第八章 着信
メールの着信音が鳴った・・・
鈴木久美とは
電話で話すことは
無かったが
何日の何時に、どこで
待ち合せ、というメールは
毎週来た
久美は待ち合わせた時間に
来たことは無いが
悪びれる様子は無かった。
休日のたびに
鈴木久美とは会った
時間で言うと
2~3時間程度だが
デートと言っても
食事と買物位
食事はいつも久美が
指定する高い店
食事中も会話は
ほとんど無く
久美は携帯を、いじっているか
友達とだろうか
電話したりしていた。
ある日、食事をしているとき
僕がトイレから戻ろうとすると
久美が僕の携帯を
こっそりと見ていた。
でも、そんな事は気にしない
買い物の時も
だいたいブランド物だった
某ブランドのバッグを
ボーナスで買うよう
約束させられてしまった。
そんな事、気にしない・・・
デートを重ねるたびに
服装が派手になっても
化粧が濃くなっても
香水がキツくなっても
タバコの本数が増えても
茶髪から金髪になっても
何も、気にしない・・・
それで良かったんだ
僕の薄給は
あと家賃代位しか
残ってはいなかった。
食事も
おばあちゃんが送ってくれた
米・缶詰・漬物・梅干で
しのいでいた。
おばあちゃんには
初任給で何か買ってやろうと
思っていたが
それも出来ていない・・・
手紙を送っただけだ
次の給料では必ず!
これだけは
やらなければならない。
困窮した生活を過ごしていたが
僕は、それでも良かった
人と接するのが
楽しくなり始めていた
人と会って話をする事が
嬉しかった・・・
アパートの一室
薄暗い灯りの中で
今夜も着信音が
鳴っていた・・・