第七章 フローレンスカヲル 2
「えぇ?じゃあ大橋さんもあの『旅人庵』に行ったんだ。あそこマジですげぇだろ?俺あの時よ、わざと誕生日狙って行ったんだよ。一体どんな祝い方されるのかなって。そしたらよ、もうすげぇの何のって!去年阪神タイガースがセ・リーグ優勝した時の道頓堀飛び込みなんざ比じゃなかったぜ!まさか20代最後の誕生日をあんな形で迎えるとは思ってもみなかったよな。」
「私さ、旅人庵で野崎君の写真見たよ。ウンコ座りしながらピースサインしてケーキ頬張っていたヤツ!あれすっごく可笑しかったよーーーーーー!!!!!!!!」
茜と昌男は休憩場にてお互い積もる話に花を咲かせていた。
野崎昌男 29歳
高校卒業後1浪して茜と同じ短大に入学し、
共に2年間同じ学び舎で学生生活を過ごす事となった。
短大卒業後は元々目指していた公務員試験に
合格する為1年間就職浪人をし、晴れて試験に合格し、
現在は実家がある埼玉県熊谷市を離れ、
川口市内にあるアパートにて1人暮らしをしながら
同県内にあるハローワーク に勤務している。
又、19歳の頃から10年間オートバイに乗っており、
更に旅人歴19年という経歴があり、
ライダー歴及び旅人歴も相当のモノであった。
「ところでさ、大橋さんもバイクでここまで来てんの?」
ボロボロのジーンズに色気も素っ気もない無地のTシャツ、バンダナで無造作にまとめたヘアスタイルの茜の姿を昌男はジロジロと見ながら言った。
「うん、そうなの。まぁ野崎君と比べたら私なんてまだまだ足元にも及ばないけどね。それにしてもさ、うちら短大の頃はお互いそんなに親しくしてた訳でもないのに、よく私の事覚えてたね。」
茜がそう言うと、昌男は思い出したかの如く
「そりゃ勿論!だって大橋さんって超有名人だったからね。2年の時にやった学祭打ち上げコンパの事覚えてる?あの時大橋さんさ、ビール大瓶を1人で何本も開けてそのまま瓶ごと口につけちゃってさ!あの後記憶失って介抱するのに大変だったんだぜ!!!!!!!」
と、茜のかつての『武勇伝』について大笑いしながら言った。
「ちょ、ちょっと野崎君!!!!!どうしてそんなとっくの昔の話事覚えてるのよ!!!!
茜は過去の大失態に触れられてしまい、ひどく赤面した。
「ところで話変えちゃうけどさ・・・・・ゴホゴホゴホ!!!!!!野崎君、私タバコの煙ちょっと苦手なんだよね。ゴメン、ココアまずくなるから煙私の顔に向かって吐かないで・・・・・・・」
茜はヘビースモーカーの昌男が口から吐くタバコの煙に我慢ができずにいた。
「おぉ、悪りぃな!いやーーーー、俺さ、もう何度も何度もタバコ辞めようと思ってはいるんだけどさ、まぁ色々とあってよ、どうしてもタバコだけは辞められないんだよな。」
と、昌男は慌てて口にくわえていたタバコを灰皿へと持っていって火を消した。いくら自他共認める超酒豪の茜でさえもタバコの煙の臭いは大の苦手であった。
「そうそう。大橋さんさ、146号線にいるって事は・・・・これから軽井沢方面まで行くつもりなの?」
「うん、そうだけど。ただまだ宿決めてないんだけどね。軽井沢周辺の宿ってどこも高そうだから安い所見つけるの大変そう・・・・・・。ねぇ野崎君、軽井沢周辺でどこか安い宿あるかどうか知ってる?」
茜は例によって宿泊先をまだ決めていなかった。
「おぉっと!実は俺、今回有給休暇取って昔世話になった宿に行こうとして、これから軽井沢まで移動する予定なんだ。まぁ今夏休みシーズン過ぎてるからそんなに人いないと思うしよ、多分空きがあると思うから今からそこに連絡取ってみようか?」
昌男はかつて短大時代の夏休みにヘルパーとして働いていた『グリーンケイブルズDGH』へ向かう途中であった。昌男がヘルパーをしていた当時はごく普通のログハウスであったが、最近改築したとの事だった。しかし昌男も仕事が忙しくてすっかりご無沙汰してしまい、改装後のグリーンケイブルズDGHがどんな風に変わったのか興味があったのと同時に、ここ最近ペアレントが体調を崩しているの話を聞いて心配していたのである。
「わぁ嬉しい!どうもありがとう。それじゃあ今夜は同窓会だね!」
これまでの道中において、茜は宿をその場で探して決める事が多かったが、永井純平の罠に引っかかって以来極力宿探しを他人任せにしないようにしていた。しかし今回は学生時代の同級生であり、かつグリーンケイブルズDGH自体が少人数制の小奇麗系な宿として女性に人気のある宿として有名だったので、その様な宿に宿泊できる事が茜にとって楽しみであった。
昌男はポケットから携帯電話を取り出して宿に連絡した。
「もしもし、吉田さん?俺、野崎です。実は今日なんですけど連れが1人増えちゃったんですよ。えぇ、えぇ・・・・・・そうです、女1人なんですけど・・・・・おっ!空きありますか?じゃあ予約お願いしておきますわ。」
昌男は茜にOKサインを出した。
「ハイ、ハイ・・・・・・・・えぇ・・・・・ハァ?ちょっと吉田さん!!!!何言っているんスか!彼女連れ!?違いますって!そんなんじゃあないっスよ!!!!!短大の時に一緒だった同級生と偶然再会しただけですって!!!!えぇ、えぇ・・・・・・だーーーーかーーーーらっ!!!!!!違うったら違うんですってば!!!!!嘘じゃないっスよ!!!!!全く・・・・・・・。
ハイ、ハイ・・・・・・そんじゃあ今からそちらに向かいますから。そうそう吉田さん、体調が宜しくないんだからあんまり無理しないで下さいよ。あと麗子さんのケーキ、楽しみにしてるって伝えておいて下さいね。んじゃ又後で・・・・ハイハイ、分かりました。じゃあ切りますよ!」
昌男は電話越しでグリーンケイブルズDGHのペアレントにからかわれ、ぶすっとしながら電話を切った。
「全く吉田さん、あの人一体何考えてるんだよ・・・・・。まぁいいや、じゃあ大橋さん、そろそろ出発するか。」
「うん、そうだね。そうそう、野崎君が乗っているバイク、私すっごく興味があるんだ。」
「おおそうか!最近買い換えたばっかりで今回初めてツーリングに出したんだ。」
2人は休憩所を後にして駐輪場へと向かった。




