第六章 密室 6
「オラァ!何やってんだよ全く。とっとと便所掃除しろって言ってるだろこのボケ!」
秋田県内の奥地にあるとある安宿に来てから3日目、茜はそこのアルバイト従業員である永井純平の罠に引っかかり、散々こき使われる羽目となっていた。しかも当初客が大勢来ると聞かされていたのに実際はチェックインする客など誰1人もおらず、完全に密室の中で純平の監視の下に置かれている状態であった。しかし茜も何とか負けずに対抗していた。
「ちょっと!!!!アンタこそ人をコキ使ってばかりいないで少しは働きなさいよ!!!!!」
茜もいい加減我慢の限界が来て純平に言い返しはしていたが、その度に純平は茜の全裸の画像を見せ付けては脅迫して来るので結局は黙って働く他なかった。しかもただ働かせるだけならまだしも、掃除の仕方や草刈の仕方等、純平は何かと理由をつけては茜の胸やらお尻やらを触ってきたりなど、いわゆる”セクハラ行為”まで受けていたのである。
そんな苦境に立たされている中であっても、茜も何とかして純平の元から立ち去ろうと彼が目を離している隙を見計らって外部へコンタクトを取ろうとしたものの、相変わらず携帯電話の電波が圏外のままで使い物にならず、仕方がないので受付に設置してある公衆電話で連絡を取ろうとするもすぐ傍に純平がいる為に不可能であった。又、荷物だけ持ってとりあえずこの場を去ろうとしてもあの純平の事だから愛車に何か変な事される可能性もあったし、逆上して全裸の画像をどこかの得たいの知れない輩にばら撒かれる危険性があったので、結局何もできない状態のままでいた。
「ふぅ、疲れた・・・・・・・」
やっと1日の仕事が終わって部屋に戻ろうとドアを開けようとした所、中から何かゴソゴソと漁る音がした。
(な、何なのよ!!!!!!!)
茜は慌ててドアを開けると、そこには茜の荷物から物色しようとしている純平の姿があった。
「ちょっとアンタ一体何やってんのよ!!!!!!!!!!」
茜はすぐさま純平から荷物を奪い取ってキッと睨んだ。
「い、いやちょっと別に・・・・・・・・」
純平はその場を取り繕うとするとすぐに自分の部屋へと逃げ出そうとしたが、片手に何かを持っている様子だったので茜はすぐにその腕をぐいっと掴んだ。すると純平の手には事もあろうに茜の下着が握られていたのである。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!アンタ一体どういうつもりなのよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
堪忍袋の緒が切れた茜はとっさにその下着を奪い取り、その場を逃げようとした純平の後を追いかけたが結局追いつかず、1人で空しく荒らされた荷物の片づけをしていた。
「もうこんなの嫌!!!!!!!!本当に私これからどうすればいいのよ・・・・・・・・」
茜は泣きべそをかきながら荷物の整理をしていたが、途中とある荷物が目に入った。
「これ、そう言えばあの時の・・・・・・・」
それは以前北海道にて出会った自称『永遠のライダー』ことハーレー乗りの山口和義から譲り受けた工具セットであった。しかし受け取った当時は入江勝が滞在していると言われていた知床方面へ向かう事で頭がいっぱいだった為にきちんと中身を見る暇がなかったのである。
茜は無言でその工具セットの中身を開けると、驚く事にそこにはメガネレンチ等車載工具の他にタイヤレバー に数種類の スパナ や組立式空気入れ等、チューブ式タイヤの修理には欠かせない工具類がメンテナンスマニュアル本と共に一式揃っていたのである。更にその中には『何か困った事があったらここにある工具とマニュアル本を使って自力で解決できる様に頑張れよ!』と、和義からの直筆メッセージが添えられてあった。更にマニュアル本を開くと、説明文の所々に和義が事細かく書き足したコメントが沢山記されてあった。
「和義さん!!!!!!!!!!」
一瞬茜の目に一筋の希望の光が差し込んだ。そしてかつて”自分の相棒ぐらい自分で面倒見れるようにならなくてはダメだ”と和義から散々叱られた日の事を思い出した。
(よし、とりあえずこの工具を使って自分でタイヤを修理してみよう。どの道それしか今のところ方法が思い浮かばないんだし、このままじゃ本当にあの永井ってバカ男の餌食になってしまう!とにかく明日から早速タイヤの修理に取り掛かろう!!!!)
稚内から留萌に向かう途中で転倒し、和義から指導を受けながら汗まみれになり、自力で250TRを持ち上げた時の事を思い出した茜は今回のタイヤの件も自分で始末をつけようと決心したのである。




