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第六章 密室 8

「どどどどど、どうしよう!!!!!!!!」

 茜の目の中に飛び込んだのは食い込んだタイヤレバーによって無残にも傷がつき、使い物にならなくなったチューブであった。しかも不幸な事に予備のチューブがなかったので、外部と何らかのコンタクトが取れない限りバイクの走行はおろか、自力での脱出さえ不可能な状況となってしまったのだ。

「ああ、もうダメだ・・・・・・・。これじゃあもう完全にここから逃げ出す事なんて出来ないじゃない。本当に私、この先どうなってしまうんだろう?もしかしたらあいつに身包み剥がされた挙句、首を絞められてどこかの山奥に捨てられてしまうとか!?そんなの絶対に嫌!!!!ああーーーーーん、誰か助けて・・・・・」

 茜はその場にしゃがみ込んで号泣した。林道で救助された時から胡散臭いとは分かっていながらも純平の言いなりになってホイホイとついて行ってしまった浅はかさがこの時程悔やまれてならなかったのである。


 しばらくして遠くから車が来る音がした。しかし茜はどうせ純平が予定より早く外出先から戻って来たんだろうと様子を見に行く気になれなかった。だがその音が近づくにつれ、純平が乗っていた軽トラックよりもはるかに大きい音だった。

 (もしかしたら違う車かもしれない!)

 そう思った茜は同時にこれが脱出できる最後のチャンスになるかもしれないと判断し、すぐに道路へ出ると、1台の大型トラックが茜の方へに向かってきたのである。

「すみませーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!!」

 茜は藁にもすがる思いで道路をの真ん中に出て、手を振りながら大声で助けを求めた。

「おおっと!!!!!!いきなり飛び出して危ねぇじゃねぇか!一体どうしたってんだい!?」

 運転席横の窓から身を乗り出したその運転手は、見るからしてヤンキー上がりのトラック野郎という中年男性であったが、とにかく一刻も早く逃げ出したかった茜は相手の風貌を気にする余裕など全くなかった。

「すみません!実はバイクが故障してしまって・・・・・・他にも色々と事情があるんですけど、とにかく今すぐここから逃げ出したいんです!お願いします、どうか私を助けて下さい!!!!!!」

 茜はトラック運転手の男に懇願した。

「ちょっと落ち着いてくれよ!それにしても一体どうしてこんな所に若い姉ちゃんが1人でいるってんだい?第一ここの民宿のオーナーの親父さん夫婦だって今留守中なんだろ?あれ?ちょっと待てよ・・・・・・・まさかあの野郎!」

 男が何かを察知したのか、突然顔色が変わった。

「よし・・・姉ちゃん、とにかくあんたの事情は分かったよ。やっぱりあの噂は本当だったんだ!あのクソガキ・・・・・!!!!!!!」

「噂?!何ですかそれ?」

「いや、それは後で詳しく話すよ。とにかくグズグズしてらんねぇ!姉ちゃん、いいか?俺の言う事をよく聞くんだ。バイクは俺がトラックに積んでおいてやるから、その間あんたはすぐに荷物をまとめるんだ。それからあんた何か住所とか個人が一発でバレるもの残してないか?」

 男が茜に尋ねると宿帳に記録した連絡事項の事を思い出した。

「え、ええ。宿帳に住所とか書いたけど・・・・・・」

「それじゃあその手のモノを全部跡形もなく処分するんだ。でないと後々危険な目に遭わねぇとも限らねぇからな。さぁ、早く行くんだ!!!!!!!!!」

 男性にそう指示されると茜はすぐに宿の中に戻り、自分の荷物を急いで整理して脱出する準備をした。


「えぇっと・・・・もう忘れ物は大丈夫よね、後はカウンターに寄って宿帳を処分しないと!」

 茜はカウンターへ立ち寄り、初日のチェックイン時に記帳した宿帳を全てビリビリに破いた。

「これで大丈夫よね・・・・・・そうだ、忘れてた!あの野郎人のヌード写真撮りやがって!」

 軟禁されて以来、何かとつけて脅迫のネタとしていた茜の全裸画像の事を思い出した。しかし肝心のデジタルカメラとバックアップ先のノートパソコンが見当たらなかった。

「えぇ!?どうしよう・・・・・あれを処分しないいけないのに!!!!!!」

 茜は大慌てでカウンター中を引っ掻き回したが、見つからなかった。

「もしかして・・・・あそこかも?」

 茜はすぐ様純平が使用している従業員部屋へと向かった。幸いドアの鍵が開いていたので一気にドアを開くと、机の上にノートパソコンとデジタルカメラが置いてあった。

「これだ!」

 茜はデジタルカメラを手にして画像があるのを確認した後、すぐにメモリを消去して念のために本体ごと壁に力いっぱい投げつけて使い物にならない様にした。

「次はパソコンだ!えぇっと画像はと・・・・・あった!よし、消去完了!だけどこのままじゃ腹の虫が収まらないんだよね・・・・よし、やっちゃえ!」

 茜は突然ノートパソコンを持ち上げると、それを一気に床に叩きつけて壊してしまったのである。

「ハァ、ハァ・・・・・・・フン、ざま~みやがれ!!!!!!!!さぁ、こんな所に一秒たりともいたくないから早く出て行こうっと!!!!!」

 茜は荷物を抱えて足早に宿から去って行った。


「おーーーーーーーーーーーーーーーーーーい、何やってんだ!早く車に乗って!!!!!!!!」

「はーーーーーーーーーーーーーーーーーーい、今行きまーーーーーーーーーす!!!!!!!!」

 トラック運転手の男は車内から身を乗り出して手招きをし、茜もすぐに助手席に乗った。

「よし、出発するぞ。」

 男がエンジンをかけたその時、後方から純平の軽トラックがやって来た。

「やばい、あいつ戻って来たのね!!!!おじさんお願い、早く出発して!!!!!」

「大丈夫大丈夫!俺のトラックがあんなヘッポコ軽トラに追いつかれる訳ねぇって!そんじゃあ行くぜ!!!!!!!!!」

 茜と250TRを乗せたトラックは一気に加速し、猛スピードで発車した。


「おいてめぇ逃げんじゃねぇぞ!!!!!!!!」

 後ろから純平が茜に怒鳴りつけたが、

「ゴチャゴチャうざったいんだよ!!!!!追いつけるものなら追いついてごらんよ!」

 茜は舌を出しながら純平に言った。

「このアマ!!!!!!あの画像ばら撒かれてぇのか!!!!!!!!!」

「バーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーカ!!!!!!!あんなものとっとと消しちゃったよ!あとで自分の部屋見てごらんよ、アハハハハハハ!!!とっとと地獄に落ちやがれ、あっかんべーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーだ!!!!!!!!!!!!」


 茜は今まで純平から受けた仕打ちの恨みを晴らすべく、窓越しから大声で言い返した。

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