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  5


「――――やっ!」

 アテネの放つ蹴りが、マリナの槍捌きを凌駕して、その顔面を捉える。

 鼻先に白銀のソールレットが触れる直前で、アテネは蹴りを寸止め。風圧でマリナのピンクゴールドの髪が揺れた。


「……参りましたわ」

 マリナは覇気なく、槍を下げた。


 現在ルカ達は、バハマのナッソーに向かう航路上に居た。

 海に出ても訓練は欠かせない。

 むしろ、丘に居る時よりも訓練の頻度は高くなる。海兵にとっては揺れる船の上こそが戦場であり、陸の上とは勝手がまるで違うからだ。


 出港してから今日で二日目。

 晴天が続きで、風もよく吹き、この調子だと予定より少し早くナッソーに到着できるだろう。

 長く不調の極みにあったアテネは、《星天祭》の『夜』を経て一気に調子を取り戻し、その心身には気合いが漲っていた。


 だが、


「今日は集中に欠いているようですわ。訓練にならず申し訳ありません」

 マリナは意気消沈した様子で言った。


 絶好調のアテネに対し、今度はマリナが不調になっていた。

 槍捌きにいつもの鋭さはなく、これまでの訓練で一度も勝てなかったルカやアテネが、今日は何度も一本を取れている。


「えっと、今日は……このくらいにしておきましょうか?」

 流石に訓練どころではないと、アテネが気を聞かせて言う。


「そうだな」

 ルカもコクリと頷いた。

 マリナは無言のまま、一度だけルカを見ると踵を返してその場を後にした。


 と、


「行って下さい、ルカ」

 アテネがルカの背中に寄り添い言った。


「だが……」

 昨日は誤解とはいえ、アテネにいらぬ不安を与えてしまった。

 ルカはその事を深く反省していた。

 恋仲になったからには、互いに関係を維持するための努力をしなければならないのだ。 


「セラフィナ隊長がいない今、マリナが私達の隊長です。彼女の不調は隊全体の不調に繋がります」

「確かに、な」


「それに……私は長い不調で多くの仲間に迷惑をかけました。でも、マリナは文句の一つもいわずに待っていてくれました。私が戻ってくるのを信じてくれたのです。だから私も、マリナが悩んでいるなら手を差し伸べたい。助けたいと、支えたいと思うのです。だから――」

 アテネはそこで言葉を切ると、両手をルカの背中に添え、


「行って下さい。ルカの力でマリナの苦しみを癒せるなら、行くべきです」

 と、言って、背中を押してくれた。


 マリナの身体の秘密を、ルカは誰にも話していない。

 だが、昨日の誤解を解く過程で、アテネは多くを察してくれた。やましい事でないのなら、ルカの力――鬼狩りに関わる事なのだろう、と。 


「私達のマリナをお願いします!」

「わかった」

「あ、待って下さい」

「ん?」

 制服の袖を掴まれ、ルカが振り変えると、アテネは恥かしそうにモジモジしたあと、


「え、エッチなのは駄目ですから……ね?」

 頬を染めて、上目遣いで言った。


 可愛い嫉妬を焼くアテネに、ルカは改めて己を戒める。

 例え、大切な仲間だとしても相手は女性だ。

 恋人のアテネを悲しませないためにも、一線を引いて付き合わなければならないだろう。


 だが、同時に――アテネに対して、ムクムクと加虐心が沸き上がって来るのを押さえられず。


「エッチなのはアテネ担当だもんな。ちゃんとわかっているぞ」

 耳元でそう囁くと、アテネはボンッと顔を真っ赤に染めた。


     ◇


「――――マリナ」

 第二甲板の船尾にある士官用個室の前で、ルカはマリナに追いついた。


「る、ルカ様!?」

 追いかけて来るとは思っていなかったのか、マリナが驚いた様子で振り返る。


「様子がおかしかったから心配したんだ。身体は大丈夫なのか?」


「だ、大丈夫ですわ」

 腕を抱き締め、マリナは目を逸らす。


「本当か? また、無理をしているのではないだろうな?」


「…………ッ」

 マリナは頬を染めてうつむいた。


「押しつけがましいのは重々理解した上で言う。俺は、マリナ――あなたを尊敬している。一人の武人としても、仲間としても。だから、マリナが苦しんでいるなら力になりたい。俺に出来る事があるなら遠慮なくいって欲しい」

「え……遠慮なく……?」

「ああ、何でも言ってくれ!」


「なん、でも……」

 ゴクリ――と、マリナの喉が動き、蒼い瞳が潤む。


 そして、


「じ、実は……その……今朝から妙に、呪印が疼いて……」

 下腹部を押さえ、マリナは言う。


 人は嘘を吐く時、視線が泳ぐという。後ろめたさから相手を真っすぐに見れないのだ。

 多分に漏れずマリナの視線は宙を彷徨うが、ルカはそれに気付かず――


「何故、もっと早く言わなかった!?」 

 と、語気を強めて、マリナに詰め寄った。


「そ、それは……その……」

 遠慮しているのか、マリナは口を濁す。


「今すぐ呪印を見せてくれ」

 呪いのを軽減出来たと思っていたが、呪印自体は残ったままなのだ。

 もしかしたら、昨夜のうちに悪い影響が出たのかもしれないと、ルカは責任を感じた。


「こ、ここでは人目に着きますから……私の部屋に……」

「わかった」


 初めて入るマリナの個室は、私物の類がほとんどないのが特徴的だった。

 三畳ほどのスペースには、箪笥とベッドが一体になった寝台に、机と椅子。衣服をしまうロッカーなどが機能的に配置されている。

 小さな円形窓からは優しい光が取り込まれ、室内は意外と明るい。

 マリナは海尉になって日が浅く、この部屋は、これから彼女の色に染まっていくのだろう。


「さぁ、早く」

 ルカはせかすように言って、視線をマリナの下腹部に向ける。

 呪印自体はスカートに隠れて見えないが、体内のエーテルの流れに陰りは見られなかった。


「……………ッ」

 マリナは羞恥に耳まで真っ赤に染めながら、スカートの裾を掴んでおずおずと持ち上げる。

 露わになる白い肌と、下腹部に刻まれた禍々しい呪印。


 だが、同時に、薔薇のレースが艶めかしいバイオレットの下着と、黒いガーターベルトまでが見えてしまい、ルカは一瞬息をのむ。


(やましい事をしている訳でないんだ。意識するな。これは治療だ) 


 煩悩を振り祓うべく般若心経を心の中で唱えながら、呪印だけを凝視する。


「どう……でしょうか?」

「見たところ、活性化はしてないように感じられるが……」

「さ、触ってみては……頂けませんか?」


「試してみよう」

 先日も、呪印に手を伸ばした瞬間、蛇が具現化したのを思い出す。

 ルカは警戒しながら、ゆっくりと呪印に手を伸ばした。


 だが、


「ん……ッ❤」

 呪印に触れても、呪いは襲い掛かっては来ず、代わりにマリナが声を漏らす。


「痛むのか?」

「ら、いじょうぶ……です……」

「わ、わかった」 


「ん……ふぁ……ッ……❤」

 下腹部の呪印を撫でるたびに、マリナはどこか甘さを含んだ声を上げた。

 アテネの艶姿を思い出したルカは、頬を赤くして反射的に手を引こうとするが――


「もう……少し、もう少しだけ……撫でて下さい……」

 マリナは懇願するように、ルカの手を掴んだ。


「……わかった。マリナが楽になるまで続けよう」

 ルカは硬く目を閉じると、視覚情報を排除し、指先の感覚だけで呪印の気配を伺う。

 

    ◇


 マリナの生は、絶望と後悔により黒く塗りつぶされていた。


 己の欲望のままに邪神を蘇らせ、友も、仲間も、多くの民草を犠牲にした――クリサリスの《忌姫》。

 否、もはやクリサリス王家に、マリナという名は存在しない。

 名を唱える事すら禁忌とされ、王位継承権どころか、存在そのものを一族から抹消されたのだ。


 それがマリナの背負う重い十字架。

 寄る辺なき彷徨い人。


 いずれ、呪いに魂を侵され、愛の欠片もない行きずりの男に身を任せる運命だった。


 だが、


「……ッ……んッ……、……」

 マリナは今その男性に触れられ、必死に声を漏らすまいと指を噛んでいた。


 片手で短いプリーツスカートをめくり上げ、女性としての大事なところを晒し、下腹部を撫でられているという異常な状況。

 焼けるような羞恥に、心臓が早鐘の如く鼓動し、耳まで真っ赤に染める。 


(ああ、私は……なんてはしたない真似を……しているのでしょう……)


 恋人であるアテネに義理立てしているのか、目を硬く閉じて治療に専念するルカに、マリナは強い罪悪感を覚える。


 呪印が疼いているというのは、本当は『嘘』なのだ。


 身体は不調どころか、絶好調であった。

 この三年間、寝ても覚めても全身を苛んで来た、心臓を穿つような激痛も、骨が砕けるような苦しみも、血が沸騰するほどの疼きも――最初からなかったように消えている。


 己が身に起きた奇跡を、マリナは信じられなかった。


 信じられないまま眠りに落ち、朝に目覚めて――奇跡は本当に起きたのだと確信した。 

 もうすぐ心臓にまで達しようとしていた『呪いの茨』は跡形もなく消え去り、苦痛でしかなかった身体の疼きも完全に収まっていた。


(ルカ……さん……)


 国を追放されてから今日まで、呪いの苦痛と、理性を失う恐怖に、たった一人で戦って来たマリナにとって、ルカの存在は闇の中に差す一筋の光明。


 生きる希望そのものであった。


 もしかしたらルカなら、いずれ呪いそのものを消し去る事も可能かもしれない。

 砂時計から流れる砂を数えるような日々が、残された時間を指折る空虚な毎日が、昨日を境に一変したのだ。


 今なら、全盛期までとはいわないが、八割ほどの力を取り戻せている確信がある。


 なのに――先の訓練で、マリナはこれまでにない無様を晒した。

 集中を欠き、槍捌きは見る影もなく。

 思い当たるげ原因は一つしかない。


「………………ッ❤」

 マリナは声を押さえながら、熱を帯びた蒼い瞳でルカを見やる。


 ルカの視線を感じるだけで、身体は言う事を聞かず、鼓動は早くなり、息が苦しくなるのだ。

 大和の国からやって来たという神秘的な風体の『少年』。

 ルカが男だとマリナは一目でわかった。


 神の呪いにより男が海に出れない世界で、本来なら有り得ないはずのイレギュラーな存在を、この忌まわしき呪印だけが教えてくれたのだ。



「――――リナ、聞いているのか、マリナ?」


 思考の渦に引き込まれていたマリナは、その声にハッと顔を上げ、漆黒の瞳と視線がぶつかり合う。


「は、はい!」

 胸がドキンと高鳴り、マリナは慌てて返事をする。


「どうだ? 少しは楽になったか?」

 下腹部の呪印に手を乗せたままルカは問う。


「え……ええ、ルカ様のおかげで……随分と身体が軽くなったように感じます。もう、大丈夫ですわ」

 さらりと嘘を吐く自分に嫌悪感を抱く。


「それならよかった」 

 ルカは下腹部から手を引くと、身体を離した。


「あ――――」

 名残惜しさを覚えるが、これ以上引き留める理由も見当たらず、マリナは持ち上げていたスカートを下ろした。


「遠慮する必要はない。これからも調子が悪くなったらすぐに言ってくれ」

 純粋にこちらの身を案じるルカの言葉に、下心は欠片もなかった。


あったら(、、、、)よかったのに(、、、、、、)……」

 心情が思わず口からこぼれ出た。


「ん?」


「い、いえ、なんでもありませんわ……」

 マリナは赤面して、顔を隠すようにうつむいた。

 ルカとアテネの関係は、見ているだけで幸せになるほど純粋なものだ。

 自分のような咎人が穢していいものではない。


(――――この感情は、恋や、愛といった綺麗なものではありませんわ。この呪印が男を求めてそうと錯覚させているだけ。そうに……違いありませんわ)


 だからこの胸の高鳴りも、身体の火照りも、己の意思ではないのだと、マリナは自分に自分を言い聞かせる。


 それが無駄な事だとわかっていながら――


     ◇


「あ、ルカ! おかりなさい!」

 ルカの姿を見止めたアテネは、顔を輝かせて走り寄って来た。

 アテネの隣には、士官候補生の制服を纏うルテシャがいて、なにやら作業をしていた。


「ただいま、アテネ。で、二人は何をしているんだ?」

 ルカがそう尋ねると、


「見て下さい! ついに新しい銃が完成したんです!」

 アテネは嬉しそうに二丁の銃を掲げて見せた。


 目が覚めるような蒼銀色の双銃で、門外漢のルカからして美しい銃だとわかる。

 銃の外装に施されるエングレーブと呼ばれる装飾には、緻密で精巧な人魚が描かれ、それ自体が紋章の効果を持っていた。


 ルカが最も注目したのは、人魚に抱かれるように嵌め込まれた『クラーケンの神珠』だ。

 二つに分けられた神珠は双銃の核となっており、非常に強大なエーテルが内包されていた。


「銃身には神珠の膨大なエーテルに耐えられるよう、指示通り『真銀』と『蒼霊鉱石』の合金を使ってある」

 と、ルテシャが言う。

 まるで童女のように背は小さいが優秀なスナイパーである彼女は、ガンマイスターの資格を持ち、アテネの《双銃グラウクス》は彼女が制作したものだ。


 他にも、魔女っ娘という裏の顔を秘めているのは、三人の秘密である。


「凄いです、ルテシャ! 以前のものより格段に扱いやすい!」

 双銃を様々なポーズで構えるアテネは、新たな相棒に満面の笑みだ。


「凄いのはアテネの設計。神珠の膨大なエーテルに耐えられるよう計算されていて驚いた。あと、身体の成長に合わせて、銃床や銃身の長さを微調整してある」

 いつもは無表情なルテシャだが、銃の事となると違うのだろう。

 その頬は、興奮により僅かに朱がさしていた。


「銃身のこの部分は、何に使うんだ?」

 ルカが尋ねた。

  

「それはバヨネットラグと言って、銃剣が収納されているんですよ!」

 アテネはそう言って、銃のグリップ横に取り付けられた安全装置を解除する。

 シャキン――と、鋭い音がして銃口の真下に、鮮やかな水色に輝く刃渡り十八㎝ほどの銃剣が生え出たではないか。


「!」

 西洋のからくり仕掛けに、ルカは目を丸くして驚いた。


「海龍の牙から削り出した刀身は、この世で最も硬くて鋭い刃の一つ」

 ルテシャが自慢げに言った。


「これで近接戦闘力はさらにアップしました。これからも、ルカの背中は私が守りますからね!」

 アテネは双銃を両手に、頑張りますのポーズを取る。

 重そうな胸がゆさんと揺れた。


「頼もしい限りだな」

 愛するアテネが強く美しく成長していく様は、ルカにとっても良い刺激であり、同じ武人として得難い好敵手であった。


「次は神珠エーテル出力が合っているか調整する。射撃テストを」


「はい!」

 ルテシャの指示にアテネはうなづくと、船縁にある四角い箱を操作。

 海上に的となる十個の水球が発生した。


 その光景に、アテネと出会ったばかりの頃を思い出し――ルカは懐かしさを覚える。


「――――行きます」 

 片腕で銃を構え、アテネはアイアンサイト越しにターゲットを捉える。

 トリガーを引き絞った。


 次の瞬間。


 眩い閃光がほとばしり、ジャインッ! と空間を貫く音がして、発射されたのはクラーケンが放ったあの『超圧縮された水の刃』であった。

 蒼い光子をまき散らしながら放出を続ける水刃は、十個の的を一瞬で消滅させると、遥か彼方まで飛来し、海を真っ二つに切り裂いたではないか。


 発射の衝撃に耐えきれなくなったアテネが尻餅をつくと、水刃はそのまま青空に向かい、天と海を斜めに斬り裂きながら虚空へ消え去った。


 断ち割られた海が瀑布の滝となってゆっくりと元に戻っていく非現実的な光景を、ルカとアテネとルテシャは口を開いたまま見つめていた。


 幾つもの渦巻きが発生し、離れたこちらにまで大波が押し寄せる。

 遠く離れた海面だったからよかったものの、近くであったなら、艦隊に大きな被害が出ていたかもしれない。


「さ、流石にこれは強力すぎます!!」

 尻餅をついたアテネは、困った表情で銃を掲げる。


「な、なんて威力だ……流石に肝が冷えたぞ。規模こそ違うが今のは、クラーケンが放ったブレスそのものじゃないか」

 クラーケンの神珠を組み込んだ新たな銃は、聖霊器に匹敵するエーテル干渉能力を持つ。

 だが、まさか海の悪魔の権能をそのままに扱えるとは思いもしなかった。


「この威力では戦闘には使えません。なにより、ステラ・マリス号にも被害が出てしまいます」


 銃は大砲とは違い、威力が高ければよいというものではない。

 銃に求められるのは、確実に弾丸が発射される確実性と、精度だ。

 鋭すぎる剣が脆いのと同じように、強すぎる威力は、船上での戦いでは不向きであった。 


「銃の調整は完璧だった。問題はアテネ……あなたにあるわ」


「私に……ですか?」

 アテネはきょとんとした顔で、自分を指差す。


「右手を出して」


「はい」

 差し出されたアテネの手を掴んだルテシャは、目を閉じ、エーテルを測る。

 しばらくして、目を開いたルテシャは、


「やっぱり……聖霊力の数値が、銃を作るときに測ったものと全然違う」

 と、憮然とした様子で呟いた。


「そ、そんなに違うのですか?」

「これまでの三倍から、四倍は増えている。異常な上昇量」


「え!? そ、そんなに増えているのですか!?」

 エーテル制御力には自信のあるアテネであったが、体内に内包するエーテル量に関しては人並みであった。

 だからこそ、テュッテと共闘した時は、彼女が内包する膨大なエーテル量に驚愕したものだ。


「どうにかなるか?」

 ルカが尋ねる。

 ルテシャは自信ありげにうなづいた。


「使用者のエーテルを呼び水に、神珠から引き出したエーテルをチャンバー内で融合圧縮して、砲身内に刻まれた紋章回路で聖霊術に転換している。だから、アテネ側の出力があがったなら、真珠側の出力を下げればバランスはとれる」


 ルカとアテネは「なるほど」という顔をした。 


 エーテル干渉には様々な形がある。

 触媒を使って血中のエーテルを体外に引き出すのが一般的だが、中には触媒自体が大量のエーテルを貯め込む機能を持つものがある。

 聖霊器などが後者にあたった。


「ルカ――あなたが持つその『刀』は、埒外といっていいエーテル干渉能力を持っているけれど、それ自体にエーテルを貯め込む力はない。でも、この銃に組み込まれた神珠は、それ自体が無尽蔵ともいえるエーテルを内包しつつ、絶大なエーテル干渉能力を持っている。流石は数百を生きた海の悪魔の核だけはある。それより――」

 ルテシャはそこで言葉を切ると、アテネに視線を向け、


「情報の開示を。エーテル増大の原因がわからなければ、対処の確実性が弱くなる」

「げ、原因……ですか?」

 アテネは「どきーん」とした様子で肩を震わせた。


「そう。体内のエーテル量が何倍にも膨れ上がった理由を教えて」


「確かに気になるな。何か思い当たる節はあるのか、アテネ?」

 もし悪い事が原因だとしたら大変だ――と、アテネの身を心配してルカは言う。


「そ……それは……その……」

 アテネは何故か顔を真っ赤にして、一度『こちら』を見たあと、さらに頬を赤く染めた。


 ルカとルテシャは、挙動不審なアテネをいぶかしみながら返事を待つ。


 そして、


「せ、成長期という事で……許して下さい」

 アテネは下腹部を押さえると、茹で上がったタコのように真っ赤になって言った。


「…………わかったわ」

 ルテシャは得心した様子でうなづき、ルカだけが首を傾げるのであった。







成長期だから仕方ないよね。

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