第二章 憧れの君 4
翌朝早速茜は『憧れの君』こと入江勝と共にJR仙石線に乗り、松島海岸駅へと向かった。
「あれれ?松島に行くのって東北本線の松島駅が最寄じゃないんですね。」
「別に松島駅から行けない事はないんだけどさ、松島海岸駅の方がフェリー乗り場から近いんだ。あ、もうすぐ到着するよ。」
仙台駅より快速で約20分の所にある松島方面。駅を降りると目の前に 松島海岸の絶景が2人の目の中飛び込んできた。そしてこの日は梅雨の時期にも関わらず雲1つない青空だった。
「うわぁ・・・いい天気!来て良かった~。ねぇ入江さん、ここからフェリー乗り場までってすぐなんでしょ?早く行きましょうよ!」
どさくさに紛れて勝の腕を組み、 フェリー乗り場へと誘う茜。勝は茜の行動に一瞬驚いたがそのまま一緒に腕を組んだまま歩いて行った。
「左に見えますのは・・・」
フェリー内にて、アナウンスのガイドに従って松島の風景を楽しむ勝。一方勝の事で頭がいっぱいになり、風景を楽しむ事に全く興味を示さない茜。
ああ、全く世の中も捨てたもんじゃあないよね。
だって、だって、だって!
今、こうして目の前に白馬の王子様がいるじゃないの!やっぱり神様は
ちゃ~んと人の事を公平に見て下さっているんだわっ!
ここまで妄想癖が激しいととかえって幸せなのかもしれない。
「あっ、いま仁王島が見えた。ほら、あそこだよあそこ!大橋さん、どう?見えた?」
「えっ????ええ、ああ・・・・・」
妄想の途中で勝に話しかけられ、ようやく現実に戻った茜であった。
フェリーから降り、その後2人は 端巌寺等の観光地巡りをし、松島でのひと時を楽しんだ。そして名所 五大堂に訪れた際にそれは起こった。
「あっ・・・・デジカメのバッテリーが切れちゃった。どうしよう、予備のバッテリーもないし携帯のカメラ機能も全くあてにならないし・・・・」
茜のデジタルカメラの電源が無くなってしまい、困った表情で勝の顔を見つめた。
「大丈夫だよ、フィルムカメラだけど僕ので良ければ一緒に撮って後で送るよ」
「え~、いいんですか?ありがとうございます。」
(フフフフフ、作戦成功!)
これらも全て茜の陰謀であった。
実は前日の晩たまたま勝が所持していたカメラがフィルム式であるのを目にし、“送ってもらうのを口実に住所等連絡先を聞き出そう”という魂胆から、フル充電しておいた自分のデジタルカメラを無駄遣いし、あらかじめ充電済みの予備バッテリーも宿に置いたままにしたのである。
「さて、そろそろお昼だし一旦仙台に戻って牛タン食ってからバスで
秋保温泉にでも行ってひとっ風呂浴びてくるか?」
「そうですね、それじゃあそろそろ行きましょうか。あっ!きゃ~、橋渡るのこわぁ~い!」
五大堂を往復するのに橋を渡らなくてはならないのだが、その橋が曲者で下が丸見え状態の為、高所恐怖症の人だと少々抵抗のある造りなのである。しかし茜自身は全く平気なのにも関わらず、勝に近づく口実としてわざと怖いフリをし、一緒に手をつないで橋を渡る事となった。