第八章 健輔じいさん ~出発の歌~ 3
「ギャーーーーーーーーーーハハハハハハハハ!!!!!!!えぇえぇそうなんですよ!本当に今日は参った!まさかスピード違反で白バイのおっちゃんに捕まるだなんて!!!!」
岐阜県飛騨高山方面に入って初日の晩、宿泊先の飛騨DGHにて茜は泊まり合わせた人達と共に食卓を囲んでいた。そして茜は乗鞍スカイラインにて違反で捕まった事や今までの道中の出来事などを、大好物の酒をぐいぐいと飲みながら大声で捲くし立てていた。
「いや~、それにしても大橋さんって本当にお酒強いねぇ!」
「えぇ?そうですか?こんな量全然健全なレベルですよーーーーーーー!!!!!」
「まぁまぁそう言わずにもう1杯飲んで飲んで!」
「あーーーーーー、嬉しいんだっ!そんじゃあもう1杯!」
茜はペアレントに勧められるがまま酒を注がれてしまい、すっかりと出来上がっていた。
「ぷはーーーーーーーーっ、ああウマイ!この1杯の為に生きているモンだわっ!」
「お嬢さん、本当に元気のいい子だねぇ。ハハハハハハ!」
「そんなーーーーーーーー!健輔じいさんっ!何言っているんですかっ!」
茜は真っ赤な顔をしながら老紳士の背中をバシバシと叩いた。
「それにしても皆大人しいのね。」
茜は他の宿泊客達を見渡しながら言った。それもそのはず、完全に酔っ払って大はしゃぎをしている茜を見て、面倒見の良いペアレントと長年の人生経験から人に対して穏やかに接する事ができる老紳士を除いた全員が顔を引きつらせていたのである。
「ねぇ、そこの貴方どこから来たんですか?日程はどのくらい?何のお仕事に就いているんですか?」
茜は自分と目が合った宿泊客に質問をした。
「ぼ、僕っ?!えぇっと・・・・・・今日から4日間の日程かな?会社員だし有休たってそんなに使える訳じゃないから・・・・・・・・」
茜に名指しされた宿泊客がそう言うと、
「たったの4日?!しかも有休あんまり取れない会社に勤めているだってぇ??????バカ言うんじゃないよ!私を見てごらんよ、長年会社勤めやったってねぇ結局は必要なくなるとポイ捨てされるんだよっ!そんなバカ臭い会社なんてとっとと辞めちゃって私みたいにやりたい放題やってみなさいよ、本当に毎日楽しいわよーーーーー!!!!!!ギャハハハハハハ!!!」
と茜は言いたい放題言っては酒をグビグビと飲み続けたのである。茜がバイクで旅に出てから約5ヶ月。当初は緊張の連続であったが旅慣れをして行く内にちょっとやそっとのトラブルに巻き込まれても抵抗がなくなり、又オートバイのメンテナンスもある程度自分でこなせるようになったせいもあり、完全に自信満々で、【無双】状態と化していたのだ。
するとその時であった。
「・・・・・・・ったくさっきからうるせえな!いい加減飯がマズくなるんだよ!!!!!!」
夕方に茜が浴室へ向かう途中に無愛想な態度を取った青年が舌打ちをし、溜息をつきながら席を立った。
「えっ?ちょっと何・・・・・・・?」
茜は再び青年の”暴言”に対して不快感を顕にした。
「ちょ、ちょっと堅太郎君!皆のいる前で・・・・・・・」
例によって老紳士が青年を嗜めた。
「健輔じいさん、悪いけど俺今日は疲れてるしもう寝るわ。それじゃあ又明日、お休み。」
なぜか青年は老紳士”のみ”に優しくそう言うとその場を立ち去ってしまった。
土橋健輔 76歳
静岡県下田市在住の老紳士で、
長年勤め上げてきた職場を定年退職して
以来自由自適な生活を送り、暇さえ見つけると
放浪に出ては行きつけの飛騨DGHへと立ち寄っていた。
そして周囲から『健輔じいさん』という愛称で慕われていたのだ。
それからもう1人
森沢堅太郎 32歳
東京都杉並区からやってきたフリーフォトグラファーであり、
今回も仕事で飛騨高山方面へ来ていた。
『健輔じいさん』こと土橋健輔とは古くからの知り合いであり、
他の人と同様健輔の事を実の親の如く慕っていたのである。
「お嬢さん、堅太郎君の言っている事をいちいち気にする事はないからね。彼はああ見えても根は本当に優しい子で、本当の堅太郎君の事は僕が一番知っていから。」
「え、ええ分かりました。本当に私気にしてないから大丈夫ですよ・・・・・」
茜は周囲に気遣って事を大きくさせないようにはしたが、堅太郎に対する不満を隠さずにはいられなかったのである。




