プロローグ ホッドミーミルの森
カリブ海に数多と浮かぶ島々の中に、この世の楽園のように美しい『絶海の孤島』があった。
澄み切った青空には太陽が輝き、真っ白な砂浜に押し寄せる波は穏やかで、海はエメラルドに輝く。
陽気な南国の気候に海鳥が舞い、多種多様な草花が咲き誇る浜辺には、海亀が甲羅干しするために日光浴をしていた。
本来は無人島であるはずのこの島には、現在、二人の少年と少女の姿があった。
仲睦まじいその姿は《神々の黄昏》のあと、再び人類をふやすように定められた一組の男女――『リーヴ』と『リーヴスラシル』のようにも見えた。
「こっちは大漁ですよ、ルカ!」
元気よく浜辺を走るのは、空と海の化身のように神秘的な青い髪と瞳と、絶世の美貌を誇る少女。
白いビキニの水着姿で、たわわな胸を揺らしながら、手作りの『銛』に見事な大きさの黒鯛を刺していた。
彼女の名は、アテネ。
コロンビア海軍の士官候補生であり、今は一人の『見習い海兵』と共に最強のマーメイドを目指していた。
「こっちもいいサイズの兎が狩れたぞ」
森から浜辺に歩いて行くのは、真新しい海兵の制服を纏う黒髪黒眼の少年で、その手には丸々太った一匹の耳長兎を持っていた。
彼の名は、ルカ。
大和の国の奴隷であったが、今は奴隷身分解放のためコロンビア海軍で働く『見習い海兵』である。
ルカとアテネの二人は浜辺に設営したベースキャンプに戻ってくると、互いの獲物を調理台代わりの平らな岩の上に置いた。
「今夜はご馳走ですね!」
アテネは嬉しそうに言う。
「無人島に漂着したときはどうなるかと思ったが、自然が豊かで助かったな。これならしばらくは自給自足で生きていける」
ルカは島を見渡すように、顔を上げた。
島の大きさはそれほどでもないが、自然が豊富で多種多様な動植物が自生している。
なにより幸運だったのは、川があり水が確保できた事だろう。
水がなければ、人は一週間も生きる事は出来ない。
現在、ルカとアテネの二人は南国の無人島で『休暇』を楽しんでいるわけではなく、『遭難』している真っ最中であった。
一体何が起きたのか?
事の発端は、十日前に遡る――――
第二部開始です。
また最後までお付き合い下さい。




