第七章 フローレンスカヲル 5
「ふうーーーーーーっ、久々のドラム缶風呂、最高だったーーーーー!!!!!
それに麗子さんのケーキも相変わらず美味いっスね!!!!!!」
昌男は数年ぶりに雄也ペアレントが”死守”してきたドラム缶風呂へ入って満足した後、これ又久しぶりに麗子夫人のお手製ケーキを頬張っていた。
「まぁ野崎君、そんなに褒めてくれて嬉しいわ!ケーキもお茶もおかわりいっぱいあるから遠慮なく食べて頂戴ねっ!」
「ありがとうございます、そんじゃあ遠慮なくゴチになります!」
麗子夫人に勧められるがまま、昌男はケーキと紅茶のおかわりをした。
「本当に美味しいですね!お風呂上りにケーキなんて滅多に食べないけど、こんなに美味しく食べられたの初めて!」
茜もドラム缶風呂上りに昌男と一緒にケーキを食べていた。
「ところでこの紅茶、何だか不思議な味がしますね。何だかフルーツ系の様な・・・・・・」
茜がそう言うと、麗子夫人がよくぞ聞いてくださいましたと言わんばかりの態度となった。
「ああ、コレね。『初恋のさくらんぼティー』って言うの!そして今あなた達が食べているケーキの方は『秘密のアプリコットパイ』。どう、素敵な名前でしょっ!?」
麗子夫人の口から出てきた名前を聞いた途端、茜と昌男はそれまで口の中に入れていたケーキと紅茶を一気に吐き出した。
「『秘密のアプリコットパイ』だって?!何じゃそりゃ!!!!!!!!!!」
「『初恋のさくらんぼティー』ですって?!凄いネーミングですね・・・・あは、あははは・・・・・」
2人とも一気に食欲をなくしてしまった。
「あら、そんなに驚くことないじゃない。ねぇ、あなた?」
麗子夫人は雄也ペアレントに同意を求めたが、
「わ、悪いけど今日は疲れたからもう寝るわ。そんじゃお先に・・・・・・・」
と、とっととその場から逃げ去ってしまった。
「全くもうっ!!!!!!!!」
麗子夫人がふくれっ面したその時、1人の女性客が茜達がいる居間にやって来た。
「あら、馨さん。ケーキがあるからあなたも一緒にどう?」
と、麗子夫人がその女性客も誘ったが・・・・・・・・・・・・・・・
(や、やばっ・・・・・・・・・)
茜と昌男はその女性客を見て更に絶句した。
橘馨 22歳
福岡県北九州市在住の旧帝大法学部に通う4年生であるが、
常に黒を基調とした ゴシックロリータ
ファッションを身にまとい、本来なら就職活動を行う
べき時期であるにも関わらず、『フローレンスカヲル』
というペンネームでメロドラマ系の少女小説や
ポエム等をインターネット上で公開しており、
今回も新作のネタ探しとしてはるばる九州から
軽井沢までやって来ていたのである。
そして同じく少女趣味の麗子夫人も彼女の作品のファンの1人であった。
「私・・・・いらない。それに今日疲れているからもう寝るわ。」
フローレンスカヲルという名の”自称”乙女小説家の女性は無表情でボソボソ言い、そのまま寝室へと行ってしまった。
「そう、残念ね。じゃあ又明日ね。お休みなさーい。」
麗子夫人は手を振りながら馨が寝室へ戻るのを見送った。
「あ、あのさ・・・・・麗子さん、今の女の人だけど常連っぽい感じだったけど、一体何者なんスか?」
昌男がびっくりしながら馨について訊ねた。
「ああ、馨さんの事ね。彼女ね、現役の大学生でありながらインターネット上で恋愛小説やポエムなどを発表してて、一部のファンの間では大絶賛されているのよ。そして私も彼女の作品欠かさずチェックしているの!」
「は、はぁ・・・・左様でございますか・・・・・・・・」
昌男はどうせコッテコテのとんでもない小説でも書いているに違いないだろうと確信していた。
「そうそう、2人とも、丁度今手元に馨さんの作品があるから是非読んでみてよ!」
茜も昌男も馨の作品など全く興味はなかったが、麗子夫人に無理矢理勧められて仕方なく読む事にした。
キラキラ ドキドキ 私の恋
ねぇ神様 どうしてあの人は私の事振り向いてくれないの?
毎日毎日夜空に向かって 神様にお祈りしているのに
ルンルン ラララ ルンラララ
どうか彼と結ばれます様に・・・・・・
(あは・・・・・あはははは・・・・・・マジヤバイよ、コレ)
(あ、あの・・・・・入江さんに会いたいって思っても、いくら何でもさすがに”ルンラララ”なんて 有り得ないよ・・・・・・・)
2人とも既に思考停止状態であった。
「麗子さん、俺もう寝ます。おやすみなさーい。」
「悪いけど私も寝ます。それじゃあおやすみなさい。」
馨の”力作”を読んだ茜と昌男はせっかくドラム缶風呂に入ったにも関わらず、余計疲労が増してしまい、とっとと寝ることにした。
「あらそう、じゃあおやすみなさーい。さてと、私もそろそろ寝ましょうか。」
麗子夫人も後片付けをして、とっとと寝室へ向かった。




