?」


実はリティアは4歳らしからぬ能力を保有している。

でも、僕自身は今までの人生で何かに特化しているとは一度も感じたことがない。


「あなたはINT、魔法の才能よ。」

「まほう…」

「この村には魔法に詳しい人はいない。だから、テリー。あなたには自分の力の使い方を学んでほしいの。」

「それで母さんと相談して俺たちが用意したのがこれだ。」


父さんがカードのようなものを渡してきた。

なになに…帝都魔法学園?


「それは帝都にある魔法を教えてくれる学校への入学許可書だ。お前はそこで魔法を教えてもらってこい。俺たちからのプレゼントはその入学許可書と、その学園入学のための準備だ。帝都は遠いから長い間馬車を乗り継いで向かう必要があるからな。」


魔法学園。魔法。どれもワクワクする響きだけど、でも…


「もしも僕が、魔法なんか使えなくてもいいからずっとここで家族みんなで暮らしたいって…」

「それはだめよ。」


いつも優しい母さんが強い口調で僕の言葉を遮った。


僕の気持ち的にはもう魔法学園にはいくつもりだった。

せっかく父さんと母さんが用意してくれたものだし、魔法だって使ってみたい気持ちがあったから。

でも、長い間家族と離れ離れになるのが寂しいって思っているのは僕だけなのか、そんなことを考えてしまい、少し意地悪なことを言ってしまった。


「じゃあ、僕が一人でこの家をでて、どうしても魔法学園に通わなきゃいけない理由があるっていうの?」


母さんは僕の何倍も悲しく、苦しそうな顔をした。

沈痛な面持ちで母さんが口を開きかけたその時、



「おにーたん行っちゃうのやだあぁー!」


リティアが部屋に飛び込んできた。

途中からドアの向こうでこっそり話を聞いていたのだろうか。


「やだやだああーー!」


リティアはぐずりながら部屋の中を走り回る。

それはもう4歳とは思えない凄まじい速さで。

さっきの父さんの話からするとリティアは速さの才能なのかなーなんてのんきなことを考えている間にも父さんたちは大慌てだ。


「リ、リティア!止まりなさい!」


父さんと母さんは必至で追いかけてはいるが全く追いつけていない。


最終的には母さんが走り回るリティアを強引に抱きとめて何とか止めた。

あまりの勢いに抱きとめたリティアもろとも母さんは吹き飛んで壁に激突していたが、幸い全くの無傷である。

うちの母さんは丈夫である。


その日はみんなぐったりと疲れてしまい、そのまま解散となった。

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