第八章 健輔じいさん ~出発の歌~ 13
「ちょっと何すんのよっ、痛いじゃない!!!!!!」
飛騨DGHの外に出た茜は堅太郎の事を思い切り睨みつけた。
「ホラ、この腕の痕見なさいよ。あんたが力ずくで引っ張るからこんなに赤くなっちゃったのよ。痣にでもなったらどうしてくれるのよ!!!!!!!!」
茜は顔を真っ赤にしてヒステリックな声を挙げたが
「さっきからギャーギャーわめくんじゃねぇよ!お前な、さっきから人が黙ってりゃいい気になりやがって、いい加減にしろ!!!!!!」
さっきまで茜から何を言われてもクールに対応していた堅太郎が大声で怒鳴った。
「な・・・・・・・・何なのよ。私が一体あなたに何をしたって言うのよ!大体森沢さんこそ何なのよ。私がここに来たときから何かと目の仇にしちゃってさ、私があなたに対して何か危害でも加える様なことしたっていうの?ねぇ、何とか言ったらどうなのよ!!!」
茜は初対面の時から自分の事を汚らわしい存在として扱う堅太郎の事が腹立たしく思っていた上にどうして彼がそこまで自分の事を毛嫌いするのかさっぱり分からなかったのである。
「お前本当に自分がどれだけ俺や健輔じいさん、そして周りの皆に迷惑をかけているのかぜんっぜん分からないのか?」
堅太郎は茜のその態度が信じられない、と呆れ顔で言った。
「お前バカか?さっきどうして俺がお前から健輔じいさんを奪い取ったか教えてやろうか?健輔じいさんがあんな状態だったのにあの悪天候の中、お前の単車の後ろに無防備のまま無理矢理乗せて長時間乗りっぱなしにしようとしたんだぜ!もしあの時本当にお前が健輔じいさんを乗せたまま突っ走ったらどんなに大変な事になるのか分かってんのかよ?確実に死んじまうって事くらいお前にだって分かるハズだろ!!!!!!!」
堅太郎は既に70歳を超えた老体である健輔が呼吸するのも辛い程苦しんでいる状態の中、バイク初心者の茜が雨の中ヘルメットも何もつけないまま、2時間以上の走行がどれだけ取り返しのつかない事になるのかを指摘した。そして
「それだけじゃない。お前はな、全然周りの空気を読む事も察する事もしようとしないし自分さえ楽しければ他人の事なんて一切お構いなし、ハッキリ言って傍若無人そのものなんだよ!」
堅太郎はずっと自分の心の中にしまっておいた感情を爆発させるかの如く、茜に
ぶちまけていた。
「ぼ・・・・・・・傍若無人、ですって?!この私が?」
「俺がこれだけ言っているのにまだ分かんねぇのかよ?さっきも公衆の面前でお構いなしに俺に対して大声でわめいたせいで周囲がどれだけ気分を害したのか分かっているのか?
それに昨日も一昨日も1人で勝手に酔っ払って他人に絡んだりして、皆が冷やかな目をしている中お前1人が浮かれてバカ騒ぎしやがって!大半の奴らはお前みたいに能天気に過ごせる訳でもなく、それでも旅に出て少しでも嫌な事を忘れようと努めている中、お前は無神経にも『仕事なんてとっととやめちゃえ』って無責任な台詞を吐いたり、挙句の果てには健輔じいさんに飲めないお酒を無理矢理飲ませたり、とにかく俺も他の奴らも皆お前に対して我慢の限界が来ているんだよ!!!!!!!!!!!」
堅太郎は溜めに溜めまくっていた感情を全て吐き出した。
確かに初日から茜の相手を快く引き受けていたのは健輔とペアレントだけで、周囲は皆冷やかな態度であったが、茜はどうして自分が周りから嫌悪感を抱かれているのか、全く分からなかったのだ。
「そ、そんな・・・・・・・私別に人を傷つけるつもりなんて全然ないのに・・・・・それに私があれだけテンション高かったのも周りが大人しかったからせっかくの旅なんだし明るい雰囲気を作ろうとしただけなのに・・・・・・」
茜は良かれと思ってやった行為が逆に周囲に悪影響を与えていたとはまったく予想していなかった為、堅太郎の言葉をどう受け止めたら良いのかわからなかった。
「おい、本当に自分が出しゃばったり余計なお世話をやいているとは全く考えていなかったのか?」
堅太郎はそう茜に聞くと、茜はうんとうなずいた。
「ふざけるな!本当に思い上がりもいいとこだ!!!!!もういい、勝手にしろ!」
堅太郎はそう言い放つと1人でさっさと屋内へ戻ってしまった。
茜は堅太郎をはじめ他の宿泊客達が自分に対して嫌悪感を抱かれていた事に関してショックを受け、その場でボーッと立ち尽くしていた。
しばらくして人の気配がした、健輔であった。堅太郎との言い争いの一部始終を見てしまったのか、健輔は何かを察したかの如く無言で微笑んだまま茜に近づき、そっと頭を撫でた。
「ん?どうしたんだいお嬢さん。いいんだよ、お嬢さんも堅太郎君も悪くないんだから・・・・・」
健輔は優しく茜に声を掛けた。
「健輔じいさん・・・・・っく・・・・・ひっく・・・・・ぁあ・・・・・ん・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!!」
茜はそれまでずっとこらえてきた涙を我慢できずに大声で泣き叫んだ。
「うんうん、大丈夫だよ・・・・・・・・我慢しなくていいんだよ。」
健輔は泣きじゃくる茜の頭を小さい子供をあやすかの如くそっと撫でた。




