魔王、心の底から思う。
※作者はチートをあまり理解してません。すいません……。
「ククク──どうやら勇者はてこずっているみたいだな」
沢山のモニターが設置された部屋で、魔王は大きな赤いイスに腰掛けて呟いた。
モニターには勇者らしき人物が一人、腰に剣を提げ、辺りを見渡しながら歩いていた。
どうやら迷っているらしく、きょろきょろとせわしなく首を左右に動かしている。
「この調子じゃ、まだ宝石も手に入れてないと見える。ククク、そこで飢え死ぬがいいさ──」
魔王は歪に笑うと、スッと席を立ち部屋を出て行った。
*
魔王の言っていた宝石とは、手に入れないと魔王の部屋まで来れない──いわゆる、絶対条件だ。
どんな物語にも、必ず「○○を集めてから──」というのがあるように(ないものもあるかもしれないが)、集めなければならない。
なので勇者は、三つの宝石を手に入れてから行かなければならないのだ。
一つは炎の宝石。二つ目は水の宝石。三つ目は風の宝石。
どの場所にも、その宝石を護るバケモノたちが設備されている。
*
「……どこだよ──」
勇者らしき人物は、周りを見渡しながら歩いていた。
生憎、地図はいらないと持って来ていないため、手探り状態である。
「魔王のとこまで遠くね? 結構歩いてきたはずなんだけど──」
彼は後ろを振り返り、盛大に溜め息を吐く。
かなり遠くに、町並みが見えた。水が澄んでいて、食べ物も美味い。動植物が生き生きとしている町だ。
そこに彼は住んでいたのだが、ある日お偉いさんに魔王を倒して欲しいと言われ、町を後にしたのだった。
「……帰っちゃおうかな」
呟くと、本当に帰りたくなってきてしまう。
それでも彼は首を振って、また歩き出した。
「アイツらに、頼んじゃったしな……頼んだ本人が行かないってのも、だめだよなぁ──」
一応頼まれたし……、と彼はまた歩き出した。
*
彼は魔王の所に向かっているのだが、三つの宝石を持っていない。
なのになぜ魔王の所に向かっているのかというと、“アイツら”に任せてあるからだ。
普通なら、パーティーを作って行くものだが、彼はそうではない。
めんどくさがりで、できるなら魔王の所に行くのも嫌だった。
でも、魔王の所に行くには、三つの宝石が必要で、しかもそれらを手にするにはそれらを護るバケモノを倒さなければならない……。
なんて面倒なんだ──! と彼は思った。
そこで思い出した。友人の中に、優秀な忍がいたことを。
それで彼は個人的に連絡を取り、忍の中でも最も優秀な忍三人にお願いをした。
宝石を取ってきて欲しい──と。お礼は、お酒を奢るというもので、あっさり交渉成立。
彼は、お酒好きな友人で良かったと心から思ったそうだ。
*
「……ここか──」
大きな洋館の前で、彼は立ち止まった。
洋館は黒を基調としていて、威圧感がある。
「よっ。待ったか?」
と一人の忍がスタッと彼の前に現れた。
手には、炎の宝石が握られていた。
「おお、今来たとこ──なに? もうゲットしたわけ?」
「たりめえよ。楽勝楽勝──で、色々話してやりてえけど、それは酒のつまみにな。高え酒、奢らせてやるよ」
グッと炎の宝石を彼に突き出し、忍はニヤつく。
ははっと苦笑いして、彼はありがとな──と受け取った。
「高いやつか……考えとくよ」
「おう! 約束だからな──」
じゃな。と忍は片手を上げ、サササッと木々の間を駆けていった。
「燃えるような赤、とはこのことを言うんだろうな……」
受け取った炎の宝石を掲げて見て、彼は呟いた。
すると、今度は二人目の忍が歩いて現れた。
「少し遅れた──はいよ」
と二人目は彼の横まで来ると、水の宝石を渡した。
「サンキュー。大丈夫だったか?」
「楽勝楽勝。ま、健闘を祈るよ」
「俺? 俺は大丈夫だよ。お前だって知ってんだろ」
と彼は笑う。
「知ってるよ、お前が一番強いってことは」
「だろ? ま、酒場で会おうぜ」
「おお。またな──」
二人目はにこっと笑って歩いて行った。
彼は水の宝石を掲げて見て呟く。
「ビー玉みたいだな……」
それから炎の宝石と並べてみる。
「……きれいだ」
そんなことをしていると、背後から三人目の忍がやって来た。
「ほい。任務完了──」
と彼に風の宝石を手渡し、そそくさと行こうとする。
「あ、ありがとな。あと、酒場はいつものとこな、他の二人によろしく」
はいはい、と三人目はめんどくさそうに手をひらひらさせると、姿を消した。
「……仕事は一流なのに、人間関係まずいんじゃねえの?」
風の宝石を弄びながら、彼はふぅ……と息を吐いた。
これで三つの宝石は手に入った。彼はざっと右足を踏み出して、洋館の扉に手をかけた。
*
「……は? 待て待て待て──」
魔王は部屋に戻ってきて、うろたえていた。
モニターには入り口の前で何やら怪しい人物が、さっき歩いていた勇者らしき人物に宝石を渡して手を上げて去っていき、二人目も来ると笑って歩いて行き、最後の一人は宝石を渡すと消えた。
「なんだ、あの他力本願の勇者は!」
と魔王が憤慨していると、その勇者らしき人物が魔王の部屋にやって来た。
「たのもー。只今見参。宝石、ここに置いときますね──」
彼は魔王が憤慨しているのに気づいていないので、三つの宝石を入ってすぐの端に並べた。
「……よし──。倒しに来ました」
と魔王と少し距離をとって、前に進み出る。
魔王はイライラした様子で、彼に問う。
「ちょっといいかな、キミさ、仲間は? パーティーは?」
「え? あ、さっき現地集合現地解散しました」
「何で解散してんの?! 魔王まだ倒してないじゃん! ここにいるじゃん!?」
「いや、アイツらは宝石担当なんで──」
と彼は後ろの宝石にちらりと視線を向けた。
魔王はその態度が気に入らなくて、ギリッと歯軋りする。
「キミさ、魔王甘く見てない? 後悔するよ?」
「甘く見てませんよ。後悔もしません──だって、甘く見てなかったら一人で来ますもん」
と勇者は、ははは、と笑う。
魔王は少し考えてから声を荒げた。
「……。逆だろ! 何で甘く見てなくて一人で来るんだよ! 普通四人とかだろ?!」
「あ……そっか。こりゃ失敬」
ぺちんとおでこを軽く叩いて、彼はすいませんね、という顔をする。
魔王はその態度に堪えきれなくなった。
「……いいだろう──私の真のちか……ぐふっ……?!」
最後まで言い終える前に、魔王は口から血を噴いた。
いつの間にか、腹を刺されていた。
じわりと服に血が広がる。
「ッ……いつ、のま……に──?」
彼は血の付いた剣を払うと、鞘に戻した。
そして剣を腰から外すと、開けっ放しの扉の向こうに、剣を投げ捨てる。
「やっぱ、剣術も習っといて損はないな──」
ばさっと彼は服を脱ぐと、さっきの忍たちと同じ格好になる。
「クナイだけじゃ、ワザ少ねえし」
「お、おまえは……!」
「どうも、勇者じゃなくてすいませんね。忍です──」
ニヤッと笑うと、クナイを両手から放った。
そのクナイは魔王の身体に食い込み、新しい血の波紋を作り始める。
「ゆ、しゃ……じゃ、ない……、だと──?!」
魔王は膝から崩れ落ち、床に突っ伏す。
薄れゆく意識の中で、魔王は彼の言葉を聞いた。
「こんな奴に何人勇者がやられたんだよ……」
魔王は、生まれ変わったら忍になろう……、と心の底から思った──
「「「「カンパーイ!!」」」」
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