第六章 連鎖
その日は
朝から曇り空で
湿度が高く
気温も高いため
ジメジメしていて
不快な一日だった・・・
社長も機嫌が悪く
納期までに
しっかり仕上げろとか
歩留りが悪いとか
作業効率が悪いとか
グチグチと
説教された。
不景気なんだから
こんな小さな会社は
大変なのは分かるが
従業員に当たられても
筋違いと言うものだ
会社の中の
雰囲気もピリピリ
していて嫌な感じだった。
定時で帰ろうとしていると
サービス残業をさせられ
仕事が終わり
帰路に就く頃には
もうクタクタだった
帰って早く休みたかった
駅に向かい
電車に乗り込むと
こんな日に限って
もの凄い通勤ラッシュだった
座席に座れることはなく
立っているのがやっとの
鮨詰め状態で数駅
我慢する事となった
電車内は異様な熱さと
牛乳が腐ったような匂いと
汗のベトベトで
非常に気持ち悪かった
この究極の苦痛を
耐えること十数分
異常に長く感じたが
やっと最寄り駅に
到着した
慌てて降りた訳じゃない
押し出されるようにして
ホームに降りると
結果、前の人を押して
しまう形となった。
紙袋を持ち小柄で
メガネを掛けた
細身で長髪の男性だった。
その男性は転倒した
僕はすぐに
「すみません、大丈夫ですか?」
と言ったが
人波に呑まれ男性の姿が
見えなくなってしまった。
僕は罪悪感に苛まれた
男性が転倒した時に
僕を見た顔が
頭から離れない
あの憎悪と言うか
憎しみに満ちた顔・・・
アパートに帰っても
思い出した
しかし数日過ぎると
この日の出来事など
無かったかのように
記憶の中から
消してしまっていた
その日が来るまで・・・