第6話 ガゾン男爵の改心(と、その後のこと)
翌日から、ラヴェルト領は変わった。
まず男爵が、泣きながら街の広場に出てきた。
宝石の指輪は全て外し、豪奢な礼服の代わりに、茶色い普通の上着を着て。しかし目だけは、昨日とは別人のように澄んでいた。
「領民のみなさんに、謝らなければならないことがあります」
広場に集まった人々は、最初、何が起きているのかわからないという顔をしていた。子供たちが親の袖を引っ張り、老人たちが互いに顔を見合わせた。
男爵は話した。四年間の不正について。搾り取ってきた税金について。拷問施設について。賄賂について。
全部話した。
途中で声が詰まった。何度か止まった。しかし全部話した。
広場が静まり返った。
それから、一人の老婆が前に出てきた。宿の主人の母親だという、八十近い女性だった。よぼよぼと足を引きずりながら、男爵の前まで来た。
「男爵様」
老婆は言った。
「謝ってくれるだけで、ええんですか」
男爵は頭を下げた。膝まで曲がりそうなほど、深く。
「蓄財を全て返します。そして……王都に、自首します」
老婆は、しばらく男爵を見ていた。それから、深くため息をついた。
「……そうかい」
それだけ言って、老婆は背を向けた。しかし何歩か歩いてから、立ち止まって振り返った。
「謝ってくれたこと、覚えておきますよ」
老婆の声は、静かで、重かった。赦しではなかった。しかし拒絶でもなかった。
何かが、そこに確かにあった。
二日後、ゼノが揃えた記録書類を抱えて、ガゾン男爵は王都へ向けて出発した。
護衛はつけなかった。
逃げる気がなかったからだ。
「この四年間、どれだけ取り立てたか、全部覚えています」馬車に乗り込む前に、男爵はナナに向かって言った。「全額、利子をつけて返します」
「えらいですね」
ナナは微笑んだ。
男爵は何か言いたそうな顔をした。あの光の意味を、あの重さの意味を、尋ねたそうな顔だった。しかし結局、何も言わなかった。
ただ深く頭を下げて、馬車に乗り込んだ。
馬車が動き出し、石畳の道を下り始め、やがて城門の向こうに消えた。
広場に残された人々が、ざわめき始めた。
「本当に……自首するのか?」
「あの男爵様が……?」
「いったい何があったんだ……?」
ナナの方を、みんなが見ていた。白いドレスの、金髪の、穏やかに微笑む令嬢を。
「あの旅の方が、なにかしたのか」
「愛がどうとかって聞いた」
「どういうことだ」
子供が一人、ナナに近づいてきた。七つか八つくらいの、痩せた男の子だった。昨日の路地の子供たちの中の一人だろう。
「おねえさん」
「はい」
「なんで男爵様は泣いてたの」
ナナは腰を曲げて、子供の目線に合わせた。
「愛が届いたんですよ」
「愛って、なに」
ナナは少し考えた。
「あなたが今、ここにいていいと思えること、かしら」
子供は首を傾けた。よくわからなかったようだった。
しかし何かは伝わったのか、その子は小さく頷いた。そして走って、広場の端にいた友達のところへ戻っていった。
「……何を伝えたんですか」と隣でゼノが言った。
「さあ」
「さあって」
「でも、なんとなく伝わった気がしますよ」
ゼノは眼鏡を直した。
「記録します」
「何を」
「ナナ様讃歌・第二巻、第四十八章、愛の定義について」
「……そうですか」
ナナは立ち上がった。




