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Loop3

「――それで?」


「?」



なんとか心を落ち着けて、いまからする質問のための追求の言葉を出す。



すると、カントは(男のくせに)かわいらしくも首をコテンと傾けた形で私を見てくるではないか。


しかも、なぜか胸が締め付けられる感覚が私を支配し始めた。

先程の怒りなど軽い軽いと言わんばかりにあっさりと。


まてまてまて、待て。



「どうしました?」



こんな、先程から俺様っぷりを披露して止まない目の前の容姿だけが取り得そう(でもあの看守的なのを退くことができたのだから、たぶん強いのも付与するとして)なのに、どうして!?



「アリス……?」



横目で彼を睨む。



こんな奴を、どうしてこう想ってしまうのだろうか意味がわからないが、だが仕方がないとも言えるのだろう。


なんせ、いまの私には記憶がないのだから。


だから、体が感じるそのままを受け入れるほかない。



「カント」


「?」



カントが首を、傾げる。




…………、かわいいっ!!




「嘘だ! こんなことを想うなんて嘘だと思うけど、致し方ない。本当に」

「なにがですか。先程から私を呼ぶばかりでロクに返事もしないで……、全く以って失礼に値しますよ? 親の顔が見たいものです」


――なんて想った先にコレだ。


やはり私の目――というよりは感性は、少しばかり、いや、訂正。かなり、ズレているようだ。例えると斜め四十五度。


「うるさいなあ! ……話を戻すけど、そんなに私ってダメだったの? っていうか「宝石」ってなに!?」



意思表示のために、声も合わせて勢いよく全身を近づける。


近くで見るとまあまあな顔立ちで、今の黒い服に似合う無表情を浮かべていた。

唯一似合わない所を挙げるとすれば、髪の色だ。


光をも反射するかのような銀色の髪は、それだけが単体のように光を放ち存在を主張している。バカみたいに。

おかげで少しは雰囲気がマシに見えているのだからそこだけが幸いといえばそうなのだが。



そんなご本人様は、私の質問にこれ見よがしにため息を吐いてみせた。



「一偏に言わないでください。答えるのさえ億劫になりますから」

「じゃあ早く言ってよ!」

「全く……。記憶がなくなっても貴方の性格までは変わらないのですね。いいでしょう、最初は貴方のことからお話しましょう」



腕を組んで窓の方へと視線を向けた――と思ったら、私へと視線を戻して口を開いた。


その表情から何かを読み取ることなんかはできなくて、どこか不思議な気分になった。




「――貴方は、とてつもなく(・・・・・・)ワガママで底抜けに明るい人でした。まるでどこにでもいそうな人と見間違えそうになるくらいに」


「いいじゃん」


それはごくごく普通のことで、別にそこまで引っかかるような言い方をしなくてもいいのに。



そう思ったのもつかの間、そんな私の思考を読んだかのようなタイミングでカントがそのことについて口を開いた。



「それでは少々問題があるのです。つぎに「宝石」についてですが、これは、極々わかりやすく簡単に言えば、特に何を挙げることもない人達と違って「能力」があることです」


「能力?」


「それを持つ者を「宝石」と称し、貴方は物事(・・)()完全(・・)()忘れる(・・・)ことができる〝忘却〟を持っているのです」



「へ、え……っ。――って、それって危ない! なんだか色々と危ないんだけど!?」



――忘れる。



ついつい流しそうになったけれど、考えてみればそれはどんなことでも簡単に、完璧に忘れることができるということにもなる。



それはつまり――



「ええ、ようやくわかりましたか。そうです。これほどまでに、ある意味では無害で、別の意味ではこれ以上ないくらいに有害な「能力」です」

「いやいや、なにを普通に解説してるのよ! つまり今の状況の私は、その究極系ってこと!?」

「究極系は言いすぎかもしれませんが……、まあ、そうですね」


「〝そうですね〟じゃなくて! もしもそれが本当だとすると、私ってかなり危ない状態ってことだよね」


「そうですね。――それなのに貴方は底抜けに明るくて、一見すると何の悩みもない典型的なおバカさんに分類される人でしたよ」



本当に心底呆れているのか、カントはわざわざ私のほうを向いて、重たく深いため息を吐いて見せた。

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