ハンマーを持った女の子は、お好きですか?
ここは異次元の狭間に生まれた星、重力を失った星。
お陰でビルの高さは、毎年記録の更新を続け、そして型の古い建築物は淘汰されていく。
私たちハンマー系アイドル、ハンドルによって。
「てーりゃー!」
私は今日もハンマーを振り下ろす。
古いビルがこの世から無くなるまで。
*
無重力適応シューズの靴裏は、変態のプロデューサーのためにいつも取っておいてある。
私は、カル・マリ。ハンドルとして活動する・・・・・・アイドル。
「あー、だるいよ変態。なんでこの部屋の重力装置をオンにしてるの。私、重い体が嫌いなんだけどー」
「マリちゃーん、君ら地下アイドルみたいなもんだからね」
「うっさい」
「あふん、靴裏が!」
自慢の金髪ツインテが、私のチャームポイント。
それと私たちハンドルは地下アイドルじゃなくて、天井アイドルなの。
「あ、新しいコス出来たから、試着をお願いって」
「先に言ってよね変態!」
「はい、マリちゃん。今度の粉砕ステージ用の衣装だよ」
「やっふう!」
ぶっちゃけて言うと、こんなコスなんて人気取りのためだ。
可愛い可愛いと私を崇めてくれる信者が多いほど、仕事が増える。
うへへ、儲けだ。
「ちょっとー、変態!これ可愛いけど露出ヤバくない?もっとゴスゴスしい方がハンドルぽいよ」
「ゴスゴスしい?ああゴスロリ衣装ね。次はこれでって事務所から言われたから我慢我慢ぶへ」
「ったくショーがないわね、今回だけだからね!」
私は息を荒くした変態を踏んづけて、その仕事を受けた。
当日、私の目下には、かつて存在したと言う山々のごときビルたちがでんと構えていた。
無重力適応シューズで、小まめに位置を調整しながら私は中を漂う。
「ねえ、変態!これぜーんぶスクラっちゃうの?」
『そうなんだよー、ここら一体の工業帯は買収されて二日前に全部廃業。代わりに高層ペンションをおったてるらしくて、大口のクライアントから回ってきたんだって』
この星は、建築物を上へ上へと伸ばして行った。全ては重力の枷がないせい。
お陰で日夜廃棄となる建物が後を絶たず、私たちハンドルのようなアイドル兼業者がぶっ壊す。
『不思議だよねー。以前の業者だったら面倒くさくて費用ばかりかかってしょうがなかった。それが、美少女がハンマーでぶっ壊すだけでマニアの方々から援助金をもらえるんだから』
「それで飯が食えるなら有難いってことでしょー、割り切りなよ」
なぜかオタクとかその手の奴等は一定数いて、私が今使ってる無重力適応シューズとかを手配してくれる。
キメエ。
「そろそろ仕事するかな。マルチバリア装置、起動。あとトンちゃんも起きてね」
腕のブレスレットの縁を擦る。
ハンドルの必須アイテム。それがマルチバリア装置とハンマー。
ブレスレットには建物粉砕の被害を抑えるバリア機能と伸縮自在の超技術ハンマーが収納されているのだ。
「よっこいせと、トンちゃん今日もよろしくー」
トンちゃん。正式な名前は忘れた。
質量保存の法則を無視した、超技術が詰まった謎ハンマー。
「いっくよー!」
私は目についた工場施設一帯を目安に、トンちゃんを振り上げる。
「超過粉砕!」
トンちゃんが私の頭の上までくると、ここからが本番。
トンちゃんの両側のツインヘッドが陽を隠すほど巨大化する。
後ろのヘッドからは火を吹き上げ、推進力を生む。
「てーい!」
工場の屋上とトンちゃん先端の勝負はあっさり決まった。
アリが象にスタンプされたみたいだ。
バキバキメキメキと音を立てて、粉塵が舞う。
崩れて弾けた残骸が、無重力で勢いを失わずにマルチバリアに当たる。
これがないと、マジ私がミンチ。
「後は、バリアを圧縮して」
こうして出たゴミを纏めて、リサイクルに出すのも私たちの役目。
もう一つのブレスレットを弄くると、マルチバリアで圧縮した残骸をテレポート出来るのだ。
うーん、謎技術。
「ぽい」
これで十分の一くらいは片付いた。
これが私たちの日常。
天井系アイドル、ハンドルのお仕事。
この重力を産み出さない星で、今日も私たちはハンマーを握るのだ。
読んでいただき感謝。