第六章 密室 3
富良野にて靖と別れた茜は近場のライダーハウスにて一晩過ごし、翌日から札幌、小樽、函館へと南下し、約2ヶ月間に渡る北海道周遊に別れを告げるべく、函館港より 東日本海フェリー にて再び東北地方へと戻った。その後青森県から秋田県へと気ままに旅をしながら移動し、8月も終わりに差し掛かった頃には秋田県内にある観光名所である 男鹿半島 に来ていた。
「えぇっと・・・・・よし、送信完了!」
例によって茜は携帯電話のデジタルカメラ機能にて男鹿半島の先端 『入道崎』 から見える日本海の景色を撮影し、友人知人宛に送信していた。
その後は 男鹿温泉 に入ったり遊覧船に乗船して男鹿半島西海岸の風景を楽しんでいた。又、男鹿では『なまはげ』が有名であり、”生身をはぐ”という言葉が訛ったもので、”怠け者を懲らしめる”という意味が込められているのである。茜は 『赤神神社五杜堂』 にて凄まじく迫力がある 『なまはげ立像』 を見て、今更ながら自分が今無職の身である事を思い出し、
(ああどうもスミマセンね、どうせ私ゃ怠け者ですよ。)
とつぶやいたりしていた。
ある日の午後の出来事であった。茜はその頃秋田県内のローカル道を愛車カワサキ250TRに跨って走っていた。そこは細い1本道で人気もなく、道の両側には緑で埋め尽くされており、まさに単車で走るには絶好の場所であった。
すると途中、1本の未舗装道路を見つけた。
以前北海道の礼文島にて、レブンウスユキソウ群生地で有名な礼文林道を走りたかったのだが250TRがオフロード仕様ではない為、泣く泣く諦めざるを得なかった事を思い出した。ところがその後、行く先々でスクーターだろうと何だろうとダートを走っている単車を何度も見かけた茜は一度でいいからダートを走ってみたいという気持ちがこみ上げていた。
(少しくらいなら・・・・・・大丈夫だよね?ヤバくなったらすぐ引き返せばいいんだから。)
欲望を抑えきれなくなった茜は250TRをその未舗装道路がある方向へと向きを変え、そのまま直進してしまった。
(あーーーーっ、すっごく気持ちいい!!!!!!!)
茜はダートの上を心地よい涼しい風と木漏れ日を受けながらゆっくりと走っていた。
(なーんだ、全然平気じゃん!もっと奥に進んじゃえ!!!!!)
すっかりと気を大きくした茜は更に奥へと突き進んでしまった。
しかしその時であった。
シュルルルルルルルル・・・・・・・・・・
後方部より空気の抜ける音がしたのと同時に一気に250TRの速度が落ちてきたのである。
「なななな、何?もしかして・・・・・・パンク!?」
茜は慌ててバイクを停めてすぐに後輪部のチェックをすると、小石によってタイヤに穴が開いてしまい、一気に空気が抜けて完全に走行不可能となってしまったのである。
「やっばーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!こんな所でパンク!?どうしよう!私こんなの修理できないよーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
タイヤのパンク、それもカワサキ250TRの場合一般的に素人では修理が困難と言われているチューブ式タイヤであった。パニックになった茜は助けを求めようと慌てて近くに民家があるかどうか周囲を見回した。しかし周囲には民家どころか人が通る気配さえ全く感じられなかった。仕方がないので今度は持参した地図を広げて近場にある修理工場等を探し、迎えに来てもらおうと携帯電話から連絡を取ろうとするも圏外となり、全く使い物にならなかった。こうなったら自力で歩いて人気がある所まで行くしかないと思ったが、バイクと荷物を置いたままにしたら盗難される可能性もあったので、その場を動く事は不可能であった。
周囲には人気もなく携帯電話も繋がらず、しかもパンクしたタイヤは運悪くチューブ式であり、完全に八方塞となった茜は今更ながら己の無謀さを悔やみながら、ひたすら救助を待つ他方法がなくなったのである。




