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バイク乗り2004 ~ある女性の全国放浪記~  作者: r_SS
第五章 繊細な彼女
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第五章 繊細な彼女 23

 「う・・・・う・・・・・・ん・・・・・」

 現地時間3月20日明け方、この日はアメリカ軍によるイラク攻撃開始提示日であったが、悟が滞在していた場所ではその様な気配は全く感じられなかったので、交代で仮眠を取っていた。ところがしばらくしてサイレンの音がしたと同時に、外から大きな光と共に爆音が鳴り響いた。

「空襲警報だ、アメリカが攻撃してきやがったぞ!!!!!!!!!

 皆今すぐここから逃げるんだ!!!!!!!!!!急げーーーーーーーー!!!!」

 同じホテルにいた日本人ジャーナリストの悲鳴と共に全員一斉にホテルから避難をした。


「きゃあああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「誰かーーーーーーーーーーー、助けてくれーーーーーーーーーー!!!!!!」

「怖い、怖いよママーーーーーーーーーー!!!!!わあああああん!!!!!!」

 外は既に辺り一面火の海で、それまでごく普通に生活を営んでいた人達が戦火に怯えながら逃げまとっていた。全身火に包まれて大やけどをしながら助けを求めている男性に片腕を失って号泣している子供など、大勢の人達で道路が溢れ返っていた。

 悟は地獄絵図と化した街を目の当たりにして愕然としていた。今自分は戦争に巻き込まれている、これはもはや映画や物語の中の出来事ではなく、実際に目の前で起こってる出来事なんだ!もしかしたら自分もここで死んでしまうかもしれない!そう思うと悟はショックのあまり声を出す事ができなかったのである。

「阿部さん何やっているんですか!早く!!!!!」

 悟と共にイラク入りした後輩の若手記者が彼の腕を掴んですぐさま戦火から避難した。


 その時であった。

「痛いよーーーーーーーーーー!!!!!!痛いよーーーーーーー!!!!!」

 悟の背後から子供の泣き声が聞こえた。振り返るとそこには小さな少年が逃げる途中転んで立てなくなり、泣き叫びながら助けを求めていた。

 この時悟は10年前の旅人庵のツアーでヒグマに遭遇し、逃げる途中転倒した陽子を命がけで救出した事を思い出し、目の前で泣いている少年と陽子の姿が重なって見えたのである。

「阿部さん?!どこへ行くんですか????」

 悟は後輩記者の手を振り払ってすぐにその少年の元へ駆けつけた。

「ちょ、ちょっと阿部さん何やっているんですか!!!!!!!!!ダメですよ、ダメですったら!!!!!!!!今ここで引き返したりしたらたちまち爆撃に巻き込まれるだけですよ!!!!!!!!!」

 人ごみの中、その後輩記者は懸命に悟に戻ってくる様呼びかけたが、悟の耳には届かなかった。

「大丈夫か?!」

 悟は泣きじゃくる少年を抱きかかえてすぐその場を立ち去ろうとしたその時、


  ドーーーーーーーーーーーーーーーーーン・・・・・・・・・・!!!!!!!!!!!


 上空から落下した爆弾が悟に直撃したのである。

「阿部さん、阿部さん!!!!!!!!!!!!!!阿部さーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!」

 悟を実の兄の様に慕っていた後輩記者が一生懸命悟の名前を叫んでいたが、彼の目の前には炎が物凄い勢いで燃えているだけであった。


 日本時間2003年3月20日午後13時、交代制でお昼休みを取っていた陽子は休憩室にて

 昼食取りながらテレビニュースを観ていた。


   次のニュースです。

   日本時間午後12時15分、アメリカのブッシュ大統領が

   イラクの武装解除に向けて戦争の開始命令を下したことを

   明らかにしました。

   只今現地バグダッドよりアメリカ軍による

   攻撃の映像が入りました・・・・・


 テレビの画面が戦火で覆われているバグダッド市内の様子へと切り替わった。

 「これって・・・・・・・・!!!!!!」

 陽子は胸騒ぎがした。先日悟から無事である事を伝えるメールをもらったばかりであるにも関わらず、目の前で流れている現地の様子を観て、もしかしたら悟も巻き込まれたかもしれないと不安になった。同じタイミングで休憩室へ内線がかかった。受付に自宅から陽子宛に電話が来たので受けてくれ、との事だった。

 「ハイ、中乃谷です。ハイ・・・・ハイ・・・・分かりました。こちらに電話繋げて下さい。もしもしお母さん?私だけどどうしたの?うん、うん、うん・・・・・・・・・えっ?!悟さんが・・・・・・そんな・・・・・嘘でしょ?ねぇ嘘でしょ!!!!!!!」

 不安が的中したのである。陽子は受話器を手から落とし、その場にしゃがみこんでしまった。


 数日後、悟が無言の帰国をした。

「初めまして、あなたが阿部さんの婚約者の方ですよね?」

 悟と共にイラク入りした後輩記者と陽子が対面をした。

「あの時まさか本当に戦争に巻き込まれるとは思いませんでした。 自分の目の前で阿部さんが・・・・・・・・うっ・・・・・・・・うっ・・・・・・・・・」

 その後輩記者は悟の最期について涙ながらに語った。

「悟さん・・・・・・・どうして?無事に帰国して私と結婚するって約束したじゃない。それなのに何で・・・・・・どうして・・・・・どうしてなのよ!!!!!!!!!!」

 陽子は変わり果てた姿となって帰国した悟を目の当たりにし、ショックの余り倒れ込んでしまった。


  阿部悟 享年34歳

  それはあまりにも無残な最期であった。

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