第八章 健輔じいさん ~出発の歌~ 2
「それじゃあどうぞごゆっくり。」
茜を客室へ案内してペアレントはその場を後にした。茜も荷物の整理が済んだ後空き時間があったので混雑しない内にお風呂に入ろうと浴室へ向かった。浴室へ向かう途中で談話室の前を通りかかった所で先程チェックイン時に遭遇した老紳士と目が合い、そのすぐ傍に ペンタックス 製の一眼レフカメラのレンズを黙々と磨いている青年がいた。
「どうも、こんにちわ。」
茜は例によってお決まりの挨拶をすると
「おやお嬢さん、さっき受付にいた子だね。どうもこんにちわ。」
老紳士もにこやかに反応した。
「ところでお嬢さん、オートバイでここまでやって来たのかね?」
「ええ、そうですけど。どうして分かったんですか?」
「いや~、何となく身なりで分かったんだよ。」
「あぁ、そうですか・・・・・・・」
老紳士との会話の途中で茜はもう1人の青年の方に目をやった。彼が持っている一眼レフカメラがあまりにも本格的なプロ仕様のモノだったのでつい目を奪われていたのである。そんな茜の視線に気づいた青年が
「あの・・・・何か?」
と、怪訝そうに反応してきた。
「い、いや・・・・随分と立派なカメラを持っているんだな~って見とれていたんですよ。」
「ふーん、そう・・・・・・・・」
愛想良く振舞う茜に対して青年は終始ぶっきらぼうな態度であった。
(ちょ、ちょっと何よこの人。随分と無愛想じゃないのさ!)
茜は内心青年の態度に対して不快感を感じるも、ここは抑えて笑顔で会話しようと心がけた。
「あ、あのっ!もしかしてプロのカメラマン、ですか?」
茜は何とか会話を保とうとしたが
「別に・・・・・・・・さっきから随分俺に対して関心を持っているみたいだけど、俺が一体何者かなんてあんたには関係ないと思うんだけど・・・・」
と、いきなり見ず知らずの他人から”あんた”呼ばわりをされてしまったのである。
「あ、あんたっ?!」
青年のあまりの言い方に茜はびっくりして目を丸くした。
「こ、これ堅太郎君!何も初対面のお嬢さんに対してそんな口を叩かなくたって・・・・・!!」
老紳士は慌てて青年を嗜めたが、当の本人は相変わらずムスッとした表情で黙々とレンズを磨いているだけであった。
「すまんね、お嬢さん。この爺に免じて許しておくれ。」
「い、いえっ!私の方こそいきなりぶしつけな質問をしてごめんなさい。私なら大丈夫、ぜんっぜん気にしてませんから!それじゃあお風呂行って来ますね。どうもお邪魔しましたーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
茜はその場の空気を乱さないようにひきつり笑顔で立ち去った。しかし内心では
(全く何なのよあの男!何で私があんな奴にアンタ呼ばわりされなきゃならんのさっ!あーーーー、気分悪いっ!白バイの件といいあのクソ男の件といい今日はついてないや!)
と心中穏やかではなかったのである。




