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※少しエッチなシーンがあるのでご注意ください。

 

 服を着替えると言って、木陰に飛び込んだアテネは、

「はぁ、はぁ……わ、私……とんでもない真似をしてしまいました……」

 バクバクと鼓動する胸を押さえた。

 口付けをしたことが、今になって強烈な実感となりアテネを襲う。  

 アテネは、ルカに『特別な感情』を抱いていた。

 ルカと出会い、ルカと競い合い、ルカの真っすぐな生き様に触れたおかげで、アテネは長い悪夢から目覚めることが出来た。

 一生かけても返せない恩を感じているのに、ルカはいつも命懸けで自分を守り、常に側にいてくれる。

 恋を自覚したの時には、既に引き返せないほど好きになっていた。

 だが、アテネは、自分の恋には決して越えられない『性別』の壁があることも理解していた。

 この想いは伝えてはいけないもので、墓場まで持っていくつもりだった。

 なのに、

『凄い才能じゃないか。親父さんの『血』を立派に受け継いでるな』

 ルカが放つ言葉が、アテネの決意を、本当の意味で囚われていた心を牢獄を打ち壊してしまう。


 人魚に恋をした(・・・・・・・)人の王子のように(・・・・・・・・)――


「――――ルカ」

 その名を呟くだけで、胸がキュっと締め付けられる。

 感情が昂るあまり、口付けしてしまった。

 ルカの唇を奪ってしまったのだ。

 とんでもないことをしたと思った瞬間、ルカに強く抱き締められ、情熱的な言葉を贈られた。

 心が灼熱し、舞い上がるような喜びが全身を駆け巡る。

「だ、駄目です。早く戻らないと……」

 思考を断ち切るように、アテネは呟いた。 

 これ以上考えたら、胸のドキドキが大変なことになるだろう。

 なにより、早くテントを立てれば『続き』をしてくれるとルカは約束してくれたのだ。

「となれば、急いで服を着替えましょう」

 最初は水着のままで作業をするつもりだったが、今は、ルカに肌を晒すのが恥ずかしい。

 アテネは足に履く『ビーチサンダル』――にしか見えない《聖盾アイギス》で地面をこつこつ蹴る。

 すると、地面に水が渦を描き『ゲート』が開いたではないか。

 アテネはそこからメイド服を取り出した。

 これは主の求める形に姿を変える、聖霊器に付与された空間を操る聖霊術を応用したものだ。

 《聖盾アイギス》の本質は『水』であり、その真の姿は『白銀のソールレット』である。

 ソールレットは装着者によって大きさを変えるため、丁寧に畳んでギュムッと押し込めば、服なら二〇着は軽く入るのだ。

 アテネはその収納スペースに海兵の制服と、あとは全てメイド服を入れてある。

 もちろん、ルカの分も入っている。

 他には下着や化粧道具なんかも入っており、メイド姿のときは《双銃グラウクス》もこの中に入っていた。

「や……やっぱり、下着も変えときましょう」

 ルカの前では、常に綺麗な自分で居たいと思ったアテネは、お気に入りのロイヤルブルーの下着を取りだし、水着を脱いで履き替える。

 こうして完璧なメイドさんとなったアテネは、大きく深呼吸してルカの元へ戻ることにした。



「お、お待たせしました」

 拠点に戻ったアテネは、短いスカートの裾を掴んでお辞儀する。

 恥ずかしくてルカの顔を見れない。

「あ、ああ……」

 ルカの声も心なしか固い気がする。

「で、では、作業にはいりましょうか」

 アテネは両手をパチンと合わせて言った。

 作業自体はとてもスムーズに進んだ。

 ルカは頭の回転がとても早い。

 地面に描かれた設計図を見ただけで、こちらがしたいことを全て理解してくれる。

 さらに、手先が器用で要領もよく、アテネが作業を『一』進める間に、ルカは『九』の作業をこなす。

(自分の不器用さが、嫌になります……)

 アテネはしょんぼりとため息を吐く。

 定規を使わずに、綺麗な直線や円を描くのは簡単に出来るが、いざ竹を割るとなると途端に上手く出来ない。

 逆にルカはナイフ一本で、目測だけでピッタリ長さ七メートル、幅四センチの竹材をあっという間に切り出していく。

 職人芸とでもいえばいいのだろうか?

 みるみる材料が出来上がっていく光景に、思わず見惚れてしまう。

「よし、予備も合わせて四〇本だ。これで十分に足りるだろ」

 ルカはそう言って、ナイフを腰のベルトに仕舞った。

「は、はい、では早速組み立てていきましょう。地面に穴に穿つのは、私に任せて下さい」

 少しでも役に立たなければと、アテネはスカートの中から《双銃グラウクス》を急いで取り出した。

 その際、短い丈のスカートがふわりと、めくりあがってしまう。

 いつもはそれほど気にしないが、今回は違った。

 何故なら、ルカの熱い視線が、スカートの中に突き刺さったのだ。

(ひゃう!?)

 アテネは身体をビクリと震わせ、心の中で甘い悲鳴を上げる。

 気のせいではない。

 実は先ほどから、作業の合間にルカの視線を感じるのだ。

 ルカはいつも暖かく、優しく、こちらを見守ってくれる。

 だが、今日に限っては、ルカの視線から言い知れない熱を感じるのだ。

 まるで、視線が力をもって触られているような感覚に、アテネの身体は火照る一方だ。

 他の男性からなら不快と感じる視線も、ルカだけは別で、不快感は欠片もなく見られていることへの喜びしかない。

(ルカは女性ですが、私の事を魅力的だと思ってくれているのでしょうか? そうだと、嬉しいな……)

 アテネは確かめるように、チラリとルカの様子を伺う。

 ルカはごく自然に視線を逸らしたが、その頬が赤いのは太陽の陽射しのせいではないだろう。

 ドキンと、胸が大きく高鳴る。

 恋を知った少女が、意中の相手の『好み』を確かめたいと願うのは当然のことだろう。

 それが初めてなら、なおさらである。

(でも、どうやって確かめたらいいのでしょう? 方法なんてわかりませんし、あまりはしたない真似をして軽蔑されたら困ります)

 恋とはまるで解けない方程式のようだと、アテネはルカの事を考えながら銃の具合を確認する。

 いつもしている慣れた作業だ。

(やっぱり砂を噛んでいるわ)

 アテネは右脇に銃を挟むと、もう片方の銃の砂を払う。

 銃を脇に挟んだことで、胸がむぎゅと寄せ上がり、さらに砂を払う動作で、たわわと揺れ動く。

 次の瞬間。

 ルカの視線が、銃弾のように胸に突き刺った。

(はう!? み、見られています……)

 顔からボスンと火が吹き出す。

 確認したわけではないが、気配が、視線が、メイド服から見える胸の谷間に突き刺さっているのは間違いない。

 アテネは試しに、砂を払うフリをして胸を揺らしてみる。

(――――ッ)

 反応は劇的だった。

 視線の圧力が何倍にも増して、まるで胸をわしづかみにされたかのような感覚に、アテネは「んくっ❤」と、微かに声を漏らしてしまう。

 アテネは喜んだ。

 やましい感情は全くなく、ただ純粋にルカの好みが知れて嬉しかった。

 だがこの時、恋愛初心者で、己の魅力に無自覚なアテネは、己が如何に危険な挑発をしているかを理解していなかった。

 目の前にいるのはアテネに対して強い恋慕の情を秘めた、正真正銘本物の『男』であり、理性のタガが外れかけた飢えた『狼さん』である。

 そこへ、あまりに美味しそうで、可愛らしい兎さんが、食べてとばかりに耳を揺らしているのだ。

 今、この瞬間に、間違いが起きてもおかしくない状況であった。

「~~~~♪」

 そうとは知らず上機嫌なアテネは、鼻歌を歌いながら、砂地に描いた直径六メートルの円に添って水弾で十個の穴を穿つ。

 あとは、この穴に切り分けた竹を三本ずつ刺して扇型にし、竹が倒れないよう凍らせて補強するだけだ。

 編み組んでしまえば、氷が溶けたあとも全体が強度を支えるので問題ない。

 竹を曲げて編むように組み合わせ、蔦で結ぶという作業を繰り返し、徐々にドーム型のテントが完成に近づく。

 たが、最後の工程で問題が起きた。

 テントの最上部は高さ二メートルを越えるため、ルカでも手が届かないのだ。

「あまった竹で、脚立を作りましょうか?」

「いや、肩車しよう。その方が手っ取り早い」

 ルカはそう言って片膝をついた。上に乗れという事だろう。

「か、肩車ですか……」

 昨日までなら、何も気にすることなくルカの肩に跨がる事が出来ただろう。

 だが、意識してしまった今のアテネにとって、ルカに跨がるのはとても――そう、とても勇気のいる行為だった。

「遠慮するな」

「は、はい……ッ」

 アテネはルカの後ろに立つと、胸を押さえて大きく深呼吸した。

「で、では、乗りますね」

 スカートの裾をつまんで、馬に乗るようにルカに跨がる。

 その瞬間、背筋にゾクゾクと甘い痺れが走った。

(は、恥ずかしいです……)

 羞恥で顔が赤く染まる。

 下着を履き替えていて、本当によかった。

 ルカは身体を支えるために、アテネのふとももを両手で固定する。

「立ち上がるからしっかり捕まれ」

「は、はい」

 アテネはルカの頭に手を置いた。

 後頭部が下腹部に当たりドキドキが増していく。直後に浮遊感があり、ルカが立ち上がった。

 目線が一気に高くなり、目に写る光景が一変した。

「お、重くありませんか?」

「小鳥が乗っているように軽い。安心して作業をしてくれ」

「……わかりました」

 アテネはとにかく意識しないよう心がけ、作業を進めることに専念する。

 作業は順調に進んだ。

 凄くやり易いのだ。

 こちらの手が向かう先にルカが立ち位置を微調整してくれて、さらに全く揺れず、身体が安定している。

(ルカって、女性にしては凄くがっちりしてますよね……?)

 触れ合って初めてわかることがあるように、ルカに跨がったアテネは、その身体つきが自分とは違う事に気が付いた。

 長身細身の体型だが、華奢という言葉は当てはまらない。

 肩や腕には目に見えて筋肉がついており、恐らくは背筋も腹筋も逞しいだろう。

 肩幅もまるで男性のように、ガッチリしていて――

 アテネはいつの間にか、うっとりした表情でルカを見下ろしていた。

「手が止まってるが、やりにくいか?」

「い、いえ! なんでもありません! これで最後ですからッ!」

 我に返ったアテネは、慌てて竹を縛る。

 終わったことを告げると、ルカはゆっくりしゃがみ、優しく地面に降ろしてくれた。

「これで骨組みは完成だな」

「あとは、ヤシの葉を被せていくだけですね」

 アテネはそう言って両手を合わせる。

 手の隙間からルカを見つめるアテネの視線には、今までにない熱が籠められていた。

(あうう、こ、困りました。ルカの新たな魅力を発見してしまうなんて……)

 肩から降りてからというもの、アテネはついついルカの姿を追ってしまう。

 いや、ルカから目が離せなくなっていた。

 こうして二人は、互いを意識しながら作業を続け、終わった頃にはすっかり空が茜色に染まっていた。



「ふぅ、ようやく完成したな」

「中も広いですよ、ルカ」

「半日で作ったとは思えない出来だな。これなら雨風も防げるし、食糧も備蓄出来て、拠点としては文句なしだ」

 テントの入口は、海風の影響を受けないよう森側に作られている。

 さらに、虫除けの薬草をテントの入口に吊るしてある。

 天井には淡いエーテルの光で室内を照らす、『紋章式のカンテラ』が引っ掛けられてあり、必要に応じてすぐに取り外し可能となっていた。

 これもルカがボートに積み込んだ物の一つであった。

 食糧樽や、他の道具などの運び込みも既に終わっており、あとは食事をとって寝るだけだ。

 近くの小川で一日の汚れを洗い流し、夕食には昼の残りを温めなおして食べた。

 こうして、無人島での一日目は、終わりを迎えようとしているのだが―― 

 まだ、最後に大切なイベントが残されていた。

「そ、そろそろ、寝ましょうか……」

 焚き火の前で三角座りをしていたアテネは、落ち着かない様子で言った。

 パチリと火の粉が舞い、ルカはコクリと頷いた。

「火の始末をしておく、先に中へ入っててくれ」

「…………は、はい!」

 アテネはバネ仕掛けのように立ち上がると、テントの中へ駆け込んだ。

 天井のカンテラにエーテルを注ぐと、光が灯って室内を照らす。

「はうう、緊張に胸がドキドキします。これから、ルカと……」

 トクトクと鼓動を刻む胸を押さえ、アテネは用意されたベッドに目を向けた。

 ボートの帆を二つに織っただけの簡単な寝床だが、地べたに直接寝るより遥かに寝心地はいいだろう。

 枕の部分が高くなるよう帆の下には砂を盛るなど、随所に工夫が施されてある。

「ね、寝る準備をしないと……ですね」

 ルカに抱き締めて貰う――ただ、それだけなのに、身体が火照って頭が沸騰しそうだ。

 アテネは身体の熱を逃がすようにメイド服を脱ぐと、綺麗に折り畳み、樽の上に置く。

 ホワイトプリムに、チョーカー、リストカフスの順に外して、畳んだメイド服の上に置くと、最後にニーソックス脱いで完全な下着姿となった。

 これは、アテネがいつもステラ・マリス号で就寝するときの格好なのだが――

「って、な、なに脱いじゃってるんですか、私は!?」

 アテネは脱いでから、自分のあられもない格好に気が付いた。

 これからルカに抱き締めて貰うのに、下着姿だと絶対に変に思われるだろう。

(い、急いで服を着ないと!)

 アテネが樽の上のメイド服に手を伸ばした、まさにその時。

 ルカが砂を踏みしめる音が近付いてくる。

「はわわッ!?」

 もはや、着替える時間は残されていない。

 アテネは慌てて身を隠さんと、ベッドに飛び込み頭から帆を被る。

 と、

「入るぞ、アテネ」

 たっぷり四呼吸ほど置いてから、ルカが天幕の中へ入って来る。

「寝た……のか?」

 と、声を掛けられたが、アテネは返事が出来ず、真っ赤な顔で口を押さえる。

「そうか、寝たのか」

 どこかホッした様子のルカ。

 カチャカチャと装備を外す音が、妙に大きく響いた。

 紋章式カンテラの灯りが消え、室内は一気に暗くなる。

 ルカは帆をソッとめくり――そこで横になる下着姿のアテネと目があった。

「!?」

 ルカが驚愕に息を呑む。

「~~~~~~~~~ッッッ!」

 アテネは羞恥で、顔どころか全身を真っ赤に染めた。

 凍ったように時が止まり、二人は見つめ合う。

 ルカがゴクリと唾を飲み込む音に、アテネの心臓が震え――

「こ、これは違うんです! いつも下着で寝るので、つい癖で脱いでしまっただけなんです!」

 アテネは必死に釈明した。

 誰にどう思われても構わないが、ルカだけは違った。

 すると、

「くっ――――」

 ルカは堪えきれないといった様子で吹き出すと、笑いながら頭をぽむぽむと優しく撫でて来る。

「本当に可愛いなアテネは」

 穴があったら入りたいほど恥ずかしいアテネは、

「う~~~~っ」

 と、唸りながらルカに背を向け、真っ赤な顔を隠すように両手で覆う。

 直後、ルカに後ろから抱き締められた。

 そして、

「だが、気を付けろ。あまり可愛いと――食べてしまうぞ」

 耳元で囁かれるのは、凶暴なまでの愛欲。 

 息が止まり、心臓が止まり、直後に血が沸騰したかのように全身を駆け巡る。

 戦闘時の点鐘のように心臓が鳴り響く中、ルカはさらに離さないとばかりに、しっかりと抱き締めて来る。


 この時。


 アテネは本能的に理解した。

 自分はもう、ルカという名の牢獄に囚われてしまったのだと。

 だが、そこは温かくて、優しくて、なにより一人ではなかった。

 隣には、常にルカが居てくれる。

 塔の牢獄に囚われていた頃とは、正反対の幸せを、これ以上ないほど感じることが出来るのだ。

 ただ、

(た、食べるとは、一体何をされてしまうのでしょう?)

 学術知識は豊富でも、性に関する知識は真っ白なアテネは、言葉の意味を理解出来なかった。

 だが、理解は出来なかったが――察する事は出来た。

 声に籠められた感情が、お尻に食い込む灼熱する硬くて太い何かが、少女の身体を自然に反応させた。

(ドキドキします……) 

 アテネは胸を高鳴らせながら、食べられるのを待っていた。

 不安も恐怖もなく、あるのはただ喜びだけ。

 だが、いつまで経ってもその時は訪れず、気が付けば規則正しい寝息が聞こえて来るではないか。

(寝て……しまったのでしょうか?) 

 アテネはこっそり様子を伺う。

 ルカは目を閉じ、完全に眠りに落ちたようだ。

 静かに音を立てずに寝返ったアテネは、ルカの頬をツンツンしてみる。

 ルカは何の反応も示さなかった。   

 アテネはホッと胸を撫で下ろす。

 今は、ルカの想いを知れただけで十分だった。  

 性急な流れは色んなところに負担をかけ、思わぬところで崩れ落ちる。

 だから、ゆっくり流れて自然に道を作っていけばいい。

(おやすみなさい……ルカ)

 ルカに『むぎゅ』っと抱き着いて、アテネは目を閉じようとしたが――それを遮るように、下腹部に硬くて太い何かが当たるではないか。

(これは……先ほどお尻に食い込んでいた……?)

 護身用の短剣かと思ったが、それにしてはあまりに大きいし、刀の柄にしては妙に太い。

 そもそも刀は壁に立て掛けられていた。

 これではルカに『むぎゅ』っと出来ないではないかと、アテネは『それ』をどけようと手を伸ばして引っ張る。

 次の瞬間。

「く……ッ」

 寝ているルカが苦しそうに呻き、身体をビクリと震わせたではないか。

 アテネは慌てて、掴んだそれから手を離す。

(あ、熱かったです。手が火傷するかと思うほど……)

 触ってみてわかったが、それは鋼の棒のように硬くて太い、まさに雄牛の角であった。

 さらに、有り得ない事だが、ルカの股の間から伸びているようにも思う。

(い、一体これは何なのでしょう? もしかして、何かの病でしょうか?)

 今まで読んだどの本にも、こんな症状は書かれていなかった。

 ルカの身を案じるアテネは、おずおずともう一度手を伸ばし、今度は優しく撫でるように触ってみる。

(不思議です。これに触っていると、胸がドキドキして……お腹が熱くなって来ます)

 アテネはそのまま撫でるように、根本の方へ手を移動させる。

(やっぱり、ルカの身体から生えて――ハッ!?) 

 アテネの身体に電流が駆け抜ける。

 これまで解けなかった難問の答えが見つかったかのように、アテネは全てを理解した(・・・・・・)

(……ルカが抱えている秘密とは、この事だったですね) 

 アテネは専門外だが、この世界には『祝福』とも『呪い』とも呼ばれる特殊な病がある。

 その症状は様々で、聖霊が赤子に宿りその魂と同化してまう『聖霊憑き』や、満月の夜に『人』から『狼』に転じる人狼病などは、とりわけ有名だろう。

 問題は、治療が非常に困難である事と、病に対する無知と無理解が引き起こす差別だろう。

(大丈夫ですよ、ルカ……)

 アテネはよしよしと、ルカの『それ』を優しく撫でる。

 恐怖は欠片もなかった。

 これもルカの一部だと思うだけで、無限の愛しさが沸き上がってくるのだ。

 尻尾のように時折ビクッと震えて、ちょっぴり可愛いとまで感じる。

 もしかしたら、呪いでも祝福でもない、別の何かなのかもしれない。

 いずれにせよ、これが何であったとしても、ありのままのルカを受け入れると、アテネは決めていた。

(ルカが何度も救ってくれたように、私も――あなたの救いとなりたい)  

 これからルカとは、毎晩一緒に寝る事になる。

 そのためには、まず『これ』を受け入れなければならないだろう。

(小さな事からコツコツと、です!)

 アテネは上手く収まらないか色々と試してみるが、あまりに太くて長いそれはどうにもいきり立ち、槍のようにお腹をつんつくして来る。

 このままでは埒が明かないと、アテネは試しにほうきに跨るように、股の間にそれを挟んでみた。

 すると、どうだろう。

 まるであつらえたかのように、ピタリと収まるではないか。

(あは、凄いピッタリです❤)

 アテネは嬉しくて思わずはしゃいでしまう。

 これで心置きなく、ルカに『むぎゅ』っと出来る。

(ふふ、いい場所を見つけました。これからはここに収めましょう)

 アテネはそう考えながら、ルカの首筋に顔をうずめ、背中に手をまわし、思う存分抱きついた。

 クマのブラウンを抱き締めて眠った幼い頃のように、ルカを抱き締めると心の底から安心する。

(あ、こちらも『むぎゅ』ってしてあげないとですね)

 股の間に挟んだ『それ』も、抱き締めるようにふとももで絞めてあげた。

 喜ぶようにビクンと大きく震えるそれに、下腹部がキュンとなる。

 ルカの体温や、匂いや、息づかいに加え、灼熱した棒から伝わる甘い感覚が、心地よさとなってアテネを包み込み深い眠りへといざなう。

 アテネは一度だけルカを見上げると、幸せそうに微笑み、夢の世界へ旅立った。


   ◇


 スゥスゥと可愛らしいアテネの寝息が聞こえた頃――


 ルカは静かに目を開いた。

 そう。ルカはずっと起きていたのだ。

 下着姿のアテネの肢体は、信じられないほど柔らかく、匂い立つような色香が漂っていた。

 あまりに魅力にくらくらと眩暈がするほどだ。

(寝たふりは大失敗だったな……)

 ぐつぐつと煮え立つ獣欲が、アテネを傷付けてしまわないよう、ルカは目を固く閉じて寝たふりをした。

 昂ぶりが収まるのを待ち、時が全てを洗い流すのを指折り数えていたのだ。

 だが、ルカの願いは儚くも崩れ去る。

 悪事の証拠などを押さえる事を『尻尾を掴む』というが、ルカはまさに今。アテネに尻尾を掴まれた(・・・・・・・)状態となっていた。

 アテネはよい夢でも見ているのか、とても幸せそうな笑みを浮かべ、時折むにゃむにゃと身じろぎする。

 その度に、尻尾を挟まれているルカは、「くっ」と声を押し殺す。

「ふにゃ……ルカぁ……」

 吐息がこそばゆかったのか、アテネは無防備な寝顔でスリスリすると、甘えるように抱き着いてくる。

 ルカは苦笑すると、アテネの顔にかかる髪を優しく払う。

(いつか俺は――この少女の純潔を奪う事になるだろう)

 封じられていた恋慕の情は、今や完全に解き放たれていた。

 身分の差も、立場の違いも、もう――どうだっていい。

 アテネを手に入れるためなら、どんな試練だって乗り越えてやる。

 それでも駄目なら、アテネをさらって何処か遠くへ逃げるだけだ。

 

 人魚のように美しい少女の側だけが、少年にとって、この世で唯一の『楽園』なのだから――



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