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Loop2

無性にふかふかとした感触に包まれていると気づく。

ぼやけていた意識がだんだんと現実味を帯びてきたことにも気づく。

もう一つ、気づいたことがある。



ここは私の部屋じゃない。



「って、自己分析してる場合じゃないでしょう!?」



ほぼ言うと同時に跳ね起き、辺りを見渡す。


板張りの床に白いソファと透明色の小さな机などで彩られた部屋は、どこか閑散としているように感じてしまい何の感想も出てこない。

というよりは、自分がそういうインテリア系に疎いからなのだろうけれど。



「どこ……?」



文字通り途方に暮れてしまう。



「!」

寝る前にしていたことを思い出そうとしてはっとなる。

そうだ。


私はいつの間にか看守に鎖で繋がれていたという異常極まりない状況下に置かれていて、そしてどこからともなく現れたカルトという人物に助けられた。

まるで夢のような出来事で、実際今でも夢なんじゃないかと思う。



「一体何なのよ……!」



思わず下唇を噛む。


すると突如扉が開き、そこから見えた人物は先程思い浮かべたばかりの人物だった。



「ああ、まだ寝ていてもよろしいですよ? 確か――〝忘却〟アリスですよね」



忘却?

そういえば眠る前に看守が言っていたような気がする。



『しらばっくれんじゃねえ、この〝忘却〟!!』



当然のように私には意味が分からないでいた。

忘却の意味自体はわかるが、それでも私にはそう呼ばれる理由がなかった。だから、看守が怒鳴りながら言ったその意味が未だに理解できないでいる。


それとも、怒鳴った相手の言葉に意味を求めること自体が間違いなのか……。



「〝忘却〟って……?」

「? なにを言っているのですか。貴女が〝忘却〟という役回りだから真名が〝忘却〟なのは当然でしょう」



真名? というか役回り……??


意味がわからず首を傾げていると、さすがに向こうも話が通じていないとわかったのか眉を寄せながらも合点がいったかのように口にした。



「ああ、そうですか、そうなんですか」

「……?」


「つまり、貴女はついに自分自身の真名まで忘れてしまったのですね。なんと進行の早い……と言いますか、影響されやすい」



正直、目の前にいる人物が発した言葉のすべてが理解できたわけではなかったが、少なくとも褒め言葉でないことだけはわかった。



「どういう……!」

「そのままの意味ですよ、アリス」



そしてこのカントという人――笑わない。


確か眠る前も看守に対して一見して物腰が柔らかそうな感じだったけど、でもよくよく思い出してみるとどこか冷たいものがあったような気がしないでもなかったりする。

いま目の前に佇む彼も、曖昧な記憶ながらもそれと同じものだった。


冷たく、私には関係ないという風を纏っていて――尚且つ口が悪い。嫌味ばかり言っていると好かれないわよ?


人のことを棚に上げている気がしなくもないが、あえてそれに触れるようなことはしない。



「あなたはこの世界に置いて重要な真名を忘れた。ですが、〝忘却〟である貴女はこの世界に誰よりも忠実に従ったことにもなります。それは他の「宝石」にとって誇れることでもありますが、同時に危険視の対象とも成りうる事態でありことを、まず肝に銘じて置いてください」


「は、ぁ……い?」



ついカントの言葉と迫力に圧されて、曖昧ながらも肯定らしき返答をしてしまった。


実際は何も理解などできてはおらず、もし記号が視認できるのだとしたら、今の私は滑稽なほどにまで頭に疑問符が浮かんでいることだろう。



「……本当にわかったのですか?」


「え」


「今ので? 何もかも? 〝忘却〟であるがために、ついに何もかも忘れてしまった貴女がですか?」


「う」



「そんなわけがないでしょう。元々そんなに頭の回る人でもなかった貴女が先程の説明でわかるはずがない」



なら何故そんな説明をしたのよ!!


思わず感情に任せて口走ってしまいそうになるのを、なんとかギリギリのところで押し留めた私を誰か褒めてほしい。

もちろん、目の前に無表情で佇む男性以外でお願いしたいところではあるが。



「っ……。そ、そうですか……、そう、なんですか」

「ええ。全く以って貴女という人はおっちょこちょいで、なんでもかんでも軽視をして、それでいて――なんと役に立たないことか」

「~~~~……っ」



殴りたい。

いや、待て、はやまらないで私。


目の前で、どうやら記憶を失くしたらしき私のことを知っていてなお罵倒をし続けている男性はどうにも自分勝手な人だと当たりを付ける。

しかもそれを平気で言ってのけるのだ、腹が立たないほうがおかしいと言えるのではないのだろうか。



――きっと私は、カントのことがそんなに好きではなかったのだろう――とも、当たりを付けたのだった。

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