第十章 愚者
白い綺麗な
アパートだった・・・
彼女の部屋の
キッチンのテーブルに
向かい合わせで
座っていた
僕は断ったが
どうしても入れと
後ろから押され
中に入った
緊張と
恥ずかしさで
何も喋れず
ただ、うつむいていた
熱い紅茶と
手作りだと言う
クッキーを出してくれた
彼女は
いろいろ喋ってくれた
名前は
佐藤真弓という事
歳は23歳という事
職業は
看護師で
夜勤明けだという事
僕は何も聞いてないのに
明るく話してくれた
汚い作業服で
しかも雨で、びしょ濡れ
なのに
彼女は優しかった
また遊びに来ても
良いと言ってくれたし
連絡先も交換した
ろくにお礼も言えないまま
その日は自分の
アパートに帰った
社長からは何十件と
電話が掛かって来たが
でる気には、なれなかった
2日ほど会社には
行けなかった
社長からの電話も
掛かって来なくなっていた
この間、久美からの
メールは一件も無い
そのかわりに
真弓からのメールは
毎日あった
とりとめのないメールだが
嬉しかった
3日目の朝
僕は辞表を持って
会社に向かった
社長の対応は
非常に冷たかった
退職と言うより
解雇だった
仕方がない
2日も無断欠勤したんだから
全て僕が悪い
手続きを済ませ
私物を持って
会社を後にする。
久美には会わなかった
これで僕は
仕事も金も
人間への信頼も
全てを失った・・・
自業自得だろう
浮かれていたんだ
こんな僕は
夢なんか見ちゃいけなかったんだ
アパートへ帰る途中
携帯が鳴った
真弓からのメールだ
今度、食事に行こう
という内容だった。
これはデジャブなのか?
悪魔の策略か?
それとも
天使の微笑か?
真弓が
悪魔だろうが
天使だろうが
僕の答えは決まっていた
食事に行くと
メールを送信すると
通勤で毎日使っていた
駅に向かった。
セミがうるさく鳴く
暑い日だった・・・