序奏編〈下〉2
隔離地下都市フォルスティナに移り過ごして数日が経過したある日、幸村はアルヴァンジュが何者かに狙われていることを知る。幸村の師匠である八雲久信にこの事を告げると同じような回答が帰ってきた。
涼葉は幸村とステアに高校に潜入任務を与えて主犯格を捕らえる任務を授かった。そして、幸村の正体やステアの事も極秘にせよと言い渡された。
後暦380年4月23日 午前6時30分 涼葉邸 地下工房
幸村は朝早くに目が覚めると涼葉にどこか静かで誰にも邪魔されない場所は無いだろうかと訊ねた。涼葉はしばらくうなされた後に地下工房があると言っていたので、館の奥に位置する隠し階段を通って行った。
地下の空気はひんやりとしているが空間の造りがしっかりしているので生き埋めになる心配は無いと涼葉は自信満々に言ってた。幸村は涼葉に賢者の行方を訊ねたところ、涼葉は『何だか今朝早くに何処かに呼ばれたそうじゃよ』と気にする様子がない回答した。
涼葉が地下から出ていくと幸村は敷物をかけて座ると同時に目を閉じて瞑想をした。日課にしている魔力錬成である。魔法を使う身として欠かせないものだと幸村の師匠が何度も繰り返し聞かされて今まで続けてきた鍛練であった。
「・・・・・・・」
無心状態になり自らの心臓の鼓動、体内に流れる血液を感じながら魔力を練っていく。師匠の言い分では、魔法は自らの欲望を満たす物では無く大事にしているものを護りぬけと何回か言っていた。
最初の内は護るものは無く自らの保身の為に血を吐く覚悟で魔法を学んでいた。その後に師匠の言っていた意味が分かるようになり、大事にしているものの為に使用するようになった。魔力の錬成が終わると幸村は立ち上がり剣を握る仕草をする。
「・・・・・・」
自らの頭の中に基本的な片手剣を思い浮かべて創造すると手の内側に発生したポリゴン状の物体が一つ一つ合わさっていき西洋剣が発現した。現れた剣を暫し眺めると満足げな表情を浮かべた。
「上々かな・・・」
そうしている間に階段から足音が聞こえてきたことに気づき階段の方に目線を向けるとサレナの姿が見えた。
「鍛練お疲れさまです。お食事の用意が出来ています」
「承知しました。すぐに行きます」
サレナは一礼した後に階段を登って行った。姿が見えなくなったところで幸村は発現させた片手剣をゼプトレベルに分解して消し去った。
「さて、行きますか」
幸村は立ち上がって階段を登った。
午前8時40分 涼葉邸 食堂
食堂には既に涼葉が到着しており食事をしていた。涼葉の食事の一つ一つの所作は優雅で良い所のお嬢様だと分かる動きをした。そんな姿をじっと見ていると涼葉は自慢気に笑った。
「なんじゃ?ワシを見ても何もやらぬぞ?」
「そんなつもりは無いので安心して下さい」
あまり深く慌てるとからかわれるので軽くあしらうと少女は箸を止めた。
「幸村、そなたの使える魔法を列挙してくれぬか?」
「どうしてそれを?」
「良いから答えぬか」
幸村は言おうかどうか迷いはしたが、嘘をつけない状況だと分かり素直に打ち明けることにした。
「炎系統の魔法全般、強化、瞬間練成、再生、加速魔法、重力制御、重力解除、飛行、固有振動、物質破壊、物質分解、物質再構築の魔法が使えます」
使える魔法を全て列挙し終えると涼葉は更に言葉を繋げていく。
「ほう、錬金術を使う魔法騎士がいるとは珍しいな」
錬金術は魔法が実現する前に使われた魔法の元祖であり、使える人間がいないと言われていた。その理由としては、錬金術の資料があまりにも少ないことであり、錬金術を使っていたフェル・アーリウスは悪の手に渡らないように全て処分したとされたと言われている。
涼葉は魔法の詳細を聞き出した。
「再生はどこまで可能じゃ?」
「傷の修復と骨や臓器が破壊されても一瞬で再生します」
「では、物質の方は?」
「人や物などを消すこと、物体と物質の構築が判明できればバラバラに分解する、物体と物質が破壊されれば元の状態に再構築できることができる魔法になっています」
そのことを聞いた少女はニヤリと笑った。
「人間にしては多くの魔法を使うのじゃな。流石は天使計画第一号成功症例じゃな」
「・・・ご存じだったのですね」
「ワシらの情報網は伊達ではない」
天使計画----古代魔法戦争の際の切り札として使われた。莫大な魔力保有量と演算処理能力を人体に移植し被験者100人のうち過酷な魔法投与を苦しみもなく生き残った最後の二人のうちの一人。計画成功した二人のうちの一人であり、魔法投与を受けた後は見た目の風貌は当時のままに止まってしまった。
「そして、古代魔法戦争ではウチの賢者が世話になったみたいだしのう」
「それまでもご存じだったのですね」
幸村は分かっていたかのように驚きもせずに険しい表情を浮かべた。
「まあそう睨むな。もっと笑えば良いじゃろう」
「笑えないことを平然と言ってる人が何を言うか」
涼葉は食べ終えると席を立ち食堂を後にした。幸村はこの街で起ころうとしていることを思考して食堂を後にした。
午前10時45分 涼葉邸 涼葉の書斎
涼葉は自身の書斎に戻ると部屋には山積みとなった書類の束がいくつもあった。これはアルヴァンジュ魔法学園の書類であった。いくつもの紙を流すように見ていきご満悦な表情を浮かべた。
「今回の入学希望者数は300人か・・・良い感じじゃな。しかし、この中にはスパイが紛れているやも知れないな。まあ、あの二人がいるから大丈夫じゃろ」
あの二人とは幸村とステアのことで、二人には高校潜入と主犯格の輩を消す任務を与えておこうと考えていた。様々な思考していると廊下から誰かが走ってくる音が聞こえてきて書斎の襖が全開きになった。
「涼葉ちゃ~ん!酷いじゃない!」
入ってきたのはフォルスティナの五賢者の一人でもあるセレスティア・ベルニアであった。彼女は涙目になっていて涼葉に近づいた。
「おかえり、セレス」
「おかえり・・・・・じゃないわよ!酷いじゃない!」
「だから何がじゃ?」
涼葉はネグレクト状態である母親みたいなぶっきらぼうな態度で答えた。
「勝手に高校潜入の任務を与えてはダメだと言っているの!」
「わざわざその為に来たのか?」
涼葉は山積み状態となっている書類を一つ一つ丁寧に目を通していく。
「北方の賢者が言ってたの!」
『部下の行動を把握するのは上司の仕事だと常々言っているでしょう!』
「・・・って言ってたの!見下すような発言でムカつくじゃない!」
プンプンと可愛らしい怒りを露にしているが涼葉は構うことなく読んでいく。
「上司にだって把握することが難しいことあるじゃないの」
「いや、全部北方の賢者が正論じゃよ」
キッパリと言い放つとセレスティアはがっくりとしていた。
「うぅぅ・・・」
「泣き真似は通用しないよ。仕事の邪魔じゃ」
セレスティアは諦めることなく仕事中の涼葉にちょっかい出した
「ねぇ~、私の言い分が正しいでしょう」
「くどい!仕事の邪魔をするな!!」
セレスティアを蹴り飛ばし書斎の襖をキツく閉めた。蹴り飛ばされたセレスティアは蹴られたお尻を擦り痛みを和らげながらフラフラとどこかに立ち去っていった。
午前11時32分 フォルスティナ中央通り
幸村は繁華街に来ていて昨日の嫌な予感の捜索していた。繁華街は変わらずに賑わいを見せており事件が起きるなど縁遠い場所になっている。繁華街の中頃に位置する噴水広場に差し掛かると辺りを見回し不審な点がないか確かめた。
「昨日のあの感じはきっと何かが起ころうとしていた。だとすればここに・・・」
辺りを見回していると視線を感じ振り向くとボロマントの輩が慌てて逃げ出す様子が目撃したので後を追うことにした。
「待て!」
幸村は加速魔法を使用して距離を詰めようとするが相手も加速魔法を使用しているのか距離を詰めることが出来なく距離が離されていき姿を眩ませた。
「やはり、杞憂では無かったな・・・」
辺りを左右に目を配らせていると背後からステアが近づいてきて振り向くと心配した様子で走ってきた。
「幸村さま、ご無事ですか?」
「大丈夫だ。心配かけたな」
「先ほどの輩は一体?」
「私にも分からないが良からぬことが起きそうだ」
そのとき幸村はあることを思いついた。もしかしたら、あの人はと感づいた。
「師匠のところに行こう」
「師匠・・・?東方大陸に行かれるのですか?」
「ああ、もしかしたら師匠なら何か情報が入ってるかも知れない」
幸村は元々は純粋な魔術師ではなく、東方大陸にいる師匠の元に修行していた。そこで体術、槍術、剣術、弓術など戦いに必要な素養を叩き込まれており数少ない理解者の一人である。
「だがその前に涼葉に報告しないとな」
ステアの頭を優しく撫でて館の方面へと向かって行った。
午後13時16分 涼葉邸 広間
幸村は先ほどのボロマントの輩のことを伝えると涼葉は険しい表情を浮かべて分かっていたのか驚きもしなかった。
「色々と不自然じゃったんじゃよ。入学希望者数がいつもより多かったことを踏まえるとスパイが入り込んでいる可能性もあると考えたんじゃ」
幸村はやがて確信に変わると無言のまま一人で納得した。
「やはり、思い過ごしでは無かったみたいですね」
「そういうことじゃな」
しばしの沈黙が続き幸村は師匠のいる東方大陸に行くと伝えると涼葉は快く了承して東方の賢者によろしくと伝えておいてくれ、と送り出した。
午後14時13分 ウェスト・エルシィード大陸 上空
エルシィード大陸はイバルディン大陸と同じくらい魔法育成に積極的であり、都市部には巨大な校舎がそびえている。また、卒業生の中には魔法学会や軍に入っている者がいるほどの名門学校である。幸村とステアは森の中腹に着陸すると目の前には大きな寺院が建ていた。門前には八雲道場の看板が下げており、門前に居るだけでも殺気を感じるほどの建物だった。
二人が寺院内に足を踏み入れると一人の猫叉が縁側で寛いでいた。二人は猫叉に近づくと挨拶をした。
「八雲師匠、お久しぶりです」
「お前さんか・・・」
師匠と呼ばれた八雲久信ひさのぶは覇気の無い返事をすると猫叉の特徴である二つの尾がユラユラしてステアを見た。八雲の家系は体術を教える家柄でもあるが同時に魔法も教えていることもある。
八雲は十勇士の一人でもあり、賢者に通じている部分もある。
「息災で何よりです」
「へっ、そこまで落ちてないよ」
悪態をつくと寝転んだ体勢を止めて正座すると話しを切り出した。
「それで何の用だ?」
「八雲師匠は何かを知ってると思って出向いて来ました」
「・・・大体は検討ついている。不審な輩がちょっかい出しているのだろう?」
「はい・・・」
やはり八雲師匠は感づいていたらしく苛ついた声を出して口に咥えていた葉っぱを吐き捨てた。
「注意しろ。狙われているのはアルヴァンジュだ」
「どういうことです?」
ステアは縁側に腰をかけると八雲師匠は空に目線を向ける。
「大昔の大戦以前にも魔法による優劣があるのは知っていると思うが奴らは潜入して内部破壊を目論んでいる」
「誠ですか?」
幸村は真剣な眼差しで八雲久信を見つめた。八雲師匠は幸村の方に目線を向けると悔しさを滲ませる声で言った。
「内部破壊の先にあるものが分かれば良いのだがな」
「・・・・・・」
幸村はしばらく押し黙ってしまい偶々吹いた風が悔しさの証しなのか段々と静まり返り無風状態になり何も聞こえなくなっていった。
八雲久信は静寂に耐えかねなくなって幸村に勝負を挑もうと縁側から降りてファイティングポーズのサインを送った。
「八雲師匠、激しい動きをすると傷口が開いてしまうので遠慮します」
「お前、負傷していたのか」
「はい・・・」
「そうかい、今度来た時にでもしよう」
「その時は宜しくお願いします」
二人は寺院から出ると飛行でフォルスティナに戻っていった。
午後22時33分 涼葉邸 客間
幸村とステアはしばらく黙ってしまいこれから起きることを幾通りか検証してみたが、どれも最悪な結末しか待っていないことに悔しさが出てしまい空気が悪くなっていった。
幸村は立ち上がり一人で館外に出ると透明な天井から見る星にしばらくの間見ていた。そうしていると背後からセレスティアがやって来た。
「あら?貴方が星を眺めているなんて珍しいわね~」
「考え事ですよ・・・」
いつもの覇気がないことに疑問に思ったセレスティアはニヤニヤと笑った。
「何です?」
「別に~♪それよりも貴方は星占いを信じている方?」
「若干ですが・・・」
「それで十分よ」
何かを悟っているのか賢者は優しく笑みを浮かべた。幸村は何を言っているのか分からず答えを要求したが却下された。
「貴方なら大丈夫よ。絶対やり遂げると信じているから元気出しなさい!」
「はぁ・・・」
何だか根拠の無い回答が出されて困惑するが何故か不思議と勇気が湧いてくる気がして安心した。
「話しを聞いて下さりありがとうございました」
「いいえ、当然のことをしたまでよ」
幸村は館に入っていき姿が消えるまで見送るとセレスティアは星に目線を向けた。
「次はどんな結末が見えるかしらね?」
誰に向かって話しているのか分からず小さく呟いた。幸村は寝室に戻るとステアが既に就寝中であり、新たな決意を胸に眠りについた。
後暦380年4月24日 午後10時33分 涼葉邸 広間
幸村の怪我が全治して快調の様子を見せていた。サレナは普通の人間なら一週間は激しい動きを禁じなければならないと言っており、常人ならざる回復力が内在していることが証明された。幸村とステアは涼葉に呼び出されていた。
「昨日のボロマントの輩を捕まえたぞよ」
涼葉は昨日、捕まえ損ねたボロマントの輩を話題に切り出した。
「いつの間に・・・」
幸村はあっさり捕まえたと聞いて呆気に取られていた。
「お主たちが傷が癒える前に忍び込んだんじゃよ」
涼葉は昨日の出来事を簡潔に説明した。そして、賢者の精神操作の魔法により自分たちの身分が明かしたり更には自分たちが魔法を根絶やしにするなど告白した。
「捕まえたやつが明かした組織の名はエインヘリヤルだと言った」
「エインヘリヤル?」
ステアは幾度か組織の名を聞いてきたがエインヘリヤルという組織の名は初めて聞いた。
「目的はこの世の非魔法者の優位の確立だそうだ」
涼葉は半ば呆れた物言いをした後に白銀のトランクケースを幸村に投げ渡した。
「幸村、お主の発注の武器が届いたんじゃ」
「ありがとうございます」
投げ渡されたトランクケースを開けると深紅の二丁拳銃が収められていて、幸村は一挺の銃を手に取りグリップの感触を試している。
「良い感じです。手に馴染みます」
微笑を浮かべ喜んでいた。
「拳銃の名はルビー・アイギスだと武器製造の者が言った」
「ルビー・アイギス・・・良い名前だと言っておいて下さい」
涼葉も微笑を浮かべ、あい分かったと相づちを打った。
「ステア、お主はリング型の魔法デバイスじゃ」
「はい・・・」
同じく投げ渡された指輪を手に取り、つけ心地を確かめていた。
「良い感じです。窮屈ではありません」
「それは良かった」
涼葉は安堵した溜め息をついた。
「ステア、お主は召喚魔法の使用を禁ずる」
「なぜです?」
「あらゆる生命体を呼び出せる力は危険なんじゃよ。それを悪用しようと表れる連中がいるかも知れない」
「しかし、それでは・・・」
「分かっておる。簡単な召喚魔法なら使っても怪しまれないから使うことを許す」
簡単な召喚魔法とは鳥やフクロウ、中級の大きさのあるドラゴンのことで使える人は大多数存在する。そして、涼葉は二人を見て渋い顔をした。
「お主たちが夫婦であるのも隠しておけ」
「どうしてです?」
幸村は何も分かっていないのか質問を投げかけた。涼葉は大きな溜め息をついて言った。
「高校生の時点で分かるじゃろう・・・ステアは小国の姫君、幸村は護衛役の騎士として潜入じゃ。もしもの時は頼むぞ、ナイト」
「お任せ下さい」
幸村は敬礼をして敬意を示した。そして、ステアには幸村の再生を封印する役目を背負わせ、もしもの時が来たら返還してやってくれと言い渡された。
午後11時22分 寝室
二人は布団の中に入っており、明日に起ころうとしていることに期待や不安の半々な状態で眼が冴えて寝つけなかった。幸村はステアの顔を見て言った。
「ステア、この先にどんな結末があったとしても付き添ってくれるか?」
ステアは幸村の手を包むように指を絡めて僅かに微笑んでいた。
「愚問です。あの日、救ってくださった恩はまだ返せていません」
「そうか・・・」
幸村も僅かに微笑んで相づちを打った。幸村はしばらく天井を見つめた後にステアを見た時には安心したのか眠りついた。
「君は私が守り抜きますよ、姫君」
ステアの頭を撫で体の向きを変えて眠った。
序奏編Fin. 高校潜入編に続く。




