シークエンス12まで
―――シークエンス7
「警察に電話しろよ。」
「いやよ。」
「爆弾なんて手に負えないだろ。」
バックを手渡される。バックの中には、でっかい爆竹が入っていた。訂正する。俺たちにも手に負える爆弾だ。だが、良くこれが爆弾だとすぐに判断できたな、見ようによっては色紙で包んだ焼き芋にも見える。しかし、何のためにこんな事をするのか、犬が欲しいなら黙って盗めばいい、爆弾魔なら犬を盗む必要は無い。
「この爆弾、貴方なら作れる?」
「まぁ、何とかなるんじゃないか?」
見た目的に爆竹を大きくしてみましたと言う形だ。まぁこんなもの爆発させたらそいつが怪我するだろうけど。
「ふぅん。」
瞳の言い方が少し気になったが、そんなことよりもう帰りたい。危険を察知した後輩は逃げ出したので、ここにはさきのん先輩と俺、瞳しかいない。ガラッと教室に男女の二人組みが入ってきた。さきのん先輩にくいくいっと袖を引かれる。
「誰?」
それは俺にもわからない。
「紹介するわ、一年生の高野君と関谷さんよ。」
軽く会釈される。関谷さんは本当にタマタマタマと呟いていて怖い。
「私は今日一日、この事件について調べた。」
話を聞く限り関谷さんが犬がいないのに気付いてから、三時間ほどしか立っていないので、そんなに時間を掛けて調べてはいないはずだ。
「高野君は、関谷さんのことをストーカーしていた。関谷さんの愛犬に発情してもおかしくない。つまり!」
帽子を深く被る瞳。
「残念ながら、君が犯人だ。」
高野君とやらをびしっと指差す。
「おい待て。」
高野君が泣きそうになっているぞ。そして高野君も三時間でストーカーってばれているんじゃないよ。
「私、卒業式が終わったらすぐにタマに会いに行きました。卒業式に出ていた人間に犬を盗むのは無理だとおもいます。それよりストーカーってどういうことですか?」
関谷さんが言う。最後のほうは高野君に向けた言葉だろう。
「そ、それは、こう、こっそり抜け出して。」
「先生が体育館の出入り口の前に立ってたぞ。」
今度は俺が、フォローしてやる。
「そうですよ、俺、卒業式中ずっと体育館にいたッスよ、っていうか、ストーカーもやってないっす。」
関谷君が口を開いた。今度は瞳が泣きそうだ。
「うるせー。」
瞳は部室を出て走っていってしまった。
―――シークエンス8
「いや、まじでストーカーじゃないって。」
瞳が外に出てから、被害者が一人。関谷さんに高野君は必死に弁明している。
「あ、うん。」
関谷さんは露骨に高野君が近づくのを警戒しながら出て行った。誤解されたままなのは確実だ。それが誤解かどうかは知らないが。とうとう泣き出す高野君。
「もうダメだ。俺は世界から拒絶された。今日も子供たちの絹を裂くような悲鳴が聞こえる。」
うわごとと呟きながら教室を出て行く。
「追う。」
さきのん先輩はそういってついていく、ずっと俺の袖を掴んだままだったので自然と俺もついていくことになる。
屋上にまできてしまった。
「あぁ、神の呼び声よ、生まれ変わる時はどうか関谷さんと同じ星に…、今から向かいます。」
遂に独り言もクライマックスになってきた。
「とととととととと止めて来て。」
さきのん先輩がもう使い物にならない。
「ダイジョブだって、ああ言う奴こそ自殺しないって言うし。」
「でも、もうフェンス越えたし。」
「いや、あれだし。」
「ひまわりの種二個で。」
別に俺、ひまわりの種をもらえれば何でもするわけじゃないよ?だってここで関わって、逆にあれになる事だってある。
「三個。三個で十秒だけでもいいから止めて来て。」
さきのん先輩も必死になってきた、ちなみにひまわりの種三個は《マジでお願い》レベルだ。それでも俺は渋る、出来ない、無理だ。
「…主人公っぽく止めて来て。」
なんかハードルがあがったが関係ない、俺はやらない。
「そこはかとなく熱く。」
「何でだんだん難易度が上がっていくんだよ…。解ったよ。」
これ以上無理な事を言われたら敵わない。何か言いくるめられた気もするがまぁいい。
俺は屋上に出て、高野君に近づいていく、相手も気付いたようで振り返る。
「止めないでください、俺と関谷さんはエデンで結ばれるんです。」
言ってる事訳わかんねぇ。だが、あきらめて帰ろうにもさきのん先輩がいる。よしさっさと十秒を終わらせよう。俺は大きく息を吸う。大切なのは勢いだ。
「お前の関谷さんへの思いはそんなものだったのか!馬鹿野郎、この世界でも関谷さんを幸せにしてやらなきゃどうするんだよ!いいのか、関谷さんが他の男に取られても!お前しか関谷さんを幸せにできないんだろ!眼を覚ませよ!お前がここで死んだら悲しむのはお前じゃない!関谷さんじゃないのか?やり直せとは言わない、だが、お前の愛はそんなもんだったのか!ほら、こんなシナリオで満足できるほどお人よしじゃないはずだ!」
十秒終了。
「え、あ、はい。」
屋上から飛び降りようとした俺を、止めてくれたのはさきのん先輩だった。
―――シークエンス9
俺が恥ずかしくなって凹んでいるのを見て、さきのん先輩は俺にひまわりの種を3袋くれた。
俺はそれを食べながら、卒業式から気になっていた、「書は心」を読んでいた。
なるほど、いい言葉だ。校長先生やるじゃん。
メールが来る、
「「事件の真相がわかった、いまか」」
メールがまた来る。まだメールを途中までしか読んでいないのに忙しい奴だ。
「「ら推理を話す。」」
ここで?
三通のメールに文字が敷き詰められていた。これになんと返信すればいいんだろう。
「ひまわりの種をおいしく食べる方法ってないかな?」
瞳に返信して眠りについた。やば、腹痛くなってきた。ひまわりの種を食べすぎた、何か調理法を真剣に考える必要がある。メールは読まなかった。
―――シークエンス10
ひまわりの種でクッキーを作った。パッサパサでおいしくない。今日は教室でさきのん先輩を探したら、なんと俺の斜め後ろの席だった。クッキーを分けてあげたが、反応はやはりいまいちだった。
「私さ、関谷さんと話した事あるんだよね。」
さきのん先輩はいつもどうり話しかけてきた。
もしかしていつもこんな風に話しかけてきていて、俺はそれにずっと気付かなかったのかもしれない。そういえば、文化祭の時ミスかわいそうな人にノミネートされていたのは俺が原因かもしれない。
俺はどんな顔で接すれば良いのか解らくなっていた。
「聞いてる?」
「聞いてる聞いてる。」
「私、犬が欲しくて、関谷さんが詳しいって言われたから…聞きに行ったの。」
「そういう所の行動力だけ半端無いよね。」
「それで、
~~
もみじは、昇降口で帰ろうとする関谷を呼び止めた。
「関谷さん、犬について教えてくれない?飼いたいと思ってるんだけど。」
関谷はいきなり話しかけてきたもみじに怪訝な顔をしていたが、犬という言葉に興味を示したようで、靴をいったん脱いだ。
「えっと、二年生ですよね? あ、犬飼うんですか?」
「うん、まだ決めてないんだけど、欲しいなーって。」
もみじがそう答えると、関谷はもみじの手をぎゅっと握った。もみじが関谷の顔をなんだろうと見ると同時に関谷は語りだした。
「お勧めは、サルーキーが飼い易いですね、ですけどやっぱり有名どころだとドーベルマンとかゴールデンレトリバーの方がいい気もしますし、、、あ、私ですか?私はやっぱりボースロンあたりがかっこいいからなぁ、でも私の勝ってる中で一番人懐っこいのは、アイリッシュセッターのメメちゃんなんですけど、これがすごく可愛くて、あ、でも私の飼ってる他の子がかわいくない訳じゃなくて、アラスカンマラミュートのロックもかわいくて、いや、みんなかわいいんですよ?それに愛着があったりしますし、確かにお風呂嫌がることとかもありますけど、手の掛かる子ほどかわいいって事もありますし、、、最近イングリッシュセッターも熱いと思うんですよ。それで欲しいんですけど、二十二匹目ともなるとさすがに餌代もばかにならなくって、、、ちなみにイギリスのイングランド原産のセッター犬種で世界でもっとも有名なセッター種でして、単にセッターと呼ばれることもある世界中で非常に人気があり、世界一著名なセッター犬種として認知されていまして、実猟犬として飼われることも多いんですが、ペットやショードッグとしても多く飼育されてもいるんです。又、身体能力が高いため、ドッグスポーツにも使用されているすごい犬なんですよ。あ、そうだ私今からアルバイトだった。すいません先輩、私これからバイトはいってるんで、さよならー。」
~~~~
って感じ。」
今日はめちゃくちゃ喋るなさきのん先輩、やっぱり俺が教室でさきのん先輩に気付かなかった事を少なからず、意識していたのだろうか。
「あと、今思い出したんだけど、、、、、
さきのん先輩がこれほどまでになく喋るのを聞き漏らさないようにはしながらも、 俺の罪悪感は募り続けた。
学校の帰り、瞳に同じ爆弾を作ってきてといわれたので、100円ショップで爆竹をたくさん買う、金は後で高野君に請求するから、バックいっぱい買った。とりあえず同じ爆弾を作ればいいのか。なんかわくわくしてきた。中学の時作ったロケットを思い出す、空中で大破したのはいい思い出だ。
それで思い抱いた、俺すごい不器用だ。まぁなんとかなるだろう。
瞳から預かった爆弾の中身を見る。どういう構造なのかを見るためだ。でっかい爆竹みたいな形の爆弾の皮みたいなのを一枚ずつめくっていくと、大量の砂が出てくる。火薬は入っていない。おかしいなと首をかしげながらもとりあえず、瞳に電話する。
「もしもし、俺だけど。」
「「俺俺詐欺ですか?」」
瞳の声じゃない、誰だ?
「誰?」
「「拓未です。」」
あのウザイと評判の弟か。
「お姉さんに代わってくれ。」
と言うか、なぜ姉のケータイに弟が出るんだろう?
「「はい、もしもし。」」
今度は瞳の声だ。
「なんか爆弾の中身が砂しか入ってないんだけど。」
「「爆弾って何の話ですか?ちなみにさっきのは僕の声帯模写です。」」
うざっ
俺はケータイ電話の赤い受話器のボタンを連打した。。
―――シークエンス11
今日も部活だ。学校の授業の描写などない。
部室に行くと、さきのん先輩はもちろん、関谷さんと高野君もなぜかいた、二人の距離感から関谷さんは高野君の事を嫌っているようだ。
先に来ていた瞳が口を開く。
「今日は後輩達には先に帰ってもらったの。」
瞳はあの帽子を被る。
「この、子犬誘拐事件の真相がわかったわ。」
どうやらこいつはずっと調べていたらしい。俺は既に先生とかに任せたものだと思っていた。
だが良かったじゃないか、人を助けることはいいことだ、俺のしたことは爆弾を作っただけだが、人助けの助けになったのなら報われたといっていい。
「まず、灰、ありがとう。冗談で言ったのだけど、爆弾を作ってくれようとしたのね。それで中には砂しか入っていなかったのね?」
何時になくシリアスな雰囲気だ。ほんの少し緊張しつつもそうだと答える。
「謎は解けたわ。まず、犯人は卒業式に出ていない。出ていたら犯行は不可能よ。しかし、生徒以外は校舎内に入れないように交通委員が見回りをしていたわ。」
だけど、と言いながら瞳は玩具のパイプを口に咥える。
「つまり犯人は学校を休んでいた人間となる。だけどね、みんなにはしっかりとしたアリバイがあった。」
「でも卒業式を抜け出した人間が一人だけ、これは先生に聞いたから間違いないわ。犯行ができるのはその一人しかいないのよ。」
「あ。」
さきのん先輩も気付いたらしい。それは俺だ。
「あと、証拠である爆弾を貴方は秘密裏に処理した。これは昨日の夜に弟に聞いたわ。」
瞳はあの帽子を深く被る。
「残念ながら、私がどうあがいてもお前が犯人だ。」
関谷さんがバックからはさみを出す。
「殺す。」
小さな声だが確かに聞こえた。なぜか変な汗がでてきた。
だが、その時俺には解った。全部解った。犯人と動機、完璧にいや、犯人は初めからわかってはいたんだけど。俺は走り出す。うむ、スピード解決が必要だ。
「タマを返して!」
関谷さんが追ってくる、めちゃくちゃ速い。そういえば陸上部だっけか、なんか犬の散歩のやり過ぎで全国に通用する足を手に入れたとかでスカウトされたとか。真面目に陸上をやっていた人がかわいそう過ぎる。
カオスが廊下を歩いている。いいところに!
「カオス、フォーメーションIだ!」
「えっなにそれ?」
意味の解っていない様子のカオスを関谷さんのほうに突き飛ばす。ちなみにIは生贄のIだ。影の薄いカオスは人とぶつかるのが得意だ。関谷さんもやはり気付く事ができず、正面からぶつかった。この間に体育館に急ぐ。体育館の前に瞳が立っていた。まっすぐ靴を履いて外から来たらしい。
部室からだと、体育館には外から回ったほうが近い。
「お前がここに来る事は、推理済みだ!」
「なんでだよ!それが解るんなら犯人が俺じゃないことも解ってる事になるだろ!」
「実は唯の勘だ!」
「それを推理に生かせ、馬鹿!」
「馬鹿とはなんだ、馬鹿!」
やばい、そんな言い争いをしていると鬼の形相の関谷さんが追ってきていた。
カオス、、、死んだな。
「そこどけ!」
「嫌だ!お前が犯人じゃないとダメなんだ!」
「俺は女子供だろうが殴れる!」
「なな、何を真面目な顔して最低な事を言ってるんだ!」
怯んだ瞳の横を通り抜けて体育館の中に入る。中では剣道部が練習していた。その中で大橋と書いてある、たれネームを見つけそいつに駆け寄る。
「大橋、お前犬知ってるだろ。それすぐに返せ、俺が死ぬ。」
大橋はすぐに思い出したようで、
「犬? あぁ、あの学校にいた奴か。あれは迷い犬ぽかったから、先生が預かってるぞ。」
と言った。 そう、俺はあの日保健室で見ていた。風紀委員の大橋君が大型犬を捕獲しているところを。
責任感の強い大橋君は、朝の時点で犬を偶然見つけて放って置けず、卒業式を休んで保護をしようとしていたんだろう。ただ、その犬はでっかいゴールデンレトリーバーで、タマと言われても俺を含め誰も気付けはしなかったのだ。
俺はさきのん先輩との会話で、関谷さんが挙げた犬の種類が全て大型犬の名前である事を知っていたが。
―――シークエンス12
こうして事件は解決した。
そしてみんなが帰った後。
真犯人を携帯で呼び出す。




