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第六章 密室 5

「そんじゃあとりあえず荷物は部屋まで運んでおくからさ、その間に受付にある宿泊者リストに名前と連絡先書いておいてよ。」

 林道にて走行不可能となったカワサキ250TRと共に立ち往生していた茜を救出し、そのままアルバイト先の宿に連れてきた永井と名乗る男は、到着後すぐにバイクを駐輪場に置いて荷物を客室へと運んで行った。


 その宿は以前北海道留萌市内にあるライダーハウス『富沢ハウス』程ボロボロではなかったものの、古い木造建物に無理矢理二段ベッドを詰め込んだ様な非常に簡素な宿泊施設であった。

「そうそう、今日の宿泊客は君1人だから部屋ン中自由に使って構わないよ。それとあと少ししたらお風呂の湯が沸くからさ、今日は1日大変だったみたいだしお風呂にゆっくり入って疲れを取るといいよ。」

「はい、ありがとうございます。」

 男は簡単に宿の説明をすると、従業員部屋へと行ってしまった。


 永井純平  出身地・年齢・職業等一切不詳

 宿に向かう途中茜はそれとなく純平の素性について

 尋ねたが、”そんな事聞いても野暮なだけ”

 だと軽くあしらわれていた。

 何も教えてくれない純平に対して茜は少々不安に

 感じるものの、どうせ一晩限りの付き合いだから

 茜自身もあまり深入りしない様にしていた。


 「ふんふんふんふーーーーん♪」

 茜は沸いたばかりの一番風呂に入りながら呑気に鼻歌を歌っていた。

 (あーーーーっ!今日は本当に色んな意味で大変だったよな・・・・・・)

 今日1日の出来事を振り返っている時であった。


 カシャッ!!!!


 ドアがある方向からカメラのシャッターらしき音がした。

 (今の音何だろう?)

 茜はすぐに振り向いたが、湯煙に包まれてよく見えなかった。

 (うーん、気のせいかな?とにかく今日はもう疲れている事だし早く寝よう。)

 茜は風呂から上がって着替えた後、寝室に戻ってすぐに床についた。


 翌朝、早起きした茜はすぐに荷造りをしてチェックアウトをするべく受付へ行った。しかしまだ早朝の為か、純平はまだ寝ている様子であった。

 (あーらら、ちょっと時間早すぎたかもね。まあいいや、宿泊料金だって昨日払ったんだしこのまま黙って出て行っても問題ないでしょ。)

 茜は受付にある公衆電話にて宿から一番近い修理屋に連絡し、動かなくなったカワサキ250TRを運んでもらおうとした時であった。

 「何してんの?」

 突然純平が茜の所にやって来た。

 「あ、いや・・・・・・・チェックアウトするついでにバイクも運んでもらおうと思って電話してたんですけど。そうだ、挨拶忘れてましたね。昨日は本当にお世話になりました。けど後はもう1人で大丈夫なんでそろそろ失礼しますね。永井さんのお陰で本当に助かりました。」

 茜はそう言うとすぐにその場を立ち去ろうとしたが、

 「君、ちょっと待って!あのさ・・・・・・・・」

 純平が何か言いたそうな雰囲気であった。


 「あの・・・・何でしょうか?」

 「いやね・・・・実はこんな事すごく頼みにくいんだけどさ、今日はお客さんが沢山来てとてもじゃないけど俺1人ではまかない切れないんだよ。かと言って今更そのお客さんの予約を断る訳にも行かなくってさ、悪いんだけど君、ほんの2・3日で構わないから俺と一緒にここの宿の手伝いをしてくれるかな?」

 純平からの突然のお願いに茜はびっくりした。

 「て、手伝いって!!!!!!そんな・・・・・・・・」

 元々純平に対して不信感があったものの、一晩どこかの宿で過ごさないと次の移動ができなくなってしまうため、気が進まないものの純平の言う事に従った茜であったが、もうこれ以上彼とは関わりたくなかったので丁重に断りを申し入れた。

 「ごめんなさい、申し訳ないんですけど私急いでいるから手伝えないんです。」

 茜がそう言うと、それまで親切だった純平の態度が突然豹変した。

 「おいちょっと待てよ!俺にそんな事言える立場か?昨日は一体誰のお陰で助かったと思っているんだよ?恩を仇で返そうって気なのか?」

 純平は林道の中走行不可能となったバイクと茜を救出した件について恩着せがましく言ってきたが、茜もどうにかして手伝えない理由を説明した。

 「ええ、確かに昨日はあなたのお陰で助かったし感謝しています。だけどそれとこれとは又話が別なんじゃないでしょうか?とにかく私、ここ出て行きますんで!」

 茜がそう言い放つと

 「ふーん・・・・・・あのさ、あんた俺に対してそんな事言える立場なのかよ?ホラ、これ見てみろよ。」

 純平がニヤリと嫌らしい笑みを浮かべながら茜に1台のデジタルカメラを差し出した。

 「ちょっとコレ!!!!!!!!!」

 茜はそのデジタルカメラのモニターを見て愕然とした。そこには昨日の晩、茜が入浴している所が全裸で写されていたのである。

 「じゃあ昨日のあのシャッター音、永井さん、アンタの仕業だったのね!!!!!!どうも胡散臭いと思ってはいたけど、初めっから私のことを騙すつもりでここに連れて来たって事なの!?」

 茜は完全にはらわたが煮えくり返っていた。しかし純平は開き直った様子であった。


 「おいおい、騙すだなんて人聞きの悪い。俺は別に強制的にあんたの事ここに連れて来た訳じゃないし”お願いします”って言ったのはそっちの方じゃないか。もし俺に対して逆らう様なマネしてみろよ、この画像をネット上でばら撒いたっていいんだぜ。そうそう、画像だけど俺のノートパソコンにも保存しておいたからよ、いくらこのデジカメのメモリ消したって無駄だからな。ホラ、あんただってこんな写真ばら撒かれたりするの嫌だろ?だったらつべこべ言わずに俺の言う事を黙って聞けばいいんだよ!」


 純平のあまりの態度の豹変振りに茜はだんだんと恐ろしくなり、このままでは絶対に何かとんでもない事に巻き込まれるに違いないと考えると今すぐにでもここから出て行きたくて溜まらなかったのである。

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