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闇の中に幾つもの砲火が咲き乱れ、轟音が夜の静寂を斬り裂く。
いつの間にか霧は薄れ、狭い湾の中で戦うステラ・マリス号は、さながら鳥籠に捕らえられた白鳥のようにもがいていた。
純白の翼は至る所に傷を負い、周囲を羽ばたく黒い烏がその鋭い嘴を差し向ける。
さらには、砦からも砲撃が次々に降り注ぐ。
囮となったステラ・マリス号は、完全に敵に取り囲まれていた。
「ま、まだなのですか!?」
母艦が傷付いていく姿に、アテネが焦ったような声で叫ぶ。
「もう少し待って……」
臼砲の角度を調整するルテシャは、真剣な表情で敵を狙い定める。
船に搭載されているのは、二〇インチ紋章グリボーバル臼砲と呼ばれるフランス製の臼砲で、その装填時間は三十分と非常に長い。
こちらのエーテルの装填は既に終わっているが、外した際の装填時間を考えればルテシャが慎重になるもの仕方ないだろう。
求められるのは一発必中であった。
と、
「敵、臼砲艦が前に出るぞ!」
ルカが叫ぶ。
エーテルの装填を終えた二隻の臼砲艦が、ステラ・マリス号に砲撃を慣行するため前へ出る。
流石のステラ・マリス号も臼砲の一撃を喰らえば、大きな被害は免れないだろう。
だが、ルテシャはこの瞬間を待っていた。
「全員、耳を塞いで!」
皆が慌てて耳を塞いだ直後、鼓膜が破れるかと思うほど重たい砲撃音が鳴り響き、発射の衝撃で船首がグンッと沈み込む。
特大の火炎弾が夜空に弧を描き、その弾道は狙いたがわず前に出ていく臼砲艦の一隻に降り注ぎ――
カッと、湾が一瞬明るく光り、大爆炎が空を焦がす。
爆発の衝撃波が離れたこちらにまで届き、小さな悲鳴が上がる。
見れば、砲の直撃を受けた臼砲艦が、大炎上を起こしていた。
「凄まじい威力だな……」
と、ルカが呟く。
「エーテル誘爆。ああなればもう、船は助からない」
ルテシャが解説する。
こちらが発射した火炎弾が、敵が今まさに発射せんとしていた臼砲のエーテルと誘爆を起こしたのだ。
破壊力は何乗にも跳ね上がり、甲板の上では爆発が続いている。
マストはへし折れ、帆は跡形もない。
戦闘能力を完全に喪失した敵艦に対し、ルカの周囲では大歓声が上がる。
何故なら――
「見て下さい、ルカ! ステラ・マリス号が!!」
アテネの喜び声が響く。
これまで囚われの姫のように囮に徹していたステラ・マリス号が、その本性を、世界最強の軍艦としての真の力を解放した。
翼を広げるが如く一斉に帆を開き、湾口封鎖のほころびが生じたこちらへ向け、波を斬り裂くように真っすぐ突き進む。
当然、小砲艦たちがさせじとステラ・マリス号を取り囲むが、臼砲艦の同士討ちによる混乱は深刻だった。
戦列は大きく乱れ、さらには砦からの砲撃も止んでいた。
見れば、砦から炎が上がっている。
ブルーチームの砦攻略が、順調に進んでいる証であった。
そして、一度崩れた戦列に対し、ステラ・マリス号は、その艦長であるメルティナは、苛烈に砲撃を叩きこむ。
凄まじい数の水流弾が海に幾つもの水柱を立たせ、小砲艦を次々に撃破していく。
と、その時。
小砲艦の一隻がステラ・マリス号の針路を塞ぐように迫る。
捨て身の特攻だ。
ステラ・マリス号は針路をそのまま維持。
ほどなくして、小砲艦とステラ・マリス号が真正面から衝突するが、排水量二二〇〇トンを超える超大型フリゲートの進撃を、小型の船が止められるはずもなく。
直後、メキメキと身の毛のよだつ音がして、小砲艦がステラ・マリス号の白銀の船首によって、文字通り真っ二つに斬り裂かれた。
だが、敵は悪名高き黒髭海賊団。
小砲艦が稼いだ時を使って、生き残った臼砲艦の一隻がステラ・マリス号に向け臼砲を発射した。
特大の火炎弾が放物線を描く。
当たれば大きな被害は間違いない。沢山の死者も出るだろう。
だが、風を掴んだステラ・マリス号の船速は、相手の予想を遥かに上回っていた。
特大の火炎弾は、ステラ・マリス号の針路の遥か後ろの海に着弾。
大きな爆炎が上がった。
長い装填に入った臼砲艦に向け、ステラ・マリス号がお返しとばかりに牙を剥く。
片舷にある全砲門を一斉射。
夜の湾に目が覚めるような砲撃音が炸裂し、臼砲艦に無数の砲弾が突き刺さる。
水流弾によって船の外殻が徹底的に打ち砕かれ、火炎弾によって船の上部構造が炎に包まれた。
臼砲の発射に耐えられるよう頑丈に作られた船が、文字通り木っ端微塵に破壊され、徐々に右へ傾斜していく。沈没は時間の問題だろう。
「――――やりました! やりましたよルカ! ルカのおかげで、私たちの船を、ステラ・マリス号を守り抜く事が出来ました!」
声を弾ませ、頬を紅潮させ、アテネは叫ぶ。
「いや、俺は……」
振り返ったルカは、アテネ同様に、キラキラした視線を向けてくる水兵や、海兵の少女たちに気が付く。
彼女たちは一様に、何かを期待する眼差しをしていた。
すると、
「駄目ですよ。すぐに謙遜するのはルカの悪い癖です。どうか誇って下さい。私にルカを誇らせて下さい。あなたが居なければ、霧の海を越えることも、敵を発見することも出来なかったでしょう。そして、彼女たちの期待に応えて上げて欲しいのです」
アテネは血の付いたルカの手を、慈しむように両手で包み込む。
仲間を救うために、アテネを守るために人を斬った。
その事には、微塵の後悔もない。
だが、命を奪うあの感触を、人を斬るという重さを、一生忘れないだろうとルカは思った。否、忘れては駄目なのだ、と。
ルカはしばらくのあいだ逡巡した後、アテネを手を掴み取って、共に天高く掲げる。
そして、
「――――俺たちの勝利だ!!」
と、ルカは叫んだ。
次の瞬間、「やーっ!!」と、どこまでも響くような大歓声が、勝利の勝鬨が巻き起こる。
ルカはこれでいいのかと、アテネに視線を送る。
「グッドです、ルカ!」
アテネは弾けるような笑顔で、可愛らしく親指を立てて見せた。
そんなルカとアテネを、微笑ましげに見ていたマリナは、
「全員、撤収準備を! 舵を破壊し、動索を斬りなさい! 私たちの船に帰りましょう!」
と、号令をかける。
包囲を突破したステラ・マリス号が、もう、目の前にまで迫っていた。
◇
臼砲艦を放棄し、輸送ボートでステラ・マリス号に戻って来たルカたちを出迎えたのは、仲間たちの大歓声だ。
甲板の随所では、互いの無事を喜ぶ抱擁が交わされ、健闘を称える拍手が鳴りやむことはない。
当然、今作戦の立案者であり、立役者ともなったルカへの称賛は凄まじかった。
「臼砲艦を鹵獲するなんて凄いです、ルカさん!」「あなたのおかげで船を守れました!」「あ、あの、好きな食べ物はなんですか!?」「ふぁ、腕の筋肉がとても硬いです」「あ、ズルい! 私も触っていいですか!?」
と、ルカは少女たちにもみくちゃにされる。
「ま、待てくれ。一度に聞かれても答えられない。少し落ち着いてくれ」
急なスキンシップにルカは困惑しきりであった。
途中から船に乗り込んだルカは、既存のコミュニティから『疎外』されていると感じていた。
話しかければ真っ赤な顔で逃げられるし、遠巻きに見つめる視線とヒソヒソ話。
ルカはそれらを仕方ないと割り切っていたが、そもそもが勘違いなのだ。
彼女たちはずっと、ルカの事が気になっていた。
これまでためらっていたのは、ひとえにルカが『男装』しているからである。
男性ばかりの『陸軍』に例えるなら、むさ苦しい男やもめの要塞に、どう見ても美少女にしか見えない新人がやって来て、さらに女装して日々の任務をこなすようなものだ。
簡単に声をかけられるわけがなかった。
本当は皆が、ルカと仲良くなりたいと思っていたのだが、そう出来ない雰囲気が出来上がってしまっていたのだ。
そんな状況で、二心なく真っすぐに接して来たアテネがむしろ特別なのである。
と、
「――――ルカ! こちらに来て下さい!」
そのアテネが、両手を腰に当て叫んだ。
ルカは助けの神とばかりに、少女たちの包囲を抜け出しアテネの元へ向かうが、そこで待っていたのは、リスのように頬を膨らませるアテネの姿で――
「なんで怒ってるんだ?」
「知りません……」
アテネは拗ねるように唇を尖らせた。
ルカは自分が何かしでかしたかと、内心首を傾げるが、まずは謝罪することにした。
「不快な思いをさせたなら謝る。すまなかった」
すると、膨らんでいたアテネの頬がしゅるしゅる萎み、
「い、いえ、ルカが謝る必要はありません。ただ――」
「ただ?」
「な……なんでもありません」
「なんでもって顔じゃないだろ」
「……言ったら絶対に笑います」
「笑わない」
「本当に?」
「ああ、絶対だ」
ルカが力強く言う。
それでもアテネは、メイドスカートの裾を掴んでモジモジと悩んでいたが、やがて意を決して言葉を紡ぐ。
「ルカが彼女たちと一緒にいるのを見ると、胸がこう……モヤモヤするのです。ルカが皆と仲良くなるのはとても素晴らしい事なのに、私……嫌な子ですね」
アテネの頬は羞恥で真っ赤に染まり、瞳は不安げに揺れていた。
それは紛れもなく嫉妬の発露であり、ルカを取られまいと思う甘い乙女心であった。
「――――ッ!」
ルカは息を呑む。
もし、これが普通の男女間であるなら、一発で恋に落ちるほど強烈な言葉だ。
実際、ルカの心臓は早鐘のように鼓動を刻み、それがアテネに聞こえていないか心配になるほどであった。
だが、ルカは『性別』を偽っていた。
普通の関係ではないのだ。
きっとアテネの言葉は、強い『友情』の現れなのだろうとルカは思う。
否、そう思わなければ平静を保てなかった。
「大丈夫。アテネはいい子だ。それに俺はここにいるだろ」
ルカは優しく言い聞かせるように、勘違いせぬよう自分を戒めるように、アテネの頭を撫でる。
「………ルカ」
アテネは嬉しそうに、こそばゆそうに、ふにゃりと相好を崩す。
この美しいマーメイドにもし尻尾が生えていたなら、今頃ブンブン元気に揺れているだろう。
しばらくアテネの頭をポムポムしていると、
「あ、ありがとう、ルカ。もう大丈夫です。少し……恥ずかしくなってきました」
「モヤモヤはなくなったか?」
「おかげさまで。決戦を前に緊張しているのかもしれません」
アテネは元気を取り戻した様子で、笑顔を見せる。
そう。戦いはまだ終わっていなかった。
臼砲艦を鹵獲し、要塞を攻略し、湾の封鎖を突破した。
ここまでは、こちらの大勝利だ。
だが、まだ敵の『本丸』が残っていた。
沖合には間違いなく――黒髭海賊団の『旗艦』がいるはずだ。
三五五六トンの排水量と、一〇八門の大砲と、六九メートルの全長を誇る海の化け物。
ヴィクトリー級戦列艦。
その名も、アン女王の復讐号が。
現在、ステラ・マリス号は敵の包囲を突破し、湾の出口にある要塞方面に針路を取っている。
ルカの陣形予想が当たっているなら、まもなく砦の向こうから湾の出口を塞ぐように、アン王女の復讐号が姿を現すだろう。
「《黒髭》エドワード・テュッティ……」
「勝てる……でしょうか?」
アテネがネガティブになるのも無理はないだろう。
黒髭の強さは鬼神のそれで、一度は完敗ともいえる手痛い敗北を喫した相手だ。
「正直わからない。でも、二人で戦えば絶対に負けはしない。そして、負けない限り……勝機は必ずあるさ」
ルカはそう言って、拳を真っすぐ差し出した。
アテネはコクリと頷くと、
「――――はい! 必ず、リベンジしよう!」
凛とした表情で、ルカと拳を打ち合わせる。
◇
「見えたわ! 一〇時方向! 戦列艦よ!!」
見張り員の声が、甲板中に響き渡る。
ルカの予想通り、湾の出口にある岸壁の陰から、巨大な戦列艦が姿を現した。
漆黒の帆に、無数に並ぶ大砲に、首のない女神の船首像。
そして、風になびく旗には、禍々しい髑髏のマークが刻まれていた。
と、
「――――告げる。こちら艦長。今宵の舞踏会もこれでラストダンスよ。あそこに見える黒衣の貴婦人が最後の相手になるわ」
船尾楼甲板に立つメルティナの声に、誰もが耳を傾ける。
「皆も、覚えておきなさい。彼女の本当の名は『クイーン・アンズ・リベンジ』ではなく『ヴィクトリア』というわ。イギリス海軍が持てる技術の粋を結集して作り上げた、ヴィクトリー級戦列艦の三番艦よ。でも、海を守るために作られた彼女は海賊に連れ去られ、今では奴らの旗艦となっている」
コロンビアとイギリスは、数年前には戦争をしていた国同士だ。
メルティナは当時のヴィクトリアと戦った事があり、それは美しくも、恐るべき敵だと記憶している。
水兵にとって船とは、国を守るための剣であり、共に過ごす家族であり、誇りそのものであった。
それが賊に奪われ、海を荒らす者たちの根城となっている。
ヴィクトリアの乗組員の悔しさは、筆舌に尽くしがたいだろう。
「そして、奴らはあの船だけでは満足せずに、我々のステラ・マリス号をも狙ってきている。この白銀の女神を力ずくで穢そうとしている。そんな事が許されると思って!?」
メルティナの問いに、艦内から怒りの声が沸き上がる。
「ええ、そうよ。許されるはずがない。この船も、この国も、この海も、奴らの好きにはさせないわ! さぁ、我々の力を見せて上げなさい! 奴らにくれてやるのはありったけの砲弾だけよ!!」
メルティナの言葉に、「やーっ!!」と割れんばかりの歓声が上がる。
「全砲門、開け! 帆を全開に張って最大船速!! 航海長、小細工はなしよ。針路は敵、戦列艦! ぶつける気で行きなさい!!」
「アイ、アイ、サー!」
水兵たちは迅速な動きで、それぞれの持ち場につく。
その表情に緊張はあれど、気負いはない。
度重なる強敵との戦闘が、彼女たちを成長させているのだ。
全開に開かれ帆に風を受け、船速が徐々に増していく。
ステラ・マリス号は、アン王女の復讐号と真正面から対峙した。
対する、敵も針路をそのまま維持。
まるで、中世の騎士が行った馬上槍試合の如く、両者は無言で突撃を敢行。
ぐんぐん近付く互いの距離。
このまま進めば、正面衝突は避けられないだろう。
巨大な戦列艦がこちらに迫って来る光景は、まるで岸壁に突き進んでいるようで、剛の者であっても肝を冷やす恐るべき景色だ。
だが、これもまた戦いなのだ。
戦列艦は、その身を持って湾の出口を塞いでる。あれを排除しなければ沖に出る事は不可能だ。
最後にして、最強の障害が立ちはだかっている。
ならば、残された選択肢は、舷舷相摩す砲撃戦しかなかった。
この突撃で引いた方が、相手の砲門に腹を晒す事となるのだ。
(右か、左か――――)
ルカはシュラウドを駆け登り、戦列艦を動向を見逃さぬよう凝視する。
そして、その漆黒の瞳は、戦列艦の船尾楼甲板で、黄金の操舵輪を左に回しているテュッティの姿を捉えた。
「敵、戦列艦! 左へ舵を着るぞ!!」
ルカが叫けば、間髪入れずにメルティナが命じる。
「面舵一杯! 全員、衝撃に備えなさい!!」
衝突寸前でステラ・マリス号は右に舵を切り、アン王女の復讐号は左へ舵を切った。
相手の右舷と、こちらの左舷がごりごり擦れ合い、大地震のように下から突き上げる衝撃が船を揺らす。
次の瞬間。
「――――――――撃てぇえッ!!」
メルティナの号令と共に、左舷の全砲門から紋章弾が放たれた。
直後に、アン王女の復讐号からも、砲撃の音が連続する。
万の雷が轟き、衝撃と爆発が船を大きく揺らす。砲の直撃で破砕した木片が凶器となって飛び交い、至る所で悲鳴が上がる。
船のあちらこちらで炎が上がり、凄まじい白煙が視界を真っ白に染め、穿孔した船の外殻からは海水が流れ込む。
甚大な被害だ。
だが、被害の大きさは、相手の方が遥かに上であった。
戦列艦は圧倒的な火力が最大の武器であると同時に、最大の弱点でもあるのだ。
無数の砲を並べるために、装甲である外殻を切り開き砲門にしている。
つまり、装甲のないむき出しの弱点が戦列艦には無数にあるのだ。
逆にステラ・マリス号は大砲の数は半分以下だが、真銀の装甲を覆われた防御力はまさに鉄壁であった。
現に、相手が撃った紋章弾の半数以上が装甲に阻まれ、こちらの砲撃は全て貫通して相手に痛打を与えている。
このまま砲撃戦を続ければ、相手の戦闘力を完全に潰す事も可能だろう。
だが、
「海賊が、船に乗りこんで来るぞ!!」
ルカの目には、戦列艦から投げられる無数の鍵縄が見えた。
「海兵隊! 及びブラックチーム! あなたたちにはもう一仕事して貰うわ。海賊たちをこの船から叩き出しなさい!」
メルティナが白兵戦を命じる。
鍵縄によって互いの船縁ががっちりと結びつけられ、海賊たちが雄たけびを上げて雪崩れ込んで来た。
その先陣を切るのは、あの黒髭エドワード・テュッティであった。
甲板に着地したテュッティに、海兵隊たちが殺到する。
だが、
「――――雑魚にようはないわ!」
テュッティは左右に持つ龍鞭を、縦横無尽に振った。
風を斬り裂く鋭い音がして、周囲の海兵たちを薙ぎう。
その強さは圧倒的で、精鋭であるはずの海兵たちが、次々に吹き飛ばさていく。
海賊の士気はとどまる事を知らず、船長に続けと押し寄せる。
海兵隊も負けじと抗うが、その抵抗を打ち崩すように現れたのは、
「露払いはアタシたち任せなよ、お嬢!」
長大な金剛棒で海兵をまとめて横薙ぎにするのは、オーガと呼ばれる浅黒い肌の大柄の女海賊。
豪胆な面構えに、黒い髪をドレッドヘアに纏め、鍛え抜かれた身体は、至る所に戦傷が刻まれていた。
対して、
「セラフィナがいない今、私たちに対抗出来る戦力は限られている」
華麗な装飾の細剣で幾人もの海兵を串刺しにするのは、シルフィと呼ばれる長身細身の女海賊。
流麗な美貌に、青みかかった金髪を編み纏め、瞳の色は左右非対称のオッドアイ。
テュッティと、オーガとシルフィのたった三人によって、白兵戦が始まって僅かのあいだに、二十人もの海兵が倒されるという異常事態。
現在、この船にいるマーメイドの数が五〇名と、既に半数近くがやられてしまった事になる。
血を吐きながら倒れる海兵の一人が、一矢報いようとテュッティに銃を向けるが、
「邪魔よ……」
テュッティは冷酷な表情で、トドメの一撃を振り降ろす。
直後、漆黒の風と、白銀の閃光が走り、龍鞭が火花を上げて防がれた。
倒れ伏す海兵の前に現れたのは、
「アンタの相手は――」
「――私たちが務めますッ!」
刀を構えるルカと、双銃を構えるアテネが、声を揃えて言い放つ。
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