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バイク乗り2004 ~ある女性の全国放浪記~  作者: r_SS
第五章 繊細な彼女
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第五章 繊細な彼女 22

 悟からのプロポーズから月日が流れ、来たる2003年4月に行われる2人の挙式に向けて新居探しやら招待客選びやら色々と忙しい日々を過ごしていた。しかし少しでも時間ができると陽子はウェディング情報誌を読んでは自分の花嫁姿を想像させ、幸せな気分に浸っていた。又、同じ時期に悟が職場にて主任クラスに昇格して、まさに幸せ続きの絶頂であった。


 ところが挙式を一ヶ月前に控えたある日の事。

「阿部君、ちょっといいかな?」

 仕事中に悟が上司に呼び出された。

「はい、何でしょうか?」

「あのさ、君も知っているとは思うけど、もうすぐアメリカがイラクに攻撃をしかけるかもしれない、という事は分かっているよね?」

「ええ、存じております。」

 丁度この時期、2年前アメリカで起こったニューヨーク同時多発テロによりイラク・アメリカ両国の関係が悪化し、3月20日にイラクへ攻撃を行う可能性が高い、という情報がマスコミを通じて世界中に伝わっていたのである。

「阿部君、我々の仕事はその日その場で起こった出来事をいち早く紙面を通じて世間に伝える事だ。結婚を控えた君にこんな事を頼むのは心苦しいんだけど君も主任に昇格した事だし、うちの若い連中を連れてイラクでの現地取材をお願いしたいんだ。」

「えっ・・・・・?あのイラクに出張、ですか?」

 悟は突然の出張命令にびっくりした。ただでさえ挙式前だというのに海外出張、それも武装国家で民間人でさえ容赦なく乱闘に巻き込まれる可能性があるイラクに行くだなんて、いくら仕事言えども普通なら誰だって行きたくない場所であったからである。しかし

「本当に申し訳ないんだけど頼む、この通りだ!いくら武装地帯の国言えどもよその国から来た民間人に危害を加える事なんてないだろうし、結婚前に一発凄い記事を書き上げるって事で宜しく頼むよ!!!!!!」

 上司から直接頭を下げられてしまうとさすがに断り切れず、挙式前には必ず帰国させてもらう事を条件として、悟は仕方なくイラク出張を引き受ける事となった。


「イ、イラクに出張、ですって?!」

 その日の夜、会う約束をしていた陽子がびっくりした。

「ああ、本当は絶対に行きたくなかったんだけど業務命令だから断り切れなくってさ。まぁ挙式に間に合う様に帰国させてもらう事を絶対条件として引き受けたしさ、それにまだ現地が攻撃されるって決まった訳じゃないから大丈夫だとは思うよ。」

 悟は何とか陽子を心配させない様に出張の件を説明したが、行き先が行き先なだけあって陽子は心配していた。

「でも、ニュースとかでよく観るけど、イラクって相手が女子供であろうと容赦なく襲われたり殺されたりするんでしょ?そんな国に行かなければならないなんて何だか怖いわ。それでも、まぁ、仕事じゃどうにもならないわよね。でもね、悟さん。本当に何かあったら私心配だから、現地に着いたら必ずメールで連絡してね。」

 陽子は悟の事が心配で胸を痛めていたが、無事で帰って来る事を信じて送り出す事にした。

「分かった。向こうのホテルに着いたら必ず陽子ちゃん宛にメールするよ。帰ってきたら誰よりもいち早く凄い記事を書いてやる!!!!!」

 と悟は豪語した。そして3日後の朝、悟は職場の若手記者と共にイラク行きの飛行機へと乗って行った。


 悟がイラクへ行って4日目が過ぎ、それまで何の連絡がなく心配していた陽子の元へやっと

 メールが届いた。


  陽子ちゃん、メール遅くなってゴメン。

  僕は今イラクのバグダッド市内にあるホテルに滞在しています。

  ここには僕みたいな日本から来た

  マスコミ関係の人間をはじめ、世界各国から来たフリーの

  ジャーナリスト達が大勢います。


  陽子ちゃんも知っているとは思うけど、もうすぐアメリカ側が

  提示した3月20日の攻撃開始日が近づいているにも関わらず、

  現地ではまるで何事もない様に普通の生活を送っているし、

  今も窓から子供達が遊んでいる姿を見る事ができます。


  これから先の事を考えると正直な話不安だけど、今いる場所は

  バグダッド市内でも比較的安全な場所であるし、

  何しろ現地で世話してくれている人が本当に親切な人で、

  彼曰く外国から来た民間人に危害を与える様な事は絶対に

  ないだろうから安心してくれって言われている。

  だから陽子ちゃんもどうか僕の事はご心配なく。

  では、これからちょっと用事があるからこの辺で失礼します。


 (悟さん!良かった・・・・・無事でいてくれて本当に良かった!!!!!!)

 悟が現地で無事に過ごしている事が分かった陽子は心の底から安心した。しかし、この後悟の身に悲劇が降りかかろうとはこの時まだ知る由もなかったのである。

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