反乱のタイムシップ
屍の上に烏が鳴いている。あれは、あれで良かったのだろうか。小さな力を、集めて集めて、無敵だと信じて突き進んだ朝は、沈むだけで泣き始めてしまう夕陽に変わった。
「成功した。予想通りだ」
録音された声が一番星を迎える。正解も不正解も無く、善も悪も無い。三人から始まった計画は、全てを巻き込んで花火になった。血液の混ざる排水溝の清らかな水は、川へと流れ込んで、海で墓場になるのだろう。
時をさかのぼれば、緒方達也の一言から始まった。彼は、大学生だった。
「今、少子化だよね。少ない人数の方がさ、大切にされないっておかしくない?」
友人の二人に、緒方達也はそう話をした。相手は、山川元気と金子隆太郎だった。
「あーね。確かに子持ちの姉貴が言ってたわ。子供なんて産むもんじゃないってさ」
姉の居る、山川元気が答えた。本当に、大変そうな印象だったのだろう。受け答えが早かった。
「確かに、年齢によってレア度が変わっても良いよね。子供が減ってくんならさぁ、赤ちゃんがレジェンドレアとか、その辺の爺さん婆さんがノーマルとかね」
金子隆太郎が、スマートフォンでゲームをしながら片手間で答えた。大学の屋上の空は雲一つ無く、遠くでクラクションの音がしている。
「だよなぁ。俺ら、もっとランク上がっても良いよな。天然記念物扱いまでいかなくてもさ、道を譲るくらいの事はして貰っても良いよな」
緒方達也が二人の返事に続ける。二人はそれに頷いた。上の空なのが一名居るが、緒方達也は更に続ける。
「結局さ、上の世代の失敗を押し付けられてるだけだろ。数の予想もさ、想定外だったって、済んでいる訳だよね。つまりさぁ、俺らも、社会的に何か失敗をしても良いって事だよね」
二人は同意した。スマートフォンは、ポケットの中に移動されている。途中から集中して聞いていたようだ。緒方達也は、二人が聞き始めたのを見て、寝っ転がっていた姿勢から起き上がった。座ると、また喋り始める。
「人数が少ないし、将来支えて貰う側にとっては、貴重な人材なわけ。これって無敵でしょう。減って貰っては困る人間は、俺達なんだからさ。もっと、何かあっても良いよね」
金子隆太郎がそれを聞くと言う。
「どうしようも無いんじゃない?価値観なんて、すぐ変わるもんじゃないし」
緒方達也は笑いながら言う。
「わかってるんだけど、何かやろうと思ってさ。自己満足かもしれないけどね。でさ、一つの案として、ネット上に何か作ろうと思ってるんだけど、どう?何か反乱めいた面白い計画作ってさ、ずっと残しておくの。金は、俺が払えば良いしさ。検索するにしても、意味のわからない言葉で設定したら見つかりにくいし。サイト自体にも鍵かければ良いから、好き勝手に作れるし。暇潰しに良いだろう。タイムカプセルみたいにして、後々の話のタネにしよう」
二人は笑いながら同意した。
「それ、面白そう。いろいろ調べてみるのって楽しいし」
金子隆太郎はリズム良く話した。山川元気も、それに納得して言う。
「良い感じの憂さ晴らしやな。じゃあさ、かなり緻密に作り上げようぜ」
三人は、ワクワクしながら屋上を後にする。それから三人は、足りない知識を埋める為に、専門誌を買い漁り、二ヶ月間かけて、思い付く限りの計画をウェブ上に残した。終わった後は、三人とも何かが吹っ切れたかの様な満足感があった。その後、三人とも就職して社会人になる。社会人になっても、三人は仲が良かったが、この事についてはすっかり忘れてしまっていた。
あのサイトを作って50年経った。
三人の内、緒方達也と金子隆太郎は病気で死んだ。新種のウィルス感染症である。山川元気だけは、ゆったりとした老後の生活を送っていた。そんな生活の中に、ニュースが飛び込んで来たのだ。
ディスプレイに映っている。
若い世代の反乱だった。山川元気にとっては、何処かで見たような話ではあるが思い出せない。次々と制圧される映像が映し出されている。どうやら、死人も莫大に出ているようだ。反乱の大半は、若い世代とクローン人間だった。クローン人間は、倫理観から駄目だったのだが、そうも言っていられなくなった、国の苦肉の策から誕生した存在である。
クローン人間達は、自らが社会の底辺で立ち回っている事に鬱憤を溜めていたのだった。それに、若い世代が同調したのだ。価値観は、大きく変わらなかったのである。何をどう叫ぼうと。
しばらくして、ニュースが伝える。若い世代達は、怪我をしただけで済んだと。まさに、無敵ではあった。
ただ、クローン人間達は全て駆除されたと伝えられた。主謀者もクローン人間の一人にされ、この事件は終わる。山川元気も、特に何も気にしなかった。時間を経て、感じ方が変わったのだろう。
とある部屋のディスプレイに、三人が作ったサイトが開いている。光が、小さな古い部屋の中で、神々しさを放って、大切な物を指し示している。あのサイトには、三人で作った鍵をかけていた。
パスワードはタイムシップ。
山川元気と金子隆太郎は違うのが良かったのだが、緒方達也が最終的に決めた。
金子隆太郎は、タイムブリッツを譲りたくは無かったが、結局は折れる。
タイムシップは、緒方達也が辞書をペラペラめくって、止まった所で作った物だった。緒方達也は、この言葉に、時間の船に乗るしか無い人間という意味をこじつけていた。失敗からの解放を、願っていたのかもしれない。
人間は、常に考える生き物だが、考えなければならない事を、勝手に増やされる事には何かを言うべきだ。
遠慮はいらない。失敗を失敗と思っていないかもしれないのだから。