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 目を覚ましたルカの視界に映るのは、見知らぬ天井と、天外付きの豪華絢爛なベッドであった。

「ここ、は……何処だ? アテネは――」

 痛む頭を押さえ、ルカは身体を起こした。

 意識がはっきりしない中、まるで王公貴族のように贅を尽くされた室内に視線を巡らせ、アテネを探す。

 結論から言うと、アテネはすぐ隣にいた。

 ベットが膨らんでいるのでシーツをめくってみると、その中で丸くなり、ルカの左手をギュッ掴んで眠るアテネの姿があった。

「アテネ……」

 その穏やかな寝顔に、ルカは胸に一気に安堵が広がる。

 ここが何処であれ、例え地獄であろうとも、アテネが側にいるなら何の問題もなかった。

 と、

「目覚めたようね」

 声は、薄暗い部屋の真ん中から響いた。

 視線を向けると、ボディラインがくっきり浮かぶ、黒いドレスを纏った真紅の髪の女が、悠然とソファーに腰かけていた。

「テュッティ! よかった。お前も無事だったか!」  

「ええ、お前のおかげでね。どこまで覚えていて?」

「クラーケンと戦っていて、奴を斬ったまでは……。ここは何処なんだ?」

「黒髭海賊団のアジトの一つよ。あの爆発を見て、近くの海域で私を捜索していた仲間の船が駆け付けたわ。で、意識のないお前を連れて来たというわけ。二日前の事よ」

「二日も眠っていたのか。クラーケンは?」

「お前が倒したわ。本当に見事だったわよ。惚れ惚れするぐらいにね」

「そうか……」

 これで非業の死を遂げた女達の魂に、報いてやる事が出来ただろう。 

「体調は?」

 テュッティにそう問われ、ルカは身体の具合を確認する。

 雷神が体内で暴れまわったにしては、身体の何処にも異常はない。

 いや、異常がなさすぎた。

 なにより、己の身体のエーテル流を見てとったルカは、今までの数倍に匹敵するエーテルが駆け巡っている事を知る。

「治癒聖霊術でもかけてくれたのか? すこぶる調子がいいよ」

「そう。ならいいわ」

 立ち上がったテュッティは、テーブに置かれたクリスタルの酒瓶を手に取ると、蓋を開け、黄金の杯にラム酒を注ぐ。

 その杯を手にベッドまで歩み寄ったテュッティは、ルカの隣に腰掛けた。

 腰まで届く深いスリットからは、網目のタイツに包まれたふとももが艶めかしく覗いた。

「飲みなさい、気付け薬の代わりよ」

 杯を差し出すテュッティ。

 大きく胸が開いたドレスから、豊かに実った二つの果実がこぼれ落ちそうになっていた。

「あ、ああ……すまない」

 テュッテの匂い立つような色香に、ルカは内心動揺しながら杯を受け取る。

 飛び上がるほど高い酒なのだろう。

 以前にメルティナ艦長から貰った、エルドラドに匹敵する美味い酒が、五臓六腑に染み渡る。

「ふふ、美味しいでしょう? 私のお気に入りなの」

「確かに美味いな……」

 これまでとは明らかに様子が違うテュッティに警戒しながら、もう一口飲もうとしたところで、

「駄目よ。空きっ腹に大量の酒は毒。一口にしておきなさい」

 テュッティに止められた。

「わかった」

 杯を返すと、残ったラム酒をテュッティは煽り飲む。

「お前が口をつけたというだけで、何倍も美味しく感じるわ」

 テュッテは淫靡に囁いて、真っ赤なルージュが引かれた唇で杯に口付けをする。

 これには、流石のルカも顔を赤くした。

「酔っているな?」

「私を酔わせたのは、お前よ……ルカ」

 テュッティはそう言ってルカを押し倒すと、その身体の上に馬乗りになる。

 金の杯が床に落ちる音が、ゴトリと響き渡る。

「一目見たときからお前の事を気に入った。その黒い髪も、瞳も、この私に挑んできた度胸も、全部欲しいと思ったわ」

「俺はもう、誰の奴隷にもならない」

「そうね。お前は私を拒絶し、私の頬を傷付け、誇りまでズタズタに切り裂いた。憎くて、憎くて、お前を殺す夢を何度も見たわ。以前に言ったわよね。強すぎる憎悪は、愛情と同義だと。私はお前を殺したくて、殺したくて、同時に、身も心も屈服させたいと思うようになっていたわ」

「人を呪わば穴二つという諺がある。アテネを傷付け、俺の心に仄暗い炎を灯そうとしたお前は、同じ炎に焼かれてしまったんだ。恐怖と絶望と憎しみが混在する冷たい炎に」

 ルカの漆黒の瞳の奥に宿る暗い炎を見てとったテュッティは、うっとりと頬を染める。

「そう。呪いは通じていた。お前の心に仄暗いの炎を灯す事が出来ていた」

「そうだ」

「なのにお前は私を助けた。私を憎んでいるはずなのに、殺したいと思っているはずなのに、二度も私の命を救って見せた。何故なの? どうして私を助けたの? あの時は上手くはぐらかされたけど、今度はそうはいかないわ! さぁ、答えなさい!」

 何処に隠し持っていたのか、短剣をルカの胸に突きつけテュッティは問う。

 確かにテュッテの言う通り、仁の心だけでは憎しみは消えない。

 それでも、ルカが踏みとどまったのは、一つの理由があったからだ。

 正直にそれを答えれば、きっと自分は刺され、アテネにまで危害が及ぶだろう。

 だが、ルカはこの場で嘘がつけるほど、器用な男ではなかった。

「…………お前が、美しいからだ。斬るには惜しい女だったからだ」

 ルカは、テュッティの瞳を真っ直ぐに見つめいい放つ。

 強さではなく、容姿や年齢で情けをかけられるのは、武士にとって憤死するほどの侮辱であった。

 もし、ルカが戦場で、敵将から同じ台詞を言われれば、その場で腹を切って自害するだろう。

 当然、

「――――ッ!?」

 テュッティは言葉を失い、手に持った短剣を震わせる。

 凄まじい怒りが渦巻いているに違いない。

 怒りのままに短剣を振り降ろして来たら、すかさず反撃に移るため身構えるが――

 この時、ルカは大きな勘違いをしていた。

 テュッティには、最早ルカへの敵意はなかった。

 胸を焦がしていた仄暗い炎は、既に消え去っていたのだ。

 命を救われ、無人島で共に過ごし、強大な敵に立ち向かった事で、胸を焦がしていた愛憎が混ざりった炎のうち、『憎』だけが燃え尽き――『愛』が残った。

 テュッティは、ただルカの本心が聞きたかったのだ。

 好きになってしまった相手の、胸の内を知りたかっただけなのだ。

 例えそれが、どんな答えであっても。 

 手に持った短剣も、色気過多なドレスも、念入りに施された化粧も、初めて誰かを好きに少女にとって、己を鼓舞するための鎧であり、悪女を演じるための仮面であった。

 なのに、

「美しい……から?」

「ああ、そうだ。お前のように器量のいい女は、愛する男を見つけ、元気な子を産むべきだ」

 ルカはきっぱりと言い切る。

 それは古風ではあるが、大和の国では至極当たり前の考えであった。

「愛する男の……子を……」

 テュッティの頬がみるみる真っ赤に灼熱していく。

 ルカの答えは、好きな人に『どうして私を助けたの』と、問うたなら、『美しいお前に俺の子を産んで欲しいからだ』と返って来たようなものであった。

 トクン――と、テュッテの心臓が高鳴る。

 それは、一人の少女が恋に落ちた音であった。

 もう二度と戻れない恋の深みに。

「テュッティ?」

 真っ赤な顔で下腹部に指を這わせたまま、びくりともしくなった少女にルカは首を傾げる。

 と、

「お前は、もう……誰の奴隷にもならないといったわね?」

「ああ、そうだ」

「でも、私は……お前の身も心も屈服させたい。私のものにしたいの!」

 テュッテは真紅の瞳に、ギラギラした熱狂を宿らせそう叫ぶ。

 だが、

「――――諦めろ!」

 ルカは明確に拒絶した。

 なのに、テュッティはゾクゾクするような笑みを浮かべる。

「ええ、お前を屈服させるのは諦めるわ。だから、お前が――私を屈服させなさい!」

 テュッティはドレスの肩紐をほどいた。

 ハラリと薄絹が流れ落ち、豊かな胸がこぼれ出る。

 ただ大きいだけではなく、少女の性格を示すようにツンと前に張り出した胸は、触れれば指が食い込むのが想像出来てしまうほど、やわらかそうな曲線を描いていた。

 肌はピンク色に上気し、胸の頂きの突起は緊張に震え、全てをさらけ出す少女は、熱にうなされるように頬を赤く染める。

 ルカの血がカッと熱くたぎる。

「な、なにをしている!?」

「言葉通りよ。さぁ、私を屈服させなさい! 抵抗はしないわ!」

「馬鹿な真似はよせ!」

「駄目よ。お前には責任があるわ。私を救った責任がね。それでも私を受け入れられないなら、この短剣を奪ってでここを刺しなさい! お前のせいで疼いて、灼熱する、私の腹を!」

 テュッティは短剣を逆手に持つと、己の腹を刺す仕草をした。

 それは不器用なまでの求愛であり、狂愛であった。

「このっ!」

 赤子が宿る腹を刺す仕草に、ルカの瞳には凄絶な怒気が宿る。

 直後に、ルカは全身に力を籠め身体を起こすと、目にも止まらぬ早業で短剣を奪い取る。

 そして、反対の手を振り上げると、テュッティの頬に振り下ろした。

 パンッ――と、乾いた音が鳴り響いた。

「きゃ!?」

 テュッティが小さな悲鳴を上げてベッドに倒れ込む。

 短剣を部屋の端に投げ捨てたルカは、

「それが、嫁入り前の娘(・・・・・・)のする事か(・・・・・)!?」

 と、怒声を張り上げた。

 テュッティは頬を押さえて、ぽかんとした顔でルカを見上げる。

 ルカは怒り覚めやらない表情でテュッティを見下ろす。

 と、その時。

「むにゃ、喧嘩は……らめです……よ……」

 ルカが使っていた枕を抱き締め、アテネが寝言を呟く。

「…………」

「…………」

 ルカとテュッティは、互いに黙したまま、気持ちよさげに眠るアテネに目を向けた。

「ぷっ」

 テュッティがおもむろに吹き出した。

 笑いはどんどん大きくなり、足をバタバタさせて笑うに至る。

「あはははっ! よ、嫁入り前の娘がって、くくっ……お前は本当に、陸の男(・・・)のような物言いをするわね」

 笑い過ぎて涙が出たのか、目じりを拭いながらテュッティは言った。

「そんなにおかしいか?」

「おかしいわ。でも、不快じゃない。以前にも私が腹を叩いたとき、同じ風に怒ったわね」

「自分を大事にしない女は好かん」

 鬼狩りの一族に生まれたルカは、幼い頃に一度だけ祖父に連れられ、鬼に拐われ助け出された女達を見せられた。

 彼女達の腹には、一様に刀傷があった。

 腹に宿った鬼は、母胎を食い破り生まれでる。

 女を救うためには腹ごと鬼を殺すしかない。その結果、一生子を宿す事が出来なくなったとしても。

「そう。わかったわ」

 身体を起こしたテュッティは背を向けると、ドレスの肩紐を結び直す。

「立つのに手を貸して貰えるかしら。お前にぶたれて、脚に力が入らないの」

「手を上げて、すまなかった」

 ルカはベッドから降りると、テュッティに手を差し伸べた。

 手を掴んだテュッティは、引っ張る力に逆らう事なく立ち上がると、そのままルカの胸に倒れ込む。

「大丈夫か?」

「いいえ、平気ではないわ。お前のせいで頬は痛いし、胸は苦しいし、身体が熱くて……今にもとろけてしまいそうよ」

 テュッティは蕩けるように甘く囁いて、ルカの唇に吸い付いた。

「――――ッ!?」

 ルカは慌てて顔を身体を離した。

「受け取ったわね」

「押し売りだ」

「私の初めてをくれてやったのよ。返品は効かないわ」

 初めてと聞いて、ルカは驚きに目を見開く。

 あまりに直接的で、真っすぐなテュッティの態度には、誤解しようのない好意が籠められていた。

「テュッティ、お前の好意は嬉しい。だが、俺には心に決めた相手がいる」

 ルカにはその想いに応える事は出来なかった。

 ところが、テュッティは想定の内だという風に笑みを深めると、その真紅の瞳を、不敵に、挑戦的に、輝かせたではないか。

「知らなかったの? 恋というのはね……障害があるほうが燃え上がるのよ。それに考えてもみなさい。お前は海軍の犬で、私は海賊の頭。本来であれば絶対に相容れない私達が、今はこうして……口付けを交わしている。この世に不可能なんてないのよ」

「この世に不可能なんて……ない……」

 その言葉に、電流が駆け抜けたかのようにルカの思考に閃くものがあった。

「どうしたの急に黙り込んで?」

 様子のおかしなルカに、テュッティは首を傾げる。

 だが、ルカは返事をする余裕がなく、テュッティの言葉を頭の中で反芻していた。

「まぁ、いいわ。今日はそこで寝ている子憎たらしいマーメイドに免じて引いて上げる。お前も目覚めた事だし皆で食事をしましょう」

 テュッティはそう言って、ベッドの脇にある鈴を手に取ると、二回鳴らした。

 ほどなくして、部屋の扉がノックされる。

「――――どうなさいました、姫様」

 と、扉の向こうから召使であろう女の声が響く。

「食事の用意をして頂戴。三人分……いえ、よく食べる子がいるから四人分必要かしら」

 テュッティは、アテネを一別する。

「かしこまりました」

 召使の女は恭しくそう言って、扉の前から気配を消した。

 と、

「その子はお前の看病で丸二日何も食べてないの。起こすのはお前に任せるわ」

 憎み合う敵同士だった三人が、今は一緒に食事をするのが当たり前になっていた。

 だが、ルカはこの奇跡のような関係が長く続かないと知っていた。

 何故なら、ここはもう無人島ではないのだ。

 元の世界に戻ってきたのだ。

 無人島では必要なかったそれぞれの立場が、しがらみが、いずれ三人の関係を壊すだろう。

 それを防ぐ手だては、悲惨な未来を回避する手段は一つしかない。

「――――テュッティ」

「なにかしら?」

 腰に手を当て、テュッティはこちらを振り向いた。

 ルカは歩み寄ると、テュッティの懐に入り込む。

「え?」

 突然の事に虚を突かれ、無防備を晒すテュッティの腰を強引に抱きよせる。

 身体が隙間なく密着し、テュッティの大きな胸が柔らかく形を変えた。

 ルージュが引かれた唇から「ん」っと、甘い吐息が漏れ、鼻先が触れ合いそうな至近距離でルカはテュッティと瞳を合わせる。

 真紅の瞳は、動揺と、困惑と、微かな期待に揺れていた。

 そして、

「海賊を辞めろ、テュッティ!」

 ルカは燃えるように熱く、そう言った。

「――――なっ!?」

「もう一度言う。海賊を辞めるんだ!」

「わ、笑えない冗談だわ。ふざけてるの!?」

 テュッティは激高した表情で、ルカの腕を振りほどこうとする。

 だが、

「俺は本気だ!」

 ルカはさせじと、テュッティの身体を拘束するように抱きしめる。

 相手を説得するには、自分もまた本気である事を示さなければならない。

「私の生き方は私が決める。例えお前であっても指図される謂れはないわ!」

「正直に本心をいう。俺は、お前が気に入っている」 

「な、なにを……ッ」

 抱き締める腕に力を籠めるルカに、テュッテは動揺するように瞳を揺らす。

「無人島での生活は、苦労もあったが楽しいものだった。お前とアテネの二人がいれば、毎日がお祭りのようだったからな。だが、俺達は戻って来たんだ。しがらみにまみれた現世に」

「それが、私が海賊を辞める事とどう関係があるというの!?」

「俺とアテネは、明日にでもここを立つ」

「か……勝手に帰ればいいじゃない! お前達がいなくなればせいせいするわ!」

「俺は寂しいよ。アテネもきっと同じだろう。よく考えてくれ、テュッティ。お前がこのまま海賊を続ければ、いずれ必ず……俺達は、敵としてあいまみえる事になるんだぞ?」

「――――ッ!」

 テュッティは小さく息を呑む。

 想像したのだろう。

 その時に起こる凄惨な殺し合いと、悲劇的な結末を。

「俺もアテネも、お前に情を抱いている。絆を感じている。そんなお前と戦えば必ず刃が鈍る。刃が鈍れば誰かが犠牲になり――始まるのは憎しみの連鎖だ。そうなればもう、俺もお前も後には引けなくなる」

 ルカはそこで言葉を切ると、テュッティの腰を抱き締めながら、

「ここが分水嶺だ!」

 と、叫んだ。

「お前に守るものがあるように、私にも海賊を続ける理由があるわ!」

「承知の上で頼んでいる!」

 ルカはさらに強く、テュッティの腰を抱く。

 硬くて太い何かに、下腹部を突き上げるように押し上げられ、テュッティは息を乱す。

「駄目よ! 私が大きなリスクを背負うのに、お前は何もないじゃない! こんな条件では取引にもならないわ!」

「なら、どうすればいい?」

「私が海賊を辞めるに見合うリスクを、お前も背負いなさい!」

「リスクを背負う……」

「そうよ。そうでなければ納得できないわ。私の肩には何千、何万という女達の命が乗っているのだから!」

「俺が相応のリスクを背負えば、海賊を辞めるんだな?」

「約束は出来ない……でも、真剣に考えてみる……」

「わかった。望みを言え」

 ルカは覚悟を決めて、そう言った。

 テュッティは、しばらくのあいだ逡巡すると、キッと顔を上げ――


「お前の――『秘密』を教えなさい!」


 と、言い放った。

「………俺の秘密か」

「あの夜……水浴びをするお前の姿が目に焼き付いて離れないの。私達の身体とは明らかに違うあの背中が……」

「やはり、あの時の山猫はお前達か」

「肝心なところは、その……見えなかったわ」

 テュッティは顔を真っ赤に染め、抱き合うルカの下腹部から感じる灼熱した何かに腰を震わせる。

「…………」

「さぁ、教えなさい! お前はなんなの!? 私を惑わせるこれは一体なんなの!?」

 テュッティの問いに答えるのは、ルカにとって大きなリスクとなるだろう。

 だが、覚悟は既に決まっていた。

 自分の正体一つで、眼前に立つ少女を救えるのなら、それが引いては愛する少女を守る事に繋がるなら――


「俺は――――」


 ルカはテュッティの耳元でたった一言。

 真実を囁いた。

 腕の中で少女の肢体が大きく震え、蕩けるようにカーペットに腰から崩れ落ちる。

 だが、この時。

 ベッドで眠る青い髪の少女が、微かに肩を震わせたのを、ルカは気付くことが出来なかった。


 それが新たな騒動の火種となる。


次はがっつりアテネ回。

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