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バイク乗り2004 ~ある女性の全国放浪記~  作者: r_SS
第五章 繊細な彼女
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第五章 繊細な彼女 25

「陽子さーーーーーーーーーーん!!!!陽子さんってばどこに行ったんだろう・・・・・」

 胸騒ぎを覚えた茜は暗闇の中、必死で陽子の事を探した。

「陽子さん!!!!!!!!!!!!!!!」

 茜が先日ツアーの後に洗車をした駐輪場のすぐ近くにあるベンチにて座っている陽子の姿を見つけた。しかし今にでも彼女の右手にある刃物でリストカット痕がある左手首を切ろうとしている所であった。

「陽子さんダメーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

 茜はすぐに陽子の元へ駆けつけ、自殺を図ろうとする陽子を食い止めようと彼女の両手首を押さえが、陽子は茜の制止を暴れながら抵抗していた。

「離して、離してよ!!!!!!!あなただってペアレントさんから全部話を聞いたんでしょ?お願いだからこのまま悟さんの所に行かせてよ!!!!!!!!」

 陽子が持っている刃物がブンブンと茜の目の前で振りまわり、茜自身もそれを避けるのに必死であったがそれでも茜は握った手を離そうとはしなかった。

「とにかく落ち着いてよ陽子さん!こんな事したって何にもならないでしょ!?」

「何よ!分かった様な口の利き方しないでよ!彼を失った私の気持ち、あなたに何が分かるって言うのよ!!!!!!!!」


 2人は取っ組み合い状態となっていたが、泣き叫びながら陽子に悟を失った気持ちが茜に分かる訳がないと言われると、今まで心から異性を愛した事がなかった茜はビクっとした。確かに今までの人生において付き合っていた彼氏はいたりしたが、大して長続きせずに終わってしまい、陽子みたいに何年も思い出が積み重なって結婚までに至ったケースがなかったのである。

 だが1つだけ共通点があった。それはどんなに『憧れの君』に会いたくても機会に恵まれず、もどかしい気持ちになっているのと陽子が悟に会いたくても会うことが許されない環境にある事であった。

「分かる・・・・・分かるよ!何て言ったらいいか分からないけど、私だって会いたい人に会えない立場なんだよ!私にだって好きな人ぐらいいるんだよ!!!!!!」

「えっ・・・・・・・・?」

 陽子は一瞬手を振り回すのを止めたが、それでもすぐに又自分の手首を握っている茜の手を振り払おうとした。

「でもやっぱり私はダメ!悟さんがいないとダメなの!!!!!!!お願いだからその手を離してよ!」

 必死で抵抗する陽子であったが、振り払おうとした瞬間右手に持っていた刃物が地面に落ちてしまった。

「どうしてよ・・・・・どうしてなのよ!悟さん、悟さん、悟さーーーーーーーーん!!!!!!!」

 陽子は地べたに座り込んで顔を伏せ、悟の名前を叫びながら号泣した。


「本当に私って馬鹿よね。だってもう悟さんはこの世にいないって分かっていても未だに彼の事ばかり考えてて、こんなのっておかしい話よね。」

 何とか落ち着きを取り戻した陽子は茜と共にベンチに座り、星空を見上げながら語っていた。

「今回私が旅人庵に来たのも、もしかしたら悟さんに会えるかもしれないって心のどこかで思って

 いたからなのよ。そんな事絶対にありえないって分かっているのにね・・・・・・・・」

 陽子は寂しそうに笑いながら言った。

「あの・・・・・・陽子さん。」

 茜が口を開いた。

「なあに?」

「さっきも言ったけど、私も旅に出ている間にすごく好きな人ができたんだ。だけどその人とは1回会ったきりで、どんなに私がその人の事を追いかけても全然会うことができないの。」

 茜は陽子に『憧れの君』こと入江勝についてゆっくりと語った。

「そう、仙台でそんな事があったのね。それじゃあ今回茜さんが旅人庵に来たのもその入江さんって方に会いたくて留萌から知床までずっと走りっぱなしだった、って訳ね。」

「うん。だけど遠野の時も今回の知床でもニアミスしちゃって、最近じゃいい加減諦めてこのまま1つの思い出として片付けてしまおうとしているんだけどね。」

 茜は苦笑いしながら言うと、それまで元気なさ気な陽子が真剣な眼差しになって茜と向き合った。

「ねぇ、茜さんいいかしら?」

「な、何?」

 陽子のあまりの真摯な姿に茜は少々戸惑った。


「あなた本当に好きになった人の事諦めてしまうの?だってメールアドレス交換したんでしょ?それにこの先長い旅路で絶対に入江さんって方と会えないって訳ではないんでしょ?もし会えなくても連絡先だって出身地だって知っているのにどうしてチャンスを生かそうとしないの?

 それに比べて私はいくら悟さんの事が大好きで会いたくても、彼が亡くなってしまった以上抱いてもらう事も手を触れる事もできない。だから茜さん、少しでも自分の大切な人と再会できるチャンスがあるのなら、例え周りから笑われようと白い目で見られようと可能性を信じて前へ進みなさい。その結果もし最悪な場合だったとしても、自分が正直になって選んだ事であれば絶対に後悔はしないから。」

 陽子は自分が果たせなかった事を茜に託している様に思えた。


 茜は陽子の眼差しを見て、この先長い旅路に於いて入江勝と再会できる事をもう1度信じてみようと思った。本当に実現するかどうかなんて保証はないし、むしろ会えない可能性の方が高いと分かっていながらも、いつか絶対に会える日が来る事を信じてみようと強く感じた。そしてもう1人、道中幾度なくその名を見かけた野崎昌男とも、どこかでオートバイに跨った姿で会えそうな気がしていた。

 彼は一体どんなオートバイに乗って自分の目の前に現れてくれるのだろうか?そう考えると茜は心を躍らせていた。そしてその様な2人のやりとりをペアレントが陰ながら見守っていた。

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