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 太陽の光が焼けるように照り付ける昼下がり。


 バハマ諸島まであと半日という距離まで来たステラ・マリス旗下南方主力艦隊は、同じくバハマへ針路を向ける『大船団』を発見した。


 船には、黒髭海賊団の旗がたなびいており、見張り台に立つルカとアテネは歓喜の笑みを浮かべた。


「見ろ、アテネ! 艦長の読み通りだ!」

 この大海原で、僅かな情報を頼りに人を探す。

 それは砂漠の中で1本の針を探すようなものであり、とても実現出来るとは思えない試練だ。


 だが、メルティナはそれをやってのけた。

 不可能を可能にし、奇跡を実現して見せたのだ。

 メルティナ艦長の神がかり的な読みを、ルカは改めて感服する。 


「ふふ、駄目ですよルカ。私達は海軍なんですから、海賊と遭遇してそんな嬉しそうな顔をしては」

「そういうアテネだって、顔が笑っているぞ」

「そ、そんな事は……ありません」  

「本当に?」


「実をいうと……少しだけ。ほんの少しだけ、テュッティに会えるのが楽しみです」

 アテネは髪の毛を指先で弄りながら、照れるように呟いた。


「俺もだよ」

 ルカはアテネの頭を優しく撫でると、大海原で大船団の先頭を行く、戦列艦『アン王女の復讐号』に目を向けた。


 あの船がいるという事は、船長のテュッティもまたいるに違いない。

 よかった。間に合った――と、ルカの表情には隠しきれない安堵が浮かんでいた。


 ほどなくして――


『――――告げる、こちら艦長。我々は今日……歴史的瞬間に立ち会っているわ。皆にも、右前方を進む海賊の大艦隊が見えている事でしょう。そこに掲げられている《黒髭》の海賊旗にもね。彼女達はこれからバハマのナッソーに向かい、そこで恩赦を得て海賊を辞めようとしているわ』


 伝声管を通して、メルティナの声が艦内に響き渡る。

 士官達は全員詳細を知っているが、末端の水兵達は今日始めてそれを聞かされた。


 カリブ海において頂点に君臨し、恐怖の代名詞とまでうたわれた黒髭海賊団が恩赦を受ける。

 それは衝撃を持って艦内に伝播し、どよめきが巻き起こる。


『我々は海軍であるが故に、海賊を強く憎み、この海の平和を守るために多くを殺して来たわ。だからこそ、自らの罪を悔い改め恩赦を望む咎人がいるのなら、憎しみを堪え、悲しみを飲みこみ、彼女達を受け入れなければならない。殺すだけが――我々の戦いではないのだから。そして、悪意を持って罪を贖おうとする者の邪魔をする輩こそが、我々の真の敵となるでしょう。全艦隊に通達。信号旗を掲げなさい!』


 メルティナの言葉に、艦内では「やー!」と歓声があがる。

 旗艦であるステラ・マリス号が、全艦隊に向けて『信号旗』を上げた。


 信号旗とは、海上において船舶間の連絡に使用される旗の事で、色と絵柄の組み合わせにより、遠く離れた船とも交信可能な優れた連絡手段である。

 幾つかの信号旗は、何処の海でも共通であり、中でも降伏を意味する『白旗』はとりわけ有名だろう。


 艦隊の先頭を走るステラ・マリス号から『全艦停船』の旗が掲げられると、後続の艦も同じ旗を掲げて、次々に帆が畳まれていく。

 ステラ・マリス号でも訓練された帆手水兵達が、一斉に帆を引き上げる。


 その中の一人に、茶色の髪を三つ編みにした、真紅の瞳の少女がいた。

 彼女の名前は、エミリー。

 ステラ・マリス号の帆手水兵であり、今は才能を認められ医術を学んでいる将来有望な少女である。


「エミリー! 少し構わないか!?」

 作業を終えたエミリーに、ルカは見張り台から声をかけた。

 ルカには彼女に、話しておかなければならない事があった。


「はい! すぐにそちらへ行きます!」

 エミリーはメインヤードに跨りながらこちらを見上げると、ルカを視線に捉えて、嬉しそうに顔をほころばせる。


 大人しげな見た目によらず、エミリーは軽快な身のこなしでヤードを駆けると、ロープを伝ってあっという間に見張り台まで登って来た。


「お待たせしました、ルカ様。何かご用件でしょうか?」

 エミリーは、ルカとアテネにお辞儀をする。


「ああ、エミリーに頼みたい事がある」

「は、はい! 私に出来る事なら何でもいいつけて下さい!」

「今、あそこに見えている黒髭の大艦隊を見えるだろう」

「ええ、艦長は戦いが目的ではないとおっしゃっておられましたが……正直怖いです。以前の戦いでは何人も仲間を失いましたから……」

「俺とアテネは艦長から交渉役を命じられ、これから向こうの『船長』と話をしにいく」


「船長というと、あの《黒髭》エドワード・テュッティとですか……」

 エミリーは表情を曇らせる。

 以前にステラ・マリス号を襲撃して来た際の恐怖を、思い出しているのかもしれない。


「詳しくは言えないが、俺達とテュッティの間には強い絆がある。心配しなくていい」

「ルカ様がそうおっしゃるなら……信じます。それで、私に頼みたい事とはなんでしょう?」

「俺達と一緒に来てくれないか?」


「ええ! わ、私がですか!?」

 予期せぬ頼みに、エミリーは真紅の瞳を見開いて、口元に手を当てる。


「エミリーの身の安全は、俺達が必ず守る。どうしても……君に会わせたい人がいるんだ」


「ルカのいう通りです。エミリーには指一本触れさせません!」

 ルカとアテネは交互に言う。

 エミリーは二人を見やると、迷うようにうつむく。


 しばらくして、


「……わかりました。着いて行きます」

 と、胸に手を当てエミリーは言った。

 

     ◇


 船団と船団が海上で接触する際は、それぞれ一隻づつ代表となる船を使うのが一般的だ。

 船は急には止まれず、多数の船がひしめく船団ともなれば、不用意な接近は大事故に繋がる。


 南方主力艦隊からは、旗艦のステラ・マリスが船団を離れた。

 黒髭海賊団からも、旗艦クイーン・アンズ・リベンジが船団を離れてこちらへ接近してきた。


 二隻は並走しつつ徐々に距離を詰めていく。 

 だが、甲板に降りたルカは、船が近付くにつれ、その表情を厳しくした。


「どうしたのですか?」

 と、アテネが尋ねる。


「おかしい。甲板にあいつの姿が見えないんだ……」

 まだ距離は離れていたが、ルカの瞳はこの距離からでも、甲板に立つ全ての女性の顔を視認出来ていた。


「船内にいるのでしょうか……?」


「いや、派手好きのあいつが、この状況で出迎えないはずがない」

 なにか、出迎えられない理由があるのか。

 ルカはゆっくりと近づく船の距離をもどかしく思いながら、船縁を握りしめた。


「…………テュッティ」

 アテネも不安げに胸を押さえる。


 やがて、無数の砲門が立ち並ぶ巨大な戦列艦が、手の届きそうな距離まで来ると、互いの船から牽引ロープが飛び、ステラ・マリス号とアン王女の復讐号が接舷。錨が降ろされた。


「行くぞ、アテネ、エミリー」

 急くように、ルカはロープを掴んだ。


「はい!」

 二人の少女は声を揃える。

 こうして、艦長から交渉役を任されたルカとアテネは、エミリーを連れて、クイーン・アンズ・リベンジに乗り込んだ。


     ◇


 アン王女の復讐号の甲板に降り立ったルカが感じたのは、火が消えたかのように静けさだ。

 誰もが不安げな顔で、遠巻きに自分達を見ている。


 その様は、カリブの海でも最強の名を欲しいままにした黒髭海賊団とは、とても思えないものだった。


「まさか……こんな場所でアンタ達に会えるなんてね。天の助けとはまさにこの事だよ」

 そう言って出迎えたのは、黒髭海賊団の幹部であり、ルカ達もよく知る巨漢の女戦士オーガと、細身の女剣士シルフィだ。

 何度も矛を交えた強敵だが、テュッティと友誼を結んだ今では、家族も同然の間柄であった。


「一体、何があったんだ?」

 と、ルカは問う。


「消えちまったのさ、お嬢が……」

 オーガは覇気なく答え、シルフィは無言のまま憔悴した顔で腕を押さえる。


「詳しく話せ!」

 やはり、テュッティの身に何かあったのだと、ルカは歯噛みする。


「昨晩の事だよ。夜更けになって、停泊しているアタイらの船団に一隻の海賊船が近付いて来たんだ。大事の前だし追い返そうとしたんだが……お嬢は向こうの船長と一言、二言、言葉を交わしたとたん、顔色を変えて部屋に引き籠っちまったんだ。まるで以前のように、ね」

 オーガは柏手で渋面を撫でる。

 次に口を開いたのは、シルフィであった。


「ティファニア様を心配した私とオーガは、二人で見張りに立ちました。ですが……朝になって呼んでも返事がなく、もしやと踏み込んでみたら部屋はもぬけの殻で、ティファニア様は何処にもおられませんでした」

 部屋には内側から鍵がかかっており、何処からも出られるはずがない。念のため船内はしらみつぶしに探したが、テュッティは見当たらなかったという。


「その海賊は、どんなやつらだったんだ?」

「《暁の魔女》ウェルフリートと呼ばれる海賊は知っているかい?」

「ああ、知っている。イスパニアではかなり名の知られた大海賊だな」


 ルカが奴隷として働いていた商船は、ここ数年は主にコロンビアとイスパニア間の輸送で収益を上げていた。当然、イスパニアの海域で遭遇する海賊はよく知っている。


「《暁の魔女》といえば、圧政と戦う英雄として民に愛されていると聞きましたが……その海賊がカリブ海に来ていたというのは初耳ですね」

 と、アテネが言う。


「接触したのはアタシ達も初めてさ。けど、噂とは正反対の酷く不気味な連中でね。まるで案山子のように正気のない連中だったよ。中でも船長であるウェルフリートは、黒いベールで顔を隠していて……思い出すだけで薄気味悪いよ」


「オーガのいう通りです。奴らはまともではありません。乗っていた船も全てが黒に染まった、まるで幽霊船のような船でした」


「…………幽霊船?」

 幽霊船と聞いてルカが思い出したのは、何故か――アデラ達が乗っていた商船が沈められるあの光景だ。


(どうして、急にあの時の事を思い出したんだ?) 


 脳裡に引っかかるものを感じた。

 自分は何か重大な事を見落としていると。

 だが、幾ら考えても答えは出ず、今は消えたテュッティを探すことが重要だと、意識を切り替える。


「お前達はこれからどうするつもりだ?」

 ルカは、オーガとシルフィに尋ねる。


「アタシらの中でも意見が割れてるんだ。ここでお嬢の帰りを待つか、アジトに引き返すか」


「やはり、ティファニア様を探すべきです!」

 シルフィが言い募る。


「だから、探すったってどこを? あんたの鼻でもわからないんだろ」

「ですが……!」


「ここで留まるだけでも毎日水と食糧がみるみる減ってくんだ。なにより、ここはもうブリテンの領域だよ。いつ海賊狩りが現れたっておかしくないんだ。アタシにゃお嬢から部下を預かった責任があるんだ!」

 オーガは怒鳴るように言った。


 黒髭海賊団は、カリブ最強と恐れられている。

 だが、その構成員のほとんどが、元奴隷や、いわれなき差別を受けて来た弱者である。

 その女達が一つに集い、力を合わせているのは、ひとえにテュッティという絶大なカリスマがあってこそなのだ。 


 テュッティは黒髭海賊団にとって王であった。

 そして、王の不在に民は揺れている。

 王が優秀であればあるほど、その動揺は、盤石な黒髭海賊団に亀裂を走らせているのだ。


 と、


「お前達はそれでも……アイツの片腕なのか?」

 ルカはことさら辛辣な声を出す。


「なんだって!?」

 言い争っていたオーガとシルフィは、揃ってルカを睨んだ。


あいつがこの(、、、、、、)土壇場で引く(、、、、、、)ような玉かよ(、、、、、、)。行ったに決まってるだろう。罠とわかっていても、この海の先の向こうに!」

 ルカは真っすぐに、バハマのナッソーがある方角を指差した。


「それは何か確証があっての言葉かい!? あてずっぽうなら止めてくんな!」

「俺達がその『確証』さ。コロンビア海軍が何の理由もなく、これだけの艦隊を率いてブリテンの領海を侵すと思うか?」


「…………確かに偶然にしちゃ、都合がよすぎるね。アンタ達がここに居る理由と、お嬢が消えた理由が通じってるっていうのかい?」


 オーガの問いにルカはうなづくと、これまでの経緯を説明した。

 《鮮血》のオクタヴィアとの死闘と、彼女が最後に言った台詞。


 そして、テュッティの生き別れた『妹』の存在を――――


「ま、待ちな! 『妹姫』様が生きていたなんてそれこそ夢物語さ! お嬢がそんな眉唾話に騙されるもんかね!!」

 オーガはドンッと船縁を叩いて叫ぶ。

 怒りや後悔といった様々な感情にかき乱され、辛そうに顔をしかめる。


「オーガ……どうしたというのです?」

 相方の尋常ではない様子に、シルフィが怪訝な顔をした。


「そう断言できるだけの理由があるんだな……?」

 と、ルカ。 


「以前に言っただろう? アタシは姐さんの代から仕えていると」

 オーガは重々しく口を開いた。

 ルカ達はその言葉に耳を傾ける。


「姐さんが授かった二人の子は『ハイランド王家』の血を継いでいる。当然、護衛の騎士がつく事になった。当時のアタシは……妹姫を護衛する騎士の一人だったのさ」


「どうして、話してくれなかったのですか?」

 シルフィが胸に手を当て言う。


「話せるわけがないだろう? 姐さんの子を守り切れずに生き恥を晒しているんだ。当時の仲間は何人も腹を切った。でも、アタシは生きると決めた。ブリテン王の頭をこの鉄塊で叩き潰すまでは、妹姫の仇を討つまではってね。復讐の業火に身を焦がしていたのは……お嬢だけじゃないのさ」

「死体を確認したのか?」


「谷底に落ちた馬車を探して、何ヵ月も川底さらい、下流の村を全て当たった。けれど結局……妹姫の亡骸も遺品も見つけられなかった。今思えば、お嬢が奴隷市に出向いて女を買うのは、ずっと……妹姫を探しているのかもしれないね」

 オーガは力なく肩を落とした。

 見上げるような巨漢の女戦士が、今は――悲嘆にくれる老婆のように小さく見えた。


 と、その時。 

 永久に癒えぬ心の傷をさらけ出したオーガの元に、一人の少女が歩み出た。


「――――私の名はエミリアーナ。コロンビア海軍の水兵です」

 エミリーはそう言って、お辞儀をした。



「ッ!?」「な……ッ!?」

 うろんげな表情で顔を上げたオーガとシルフィは、エミリーを見てハッと顔色を変える。

 エミリーの中にテュッティの面影を見たのだろう。


 オーガは口を震わせると、ルカに目を向けた。


「エミリーは幼い頃の記憶をなくしている。覚えているのは名前だけなんだ」


「ルカ様のおっしゃるとおり、私には幼い頃の記憶がありません。身の証である指輪も先日失ってしまいました。でも……それでも……あなたを、あなたを覚え(、、、、、、)ています(、、、、)

 エミリーは一歩ずつ、ゆっくりとオーガに歩み寄る。


「多忙なお母様の代わりに、幼い私をいつも守ってくれた……あなたの大きな背中を――」

 エミリーはそこで言葉を切ると、オーガの逞しい腕にソッと触れ、


「――――カレタカの子(、、、、、、)ヒューリット(、、、、、、)


 と、真っ直ぐに言った。


「ああ、神よ。本当に、こんな……こんな奇跡がッ、……エミリアーナ様が生きて、生きておられたぁ……」

 鬼の目にも涙というように、オーガは嗚咽を漏らしてその場に片膝をついた。


「……ヒューリット」


「守護の役目を果たせずに賊を逃し、おんみに危険を及ぼした不甲斐なきこの身を……どうか、御許しください」

 エミリーの前で片膝をつき、頭を垂れてオーガは言う。

 その言葉には、これまでの海賊らしさは欠片もなく、深い知識と教養を感じさせるものであった。


「顔を上げて、ヒューリット。私はまだ多くの記憶をなくして居ますが、それでもあなた達が必死に、私とお父様を守ってくれた事を覚えています。いいえ、思い出す事が出来たのです」

 エミリーもまた、涙を流しながらオーガに手を差し伸べる。


「エミリアーナ様……」

 オーガは涙で濡れる目元を乱暴に拭うと、エミリーの小さな手を両手で掴んだ。


 と、 


「エミリーがテュッティの実の妹だと気が付いたのはつい最近だ。秘密が漏れるのを恐れ、俺はこの事を誰にも告げなかった。エミリー自身にもな。だが、俺より先にこの事に気付いた奴がいた」


「それが……鮮血のオクタヴィアだと?」

 シルフィが険しい表情で言う。


「あの狂人め……」

 憎々しげにオーガは吐き捨てた。


「奴は一時期、黒髭に身を寄せていたんじゃないのか?」

「お嬢様があのように血臭を漂わせる者を受け入れるはずがありません! 奴はふらりと現れ、情報を売りに来たのです」

「情報?」

「ステラ・マリスの航海ルートと、正確な停泊位置です。奴はまるで……相手の欲しいものがわかるよな口ぶりでした」


「!?」

 アテネが驚いた表情で、口許を押さえた。


「お嬢様が見返りに何が欲しいか尋ねると、オクタヴィアは不気味に笑って『見返りなら、もう貰っている』と言って姿を消しました」


「おそらく……その時にテュッティが指に嵌めている《ヘスティアの竈》を見られたんだな」


「どういうことだい?」

 オーガの問う。

 

「オクタヴィアはなんとか撃退出来た。だが……エミリーの指輪は奪われてしまったんだ。《暁の魔女》ウェルフリートが何者かは知らないが、もしそいつが裏でオクタヴィアと繋がっていて、何らかの方法で指輪を手に入れたとしたらどうだ?」

 と、ルカが答える。


「では、ティファニア様は!?」


「あいつは……生き別れとなった妹の指輪を見せられて、冷静を保てるほど冷酷な女じゃない。罠とわかっていても、仲間を置いていくとわかっていても、行くだろうさ」

 ルカには痛いほど、テュッティの考えが理解出来た。

 葛藤に葛藤を重ねた末に、罠だと仲間を危険に晒すまいと一人で行ったのだ。

 死を――覚悟して。


「テュッティは間違いなくナッソーにいる。それも……危険な状態でだ。俺達はあいつを助けに行く。そう約束したからな。お前達はどうする。ここで仲間割れを続けるか?」

 ルカはその場にいる全員を見渡し、問うた。


「――――行くに決まっているさね! 一度は捨てた命だ。今度はお嬢のために使わせて貰うよ!!」

 オーガが床を拳でドンッと叩いて立ち上がる。


「私も同じ想いだ! この命に変えてティファニア様をお救いする! そのためなら悪魔とだって手を組もう!」

 シルフィは挑むようにルカを見やる。


 オーガとシルフィはその瞳に光を蘇らせ、轟々と闘志を燃やす。


「行くぞ、ナッソーに! 俺達の手であいつを助けるんだ!!」

 ルカは拳を前に突き出し叫んだ。


 まず最初にアテネが「はい!」と言って拳を突き出し、次にオーガとシルフィが続く。

 最後に、エミリーが覚悟を決めた表情で拳を突き出す。



 コロンビア海軍史に残る戦いが、始まろうとしていた。










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