第五章 繊細な彼女 28
「ふわぁ~~~~っ・・・・・・・」
翌朝、茜は例によって朝のラジオ体操前に早起きをし、大きなあくびをした。
「うーーーん、眠いよ・・・・・。陽子さんお早う!っととと・・・・・あれ?あれれ?陽子さん?????」
茜は陽子のベッドを覗き込んだが彼女の姿はなく、荷物等も跡形もなく消えていたので、どうやら早朝にチェックアウトした様子であった。
「これ、何だろう?」
茜が傍にあるテーブルに目をやると『茜さんへ』と、陽子から茜に宛てた1通の手紙が置いてあった。
茜さんへ
挨拶もきちんとせずに黙って出て行って本当にごめんなさい。
あなたも知っている通り、私は未だに婚約者の死を
受け入れられずに現実逃避をしているダメな人間です。
だけど一昨日の晩、茜さんが必死で助けて
くれた事によって私は救われました。
まだお互い出会って間もない間柄にも関わらず、
あなたは目の前で死のうとしている人間を
命がけで助けてくれ、本当の友達の様に私の事を
心配してくれてとても嬉しかったです。
茜さんをはじめ、ペアレントさん達旅人庵で
出会った人に家族や職場、地元の友人知人など、
私の事を支えてくれる人達が大勢いるのにも関わらず、
私はただ逃げてばかりで情けなくなりました。
悟さんの事に関しては正直な所まだ完全に
受け入れるまでには時間がかかると思います。
だけど昨日のミーティングで歌った歌の中に出てきた様に
私もいつか真っ直ぐに根を下ろした花を
咲かせる様に少しずつ前を向き、そして悟さんがかつて
私のことを精一杯愛してくれた様に今度は私が
色んな人の事を愛せる人間になりたいと思います。
短い間だったけど茜さん、本当にありがとう。
最後に私のメールアドレスを記しておきますので、
気が向いたらいつでも連絡を下さい。
では又いつかどこかで会える日を願って、お元気で。
2004年夏 中乃谷 陽子
「陽子さん!!!!!!!!!!」
茜は陽子がこれからの生き方について前向きになっている事が分かり、心の底から嬉しく思った。
陽子さん、私こそありがとう!
あなたのお陰で私も入江さんに再会できる日が
来る事を信じられる様になったんだよ。
ううん、それだけでじゃない。
野崎君ともどこかで会えそうな気がするし、
靖君や和義さん、祐子さん達とだって
又会えそうな気がしてたまらないの!!!!
それにうちの家族だっていつか私の旅に
ついて分かってもらえる日が来るかもしれないし。
陽子さん、絶対に必ず後でメール送るから待っててね!!!!!!!
「それでは本日出発される旅人さん達、又再会できる日を願って気をつけて行ってらしゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!」
『出発の儀式』にて、旅人庵の見送り部隊がスピッツの 『ロビンソン』 を歌いながら見送る中、次の目的地へと向かう旅人達が名残惜しそうに旅人庵を後にした。間もなくして茜も愛車カワサキ250TRに跨り、次の目的地へ向かうべく出発した。途中、遠方より見送り隊の歌声がまだ聞こえてくるので振り返って手を振った。
「行って来まーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーす!!!!!!」
茜は元気良く旅人庵に向かって叫ぶと
「行ってらっしゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!」
と元気いっぱいの返事が返ってきた。そして再びバイクに乗って出発した。
この時既にカレンダーは8月を過ぎ、季節は本格的な北海道の夏空へと移り変わっていた。




