第九章 豪雨
関東地方に
台風が接近しており
雨が降っていたが
まだ、それほど
強い雨では無かった・・・
会社に着くと
作業服に着替え
職場に向かおうとした
休憩室の前を通ると
ドアが少し開いている
中の話声が聞こえてきた
中に居るのは
チャラ男の
田中浩と
鈴木久美だった
田中「寝てないの?」
鈴木「寝るも何も、
まだ手もつないでないよ」
田中「じゃあ、まだ脅せないじゃん」
鈴木「脅さなくても
私が、お金ちょうだい
って言ったら
いくらでも貢ぎそうな感じだよ」
田中「お前ばっかり
良い思いしてないで
こっちにも回せよ」
鈴木「わかったよ
じゃあ・・・・・・」
僕は走り出していた
雨の中を・・・
どこをどう走って来たのか
気が付けば
踏切の前に立っている
周りに人は居なかった
遮断機が降り
警告音が鳴っていた
あと数歩、前に進めば
楽になれる・・・
電車が近づいていた
前えと歩みだす
一歩一歩・・・
遮断機を越えた。
もう何も
考えられなかった
どうなっても良かった
あと二歩も進めば
確実に線路内だ
もう少しだ
あと少しなんだ
・・・・・
そう思った瞬間
上着を掴まれた
それと同時に
僕のとこだけ
雨が止んだ
誰かが傘を
差してくれている
振り返ると
若い女性だった
僕は
雨と涙と鼻水で
ぐちゃぐちゃの
顔を慌てて
作業服で拭いた
その女性は
自分は雨に濡れながら
「風邪ひくよ」
と優しい声で言った
僕は子供のように
声を出して泣いた・・・
数十センチ前を
上りの普通電車が
通過していく。
雨は強さを増して
降り続いていた・・・