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バイク乗り2004 ~ある女性の全国放浪記~  作者: r_SS
第五章 繊細な彼女
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第五章 繊細な彼女 27

「陽子ちゃん、ちょっといいかな」

 ミーティング終了後、ペアレントが陽子を個人的に呼び出した。

「これを君に渡そうと思って・・・・・・・」

 ペアレントの手から差し出されたのは去年の春、悟が出張先のイラクから送られて来た1通の手紙だった。

「ペアレントさん、これって・・・・・」

「そう、悟君からのだよ。彼が亡くなってから1週間後に届いたんだ。

 いつか陽子ちゃんに渡そうと思っていたんだけど、今が丁度その時期かな、って思ったんだ。まぁ時間がある時にでもゆっくり読むといいよ。」

 ペアレントはそう言うと、すぐにその場を立ち去った。

 (一体何が書いてあるのかしら・・・・・)

 陽子は受け取った手紙を持ったまま外に出て、駐輪場近くのベンチに座って封を開けた。


-------------------------------------------------------

 ペアレントさん、突然の手紙お許し下さい。

 以前メールにてお知らせした通り、現在仕事の為に

 挙式前にも関わらずイラクのバグダッド市内にいます。


 ペアレントさんもご存知かと思いますが、現地では

 もうすぐアメリカ軍による攻撃が開始される可能性が

 非常に強く、誰もが不安に怯えながら暮らしている状況です。

 又、現地のあちこちで内紛争やらデモが発生し、

 時には激化して暴動が起こり、ひどい時には

 女性や子供でさえも容赦なく巻き込まれて命を

 落とす事も日常茶飯事で、僕達外国から仕事で

 やって来た民間人でさえどんな目に遭っても

 おかしくない状況に追い込まれています。


 実は先程陽子ちゃん宛にメールを送りましたが、

 本当の事を言うと心配をすると思うので、彼女には

 『現地は思ったほど危険な国ではないから安心してほしい』

 という内容にしておきました。


 しかし実際は全く正反対で、今も窓から乱闘騒ぎが

 起こったのが見えて、血を流して生き絶え絶えな

 民間人を目の当たりにしたばかりです。

 それにもしかしたらこの手紙がペアレントさんの手元に

 届く頃には僕はもうこの世にいないかもしれません。

 まさか結婚直前になってこんな事になろうとは

 思ってもみなかったし、正直な話もう2度と陽子ちゃんに

 会えなくなるのではないかと思うと不安と悔しさで

 胸がいっぱいになり、夜も眠れなくなる日があります。


 さて、話が変わりますが今回僕が手紙を送ったのは

 ペアレントさんにお願いがあるからなんです。

 ペアレントさん、もし僕が現地で死ぬ様なことに

 なったりしたらきっと陽子ちゃんはショックの余り

 思い詰めてしまうと思います。

 だけど僕がどんな目に遭っても彼女には僕の分まで

 幸せになってもらいたいし、たとえ挫けそうになった

 としても自分を見失ったりしないでほしい、

 僕はいつでも君の事を見守っているから。

 と、ペアレントさんの口から僕の代わりに

 彼女に伝えて頂きたいんです。


 本当なら無事に帰国して彼女と一緒に幸せな

 生活をスタートしたいのですが、この調子だと

 それさえもままならないと思うので、

 大変心苦しいのですがペアレントさんだけには

 本当の事を伝えておきます。


 では、文章が長くなってしまいましたので

 この辺で失礼致します。


 2003年3月 バグダッド市内にて 阿部悟

-------------------------------------------------------



 (悟さん・・・・・・・・・・・)

 陽子は手紙を読み終えても無言のままだった。

 出張先に自分宛に送信されたメールの時点で悟は既に自分の運命を覚悟していたのだ。

 (私に幸せになってほしいって、悟さん・・・・・・。だけど私はもう1人ぼっちなのに

 どうすればいいのよ・・・・・・・・)

 陽子は心の中で悟に訴えていた。するとその時であった。

 フワッと陽子の頭の上で何かが触った感触がしたのですぐ上を向くと、そこには天国に行ったはずの悟の姿があった。

 「悟さん!!!!!!!!!!!!」

 陽子びっくりして叫んだ。


 陽子ちゃん・・・・・・・・・・

 悟は透き通ったその姿で静かに陽子に語りかけた。

 陽子ちゃん、泣いてばかりいてどうしたんだい?

 心配になってここに来ちゃったよ・・・・・・・・・


 「悟さん!本当に会いたかったのよ!!どうして私を残して死んでしまったの!?」

 陽子は泣き叫んだ。


 ごめん、本当にごめんよ。

 けど・・・・僕はもう行かなくちゃいけないんだ。

 このまま僕がいたんじゃ君はいつまでも幸せになれない


 「悟さん何言っているのよ?行くって一体どこに行くっていうの!?私も一緒に連れて行って!!!!!!!!!!!」


 それは無理だよ。君が行くにはまだ早すぎる場所なんだ。

 陽子ちゃん、僕の分まで精一杯幸せに生きるんだよ。

 それから君がつけている指輪だけど、これは僕が持っていくよ。

 君との唯一の思い出だからね。


 悟はそう言いながら陽子の左手薬指にある指輪に自分の透き通った手をかざすと、パァーッと光が放った。


 それじゃあ僕は行くからね。

 今まで本当にありがとう、君のお陰で僕の

 短い生涯が充実できたよ。

 僕のこと好きになってくれて本当に嬉しかったし

 僕も君と出会えて本当に良かった。

 じゃあね、幸せになるんだよ。

 天国からいつでも見守っているから…


 悟は陽子に最後の別れを告げると大きな光を放ち、そのまま空へと上がって間もなく光が消えてしまった。

「悟さん待って!悟さーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!」

 強風が吹き荒れる中、陽子は必死で悟の名を呼び続けたが悟は2度と陽子の前に姿を現す事はなかった。そして彼女の左手の薬指には既に指輪がなくなっていたのである。

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