表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛が重いと捨てられた公爵令嬢ナナ、世直しの旅に出る  作者: 風谷 華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/10

第6話 ガゾン男爵の改心(と、その後のこと)

翌日から、ラヴェルト領は変わった。


まず男爵が、泣きながら街の広場に出てきた。


宝石の指輪は全て外し、豪奢な礼服の代わりに、茶色い普通の上着を着て。しかし目だけは、昨日とは別人のように澄んでいた。


「領民のみなさんに、謝らなければならないことがあります」


広場に集まった人々は、最初、何が起きているのかわからないという顔をしていた。子供たちが親の袖を引っ張り、老人たちが互いに顔を見合わせた。


男爵は話した。四年間の不正について。搾り取ってきた税金について。拷問施設について。賄賂について。


全部話した。


途中で声が詰まった。何度か止まった。しかし全部話した。


広場が静まり返った。


それから、一人の老婆が前に出てきた。宿の主人の母親だという、八十近い女性だった。よぼよぼと足を引きずりながら、男爵の前まで来た。


「男爵様」


老婆は言った。


「謝ってくれるだけで、ええんですか」


男爵は頭を下げた。膝まで曲がりそうなほど、深く。


「蓄財を全て返します。そして……王都に、自首します」


老婆は、しばらく男爵を見ていた。それから、深くため息をついた。


「……そうかい」


それだけ言って、老婆は背を向けた。しかし何歩か歩いてから、立ち止まって振り返った。


「謝ってくれたこと、覚えておきますよ」


老婆の声は、静かで、重かった。赦しではなかった。しかし拒絶でもなかった。


何かが、そこに確かにあった。


二日後、ゼノが揃えた記録書類を抱えて、ガゾン男爵は王都へ向けて出発した。


護衛はつけなかった。


逃げる気がなかったからだ。


「この四年間、どれだけ取り立てたか、全部覚えています」馬車に乗り込む前に、男爵はナナに向かって言った。「全額、利子をつけて返します」


「えらいですね」


ナナは微笑んだ。


男爵は何か言いたそうな顔をした。あの光の意味を、あの重さの意味を、尋ねたそうな顔だった。しかし結局、何も言わなかった。


ただ深く頭を下げて、馬車に乗り込んだ。


馬車が動き出し、石畳の道を下り始め、やがて城門の向こうに消えた。


広場に残された人々が、ざわめき始めた。


「本当に……自首するのか?」


「あの男爵様が……?」


「いったい何があったんだ……?」


ナナの方を、みんなが見ていた。白いドレスの、金髪の、穏やかに微笑む令嬢を。


「あの旅の方が、なにかしたのか」


「愛がどうとかって聞いた」


「どういうことだ」


子供が一人、ナナに近づいてきた。七つか八つくらいの、痩せた男の子だった。昨日の路地の子供たちの中の一人だろう。


「おねえさん」


「はい」


「なんで男爵様は泣いてたの」


ナナは腰を曲げて、子供の目線に合わせた。


「愛が届いたんですよ」


「愛って、なに」


ナナは少し考えた。


「あなたが今、ここにいていいと思えること、かしら」


子供は首を傾けた。よくわからなかったようだった。


しかし何かは伝わったのか、その子は小さく頷いた。そして走って、広場の端にいた友達のところへ戻っていった。


「……何を伝えたんですか」と隣でゼノが言った。


「さあ」


「さあって」


「でも、なんとなく伝わった気がしますよ」


ゼノは眼鏡を直した。


「記録します」


「何を」


「ナナ様讃歌・第二巻、第四十八章、愛の定義について」


「……そうですか」


ナナは立ち上がった。



   

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ