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第六章 密室 7

 翌日から早速茜は永井純平の魔の手から逃れるべく、仕事の合間を縫ってカワサキ250TRの修理に取り掛かることとなった。

「えぇっと、チューブ式タイヤの修理方法はと・・・・・・・ゲッ!!!!何コレ!?」

 茜は山口和義から譲り受けたメンテナンスマニュアル本を開き、タイヤ修理の項目のページを探したが、”ホイールからタイヤを外す所からチューブを取り出してパッチを当てるまでの労力を考えても素人が自力で修復するのは困難である”、との事だった。

「そんな~!!!!助けを求められない環境にいるからこそ自分で解決しようとしてるんじゃない!」

 またもや諦めなくてはならないのか、と思った矢先、『時と場合によっては自力でやらなきゃならないときがあるから、万が一そういう時が来たらまず次ページ以降に書いてある説明通りに落ち着いて実行すること。』と端っこに和義直筆のコメントがあった。

 (よし、とにかくマニュアル通りに従ってやってみよう!)

 茜は深呼吸をして工具を片手に持ち、250TRの前に立った。しかしいざ手を加えようと思うと何かとんでもない事をしだかすのではないか?という不安が頭の中を過ぎり、ひるみそうになったが

 (落ち着け・・・・・・・・落ち着け私!!!!!!絶対に出来る、絶対に自力で何とか切り抜けてみせる!!!!)

 と自分に言い聞かせながら作業に取り掛かった。


 まずはオートバイ本体を組立式バイクスタンドを使って立たせるところから入った。しかしバイク本体を持ち上げるだけでも女性である茜にとってはかなりの重労働であり、その上今まで一度も使った事がない、バイクスタンドで固定させる作業ががどれ位大変な事なのか想像に難くなかった。

「痛たたたたたたたたっ!!!!!こんなんじゃ腰が痛くなっちゃうよ・・・・・・。」

 汗と埃まみれになった茜は痛めた体をあちこち支えながらも作業を続けていた。

 マニュアル本によればオートバイを立たせるのが困難な場合は寝かせて作業を行う事も可能だ、との事だったが、例によって『何事にも最初が肝心、とにかくどんなに時間がかかっても絶対に立たせてから修理に取り掛かれ!』と、和義からの”熱い”メッセージが添えられてあった。


 茜はかつて散々和義からどやされながらも転倒した250TRを自力で立たせた事を思い出しながら疲れた体にムチを打って作業を続けた。

 するとその時であった。

「おい、お前一体何やってんだよ。」

 後ろから純平がニヤついた顔をしながらやって来た。

「ふーん・・・・・・、お前タイヤ直してんだ。まぁそんな事したところでお前みたいなド素人にできると思ってんのかよ?プッ!」

 純平は作業中の茜の様子を見ながら嘲笑した。

「別に・・・・・・。ただこのバイク、自分の愛車だから自分で直そうとしているだけですけど?それに空き時間位私がここでどう過ごそうといちいちあなたにとやかく言われる筋合いはないと思います。」

 茜は冷たく言い放ち、そのまま作業を続けた。

「まぁ好きにするがいいさ。ただくれぐれも逃げ出そうだなんて余計な事考えるなよ。こっちはお前の弱み握っているんだしよ、分かってんだろうな?」

 純平はそう言うとその場を後にした。

 (あぁ、本当にムカツク野郎だなっ!!!!あいつの顔見てると吐き気がしてくる!!!!!)

 茜はますます純平に対して嫌悪感が増すばかりであった。


 しばらくしてやっとの思いでバイクをスタンドを使って固定させる事ができ、次はバイクからホイールを外す作業となった。『スパナを使用してボルトを外す』との事だったが、どの工具がスパナなのか茜はさっぱり分からなかったので、とりあえず適当な工具を引っ張り出してボルトを外そうとした。しかしなかなか上手く行かなかった。おまけに不慣れで手つきが悪く、指のあちこちに怪我をしては血を流し、顔も腕も汗と油まみれになっていた。

「あぁ、もうイライラする!!!!!どうして上手く行かないのよっ!!!!!!!」

 自棄になった手に持っていた工具を放り投げ、その場にしゃがみこんでしまった。しかし今、自分でどうにかしない限りは純平の元から脱出する方法が見つからないので、再度マニュアル本に目を通すと、そこにはスパナの写真と” メガネレンチ と間違えないこと”という注意書きが記されてあった。そして先程まで茜が使用していた工具はまさに間違えてはいけないと注意書きがあったレンチそのものであった。


「私って・・・・・・・・・・・・・・バカ?」

 茜は一気に脱力感を感じ、その日はもう修理をする気力をなくしてしまった。又、1日中全ての時間をタイヤ修理に費やせる訳ではなかった。相変わらず純平から掃除しろだの草むしりしろだの雑用を押し付けられ、客など誰も来る訳ではないのに少しでも埃が落ちていたりするとチクチクと嫌味を言われ続けていた。その上茜に対するセクハラ行為もエスカレートし、ひどい時には夜這いをかけてくる時さえあった。その為、茜自身も何が何でもタイヤを修理して脱出しなければならないと少しでも空き時間がある度に修理に励んでいた。


 永井純平によって囚われの身になってから5日目を迎えた。林道でタイヤがパンクした際に純平から1週間程したらオーナーが戻ってくると聞かされてはいたが、とてもじゃないけど彼の言う事が信用できなかったので、茜は自力で出て行く事しか頭になかった。

 しかしこの頃になるとホイールも無事にバイク本体から外れ、後はホイールからタイヤを外して中にあるチューブを取り出し、穴が開いた部分をパッチで止めるのみとなった。だが、実はホイールからタイヤを外す作業がチューブ式タイヤの修理の中でも最も危険で困難を伴う作業であり、ちょっとのはずみで中にあるチューブを傷つけたりでもしたらそれこそ全く使い物にならなくなる事態まで発展するのである。


「よし・・・・落ち着け・・・・・・落ち着け・・・・・・」

 茜は額から流れ落ちる汗をぬぐいながら、ゆっくりとタイヤレバーを使ってホイールのリムからビードと呼ばれるタイヤの耳をゆっくりと落としていった。

 幸いこの日、純平は買出しの為に昼まで外出していた為、茜は彼が戻ってくるまでに何とかしてタイヤの修理を完了させようと集中していた。中にあるチューブを傷つけない様にそ~っとタイヤレバーをゆっくりと動かせてビードを落とし、あと少しでホイールからタイヤが丸ごと外れる所まで来た時であった。


 ぐにゅっ・・・・・・


 タイヤレバーの先から変な音がした。

 (まさか!!!!!!!)

 茜は青ざめ、恐る恐るタイヤの中を覗いた途端

「キャアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」

 と大声で悲鳴を挙げてしまった。


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