第七章 晩春
それは突然だった
初の給料日で
少し浮かれていた
仕事が終わり
着替えて帰ろうとすると
声を掛けられた
ヤンキー風の
鈴木久美だった
今度の休みに
食事に行こうと言う
こんな事は初めてだ
しかも女性と、まともに
喋ったことなど無い。
どうすれば良いんだ?
とりあえず
食事に行く約束はした。
軽くパニックに陥る
その日から
休日までの間
何も手につかず
仕事ではミスを
繰り返し怒鳴られ
食事も喉を通らず
休日の事ばかり
考えていた。
約束の日の朝
昨夜は
一睡も出来なかった
一張羅の服を着て
待ち合せの駅前に向かった
30分程早く
到着してしまった
緊張はMAX
心臓はバクバク!
震えが止まらない
しかし予定の時間になっても
彼女は来ない・・・
10分 20分 30分・・
すっぽかされたのか?
1時間が経った・・・
「やっぱり騙されたんだな」
そう思って帰ろうとした時
そこに彼女は居た
鈴木久美 21歳
茶髪で服装は派手だが
容姿は可愛い女性だった
遅刻について
謝りはしなかったが
そんな事は
どうでも良かった。
食事は彼女が予約した
僕は入ったこともない
高級なレストランだった
僕はレストランでの
記憶がない
何を食べたのか?
何の話をしたのか?
まるで覚えていない。
気が付けば
アパートの
部屋の中に立っていた
もう深夜だ!
何時から
そこに立っていたのかも
どうやって帰って来たのかも
分からない。
ただ一つ確実な事があった
僕の携帯には
鈴木久美の
電話番号とメールアドレス
が入っていて
来週はデートの約束を
している、という事。
今年は低温な日が多く
季節はようやく
本格的な春を
迎えようとしていた・・・