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Loop1-2

彼女はどこにでもいる少女だったけれど、どこかおかしな部分もあった。


というよりは、人が心の底に持つものが顕著に現れているだけ――そうとも取れた。



愛されたい、傍にいてほしい、寂しい、一人でいたい――。



彼女の思いは根底にあり、それは誰にも理解できるものではなかった。

実質完全な理解は及ばなくて、どれだけ納得のいくようなものだったとしても、僕はどうしても彼女を恐れてしまう。

彼女を手放しに愛することは叶わなくて、愛さなければと脳が指令を出すけれど、それでも心が拒否をする。


愛していた期間は短いものだったけれど、確かにあの時間はあった。


もう戻らない。



××××



親指で0~10までのボタンを押して、メール作成をしていく。時たまに#や*とかも押すけれど、それはデコレーションをするときにだけ使うため、文章作成だけならば必要のないものだった。

といっても、私もイマドキの女ではあるので、内容を華やかにするためにそういう機能を使うときは頻繁にある。


そんな過程を経てできあがったメールを見て、斜め左にある送信ボタンを押す。



「よしっ」


やっと買ってもらった携帯電話はもうイマドキな最新鋭なものではなかったのだけれど、それでも手紙以外ですぐ友達と会話ができるという物は、私にとっては十分すぎるくらいに重宝する価値のものだった。



「……っあ。そういえば、お姉様からティータイムの約束をしていたんだったわ! 忘れてた……!!」


勢いよく立ち上がって、今まで座っていた広い庭を見渡す。



と。



近くにあった木の裏から、どうして気づかなかったんだろうと疑問に思うくらいに大きくて異質な棺を背に抱えたひょろながの男性が顔を出した。


「!?」


目をいっぱいに開いて、思わず後ずさってしまうような見た目。


当然のように、私はこの人を知らない。むしろ屋敷の住人じゃないことは明白で、これは淑女にあるまじき金切り声のような叫び声を上げても許されるのではないのだろうか。



「アリス」


「っ!!」


びくんっ、となる。


思ったよりも断然低い声に暗い何かを感じた。彼の雰囲気はいかにも――という表現では表しきれないほどに異質で、まるでお葬式でのあの陰湿、陰鬱さを凝縮させて形を成したかのような「恐るるべきモノ」だった。


そんな自分とは明らかに違うモノに、一気に私の脳に備え付けられていた警報機能が鐘を鳴らす。


踵を返し、屋敷へと猛ダッシュで駆け抜けようとしたその瞬間――



「っあ!?」


「善は急げ――遠回りはしない。行くよ、アリス」



――私の手首は、彼の掌に。



××××



気づいたときにはここ。


陰鬱で、でもどこか現実味というものから(だかといって幻想的とも)離れた、ホコリっぽい場所にいた。……ご丁寧に手首と首に重たい鎖というオプション付きで。

地面は硬く、決してつるつるとした肌に優しい素材などではなかった。


目の前には、刃のついた何かを手に携えた看守。



「処刑場って――私、なにもしてないわよ! 悪いことなんて、なにも……っ」

「しらばっくれんじゃねえ、この〝忘却〟!!」


忘却……?


「だからなんのこ、」


瞬間。


重く鈍い感触が、鎖を通じて伝わる。


一拍後、先程まで重たくぶら下がっていた感覚が消え、その代わりに軽くなった手首が押されるように前へと出る。


「(鎖が……)」

消えていた。

さすがに名残はあったけれど、長く曲線を描いていた鎖はものの見事にぷつんと途切れていた。


反射的に後ろへと振り向くと、そこにはやはりというべきなのか見知らぬ人がいた。



「…………」



一見して黒いトレンチコートらしきものを羽織った背の高い男性。

女性のように腰より上辺りにまで伸びた銀髪は、こんな暗く陰鬱な場所には不似合いすぎて逆に幻想的にすら見えてしまう。顔は残念ながら暗くて見えない。

「(というか……どちら様?)」

見ず知らずの私を助けてくれた、見ず知らずの男性。


どこか滑稽であり、まるで作中に出てくる登場人物にでもなったかのような気分になってしまう。



「テメェ……ッ、カント。ンの用だ、邪魔しやがって」

「相変わらずの口の悪さが目立ちますが……まあいいでしょう。いま最重要視すべき事柄は、そんなことではありませんから」



カントと呼ばれた男性は、ちらと私へと視線を流した。

だが、すぐに目の前の看守へと戻してしまう。



「私の役目はただ一つ。神が示す道を――命を懸けて導くことです」



カントのその言葉に呼応するかのように地面が眩く光った。



「ッチ。魔術か」


「失礼ですよ。神からの賜りものです」



気を失う前に、私が聞いた最後の会話だった。

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