1 プロローグ
ここは不思議な力が存在する世界、<グリム>。
人々はその不思議な力、魔法やスキルを使って魔王が生み出したモンスターを退けてきた。
そして今この時も、世界のどこかで両者は相まみえていた。
***
眼前には迫りくるモンスター。
人の10倍はあろうかという巨体。
見ただけで逃げ出したくなるような殺意のこもった顔。
鋭いキバが生えそろった大きな口からは時折炎が漏れている。
奴の名はドラゴン。
「まさかこんなところでドラゴンに会えるなんてな。」
ドラゴン種特有のかたいうろこはあらゆる攻撃への耐性がある。
特に魔法の耐性は強く、熟練の魔法使いが複数集まって放つ合同魔法で何とかダメージを与えられるかどうかだという。
対して、現在こちらのパーティーは僕を含めて二人のみ。
しかも僕は魔法使い、もう一人は回復魔法に特化した白魔法使いである。
普通ならこの二人の生き残る可能性はゼロである。
そう、普通ならだ。
幸い僕はいわゆる普通の魔法使いではない。
単独での魔法でドラゴンに大ダメージを与えることができる。
いや、本気を出せば一撃で倒すこともできるかもしれない。
「よし…やるか。」
僕は迫りくるドラゴンへ右手をむけて、魔法を放つために必要なエネルギー、魔力を集中させる。
「テリー、無茶よ…。」
僕と一緒にドラゴンと相対している白魔法使いの女の子は不安げな顔をこちらにむけている。
「大丈夫。うまくやるよ。」
「だめ、だめよ!」
彼女の制止の声を振り切って僕は魔力を貯め続ける。
魔力が貯まるにつれて右手が徐々に輝き始める。
あと少し…
3…2…1…
よし貯まった!
その瞬間、僕の右手は一際強く光を放った。
「くらえ!ファイアボール!!!」
「だめえええぇぇ!!!」
僕が呪文を唱える声と彼女の制止の声が重なった。
そして、ドラゴンに向かって大きな炎の塊が放たれた。
それは、数メートルの距離を刹那のうちになくしドラゴンに直撃した。
「グギャアアアアアア!!」
ドラゴンはその巨体全身を炎につつみ、苦しみに耐えるような咆哮を放った後、地響きを立てて崩れ落ちた。
時同じくして、
「うぎゃああああああ!!」
魔法を放った僕自身も炎に包まれていた。
少し離れた場所で僕に制止の声を投げかけていた彼女は、急いでこちらに駆けつけ僕に回復魔法をかけ続ける。
「ヒール!ヒール!」
飛びかけていた意識が、彼女の放つ白い光のおかげでなんとか持ち直してくる。
「ぐぅ…す、すまない。」
僕の弱弱しい声を聴いた彼女は、先ほどのドラゴンの咆哮にも劣らない大声でこういった。
「ばかぁあああああーーーーーっ!!!」