2:執拗な追撃
レバーの傍にあるボタンを押しながら、マイクに語りかける。外は嵐だが、マイクからの声は聞き取れるはずだ。
「違います。ハンターじゃありません」
嘘を吐いてみた。
スキンヘッドの大男は下卑た笑いを浮かべた。
「へぇ……それ本当なら、いい鴨だ。身ぐるみ全部頂くぜ」
僕がハンターであってもなくても、襲ってくるつもりらしい。
ため息が出た。ハンターとは盗賊退治を生業とする賞金稼ぎだ。僕もその一人である。さっき盗賊をしょっぴいたばかりで、体力が辛い。
僕は『バード』を急旋回。男とは反対の方向へ加速した。
どうして僕がハンターだと分かったのか疑問だけど、今は逃げの一手だ。
「逃がさねぇぞ!」
追いかけてくる。だが、わめいているだけで攻撃してくる気配がない大男なんかどうでもいい。
僕は嫌な予感がして急降下。案の定、僕が元いた地点に弾丸が幾つも飛翔する。雷雨で見えづらいけど、やはり仲間がいたんだ。数は、先ほどの男を含めて三人。いずれも安定した動きをしている。強敵なのは間違いない。
「面貸しな、クレイル!」
名前を呼ばれたが、あえて無視。嘲笑と猛烈なエンジン音が聞こえるけど構わない。
本当の敵はこいつらじゃない。
遥か後方から、ぞっとするような視線を感じる。周りにいる三人は気づいていないようだ。気づいていたら、僕の逃げっぷりを笑えるはずがない。
弾丸を撃ってくる。急加速、急旋回、時にはタイミングをずらしてかわしてる間にも、恐ろしい気配は近づいてくる。一刻も早くここを離れた方がいいのに……。 焦りとは裏腹に、弾丸に邪魔されて、思う方向に『バード』を動かせない。まずは射程距離から離れるしかない。
アクセルペダルを最大限に踏み込む。衝撃が掛かるが、お構いなしだ。
「バカが!」
男達の嘲笑が聞こえてきた。
スピードが増したとはいえ、一直線に飛んでいる僕は恰好の餌食だ。弾丸の雨が降り注ぐ。機体は傾き、所々から白い煙を上げる。それでも『バード』は飛ぶ。
ダメージを無視して全速力で飛んだ甲斐あって、どうにか射程距離を外れる。弾丸による攻撃は止んだ。
だが、執拗な追いかけは続く。
爆発的なエンジン音と共に、奴らが急速に近づいてきた。アクセルペダルを踏みこんだ程度ではありえないほどのスピードだ。
「ブーストか!?」
僕は驚き、思わず声を上げた。
『バード』が壊れてもおかしくないエネルギーを発しているはずだ。そこまで必死になる理由が分からない。考える暇もなく、追いつかれる。
スキンヘッドの豪快な笑い声が聞こえる。
「終わりだな!」
再び弾丸の嵐に襲われる。振り切る事ができないなら、避け続けて、弾丸が尽きるのを待つしかない。風雨が激しくなり、バランスが取りづらくなる。雷に当たれば、墜落の危険さえある。しかし、奴らは追撃をやめない。
『バード』の燃料がほとんどない。このままじゃ、動かなくなる。視界が悪いのを逆手に取れないだろうか……。
作戦を考えている間に、強い衝撃に襲われた。