25:迷い
僕達ハンターは、アホな催しのせいで大量のヘドロにまみれた。
その身体を洗い流した後で、ペンギン大陸の憩いの広場にて、想い想いに休んでいた。あるいは談話を、あるいは昼寝を、あるいはおやつにする。
僕といえば、アホな催しの主催者であるスパーキング・ホークに言い寄られていた。
「なあ、クレイル。メリーちゃんから何か聞いていないか?」
「……別に」
「その様子は何か知っているな。例えばガル・ウィングについて、教えろよ」
「教えるほどの事なんかない」
そんな意味のない問答をしていた。
実の所、ガル・ウィングについては衝撃的な事を教えてもらっている。
黒い『バード』を操る大盗賊でありながら、女だという。僕はその外観、威圧感、そして『バード』の操縦技術から男だと思い込んでいた。
『バード』は鳥型の飛行機械だが、操縦するためのレバーが固く、力を必要とする。通常は男が操縦するものだ。
ところがガル・ウィングは女でありながら『バード』を操るだけでなく、腕利きのハンター達を沈めてきた。奴と空戦をしたハンターは、スパーキング・ホークを除いて一人も帰ってきていない。たぶん、スパーキング・ホークもガル・ウィングが女とは気づいていない。
メリーがいなかったら、僕だって今も男だと思っていただろう。
「……」
ハンター仲間に教えるかは迷う。
大盗賊ガル・ウィングとの空戦は、負けた所で恥にはならない。戦っただけでも名誉だと言われる。だが、これが女だと分かるとどうだろう。喧嘩で女に負けたとなると、みんなはどんな反応をするだろう。少なくとも、僕は受け入れたくなかった。
物思いにふけっていると、背中を叩かれた。
「暗い顔するなよ、クレイル」
「ハンターは笑顔がお友達だろ」
シンとジンだ。中肉中背で、容貌からはほとんど見分けがつかない。性格が微妙に違うらしいが、僕にはどうでもよかった。
「僕の表情が暗く見えるのは、いつもの事だ」
「いつにも増して暗いぜ。何かあったら相談しろよ」
シンとジンが顔を近づけてくる。口臭がにおう。
「困った時のために仲間がいるからな」
「うっとうしい」
「はっはっは! じゃあ俺と付き合いな、クレイル。こんな二人なら追い払ってやるぜ」
スパーキング・ホークがわけのわからない事を言った。僕の理解が追いつく前に、シンとジンが勝手に話を進める。
「ホークの旦那に先こされちゃおしまいだな」
「幸せに暮らせよ」
突っ込み所が多すぎて、どこから突っ込めばいいのか分からない。
スパーキング・ホークは豪快に笑っていた。
「はっはっは! 野郎共よく聞けよ。俺のクレイルに指一本でも触れたら罰金だからな」
「しっつもーん、金払えば触れていいんすかー?」
「クレイルちゃんはオラの嫁ー」
様々なヤジが飛んだ。ついていけない雰囲気になってきた。
「スキンシップは挨拶だろうが」
「勝手なルール作ってんじゃねぇ!」
雰囲気に呑まれた男達が、スパーキング・ホークと殴りあいを始めた。
そんな時に、一人の女性が歩いてきた。
「皆さん喧嘩はそれくらいにしてください。大事なお話がありますから」
フィオーネだ。
澄んだ声に、場の空気が変わる。喧嘩をしていた連中も、ヤジを飛ばしていた連中も、一様にフィオーネに注目する。
「オルトラーナさんから伝言です。空中都市に乗り込むから身支度しな」




