第五章 繊細な彼女 21
翌日2人はレンタカーで知床を下って摩周湖方面まで移動し、裏摩周展望台より3km離れた所にある 神の子池 へと向かった。周囲わずか220mと小さな湖ではあったが、時折湖の色がエメラルドグリーンから淡い青色へと変化するその姿は実に神秘的なものであった。
「素敵・・・・・こんな静かで綺麗な所って本当にあるのね。」
陽子は神の子池の風景を眺めながらうっとりとしていた。しかし
「・・・・・・・・・・」
悟は何か考え事をしながら黙っている様子だった。
「悟さん、どうしたのよ?」
陽子が心配そうに悟の顔を覗き込んだが、全く無言のまま突っ立っているだけであった。
「ねぇ悟さんったら?せっかくこんなに素晴らしい場所に来たって言うのに何ボンヤリ考え事なんてしているのよ?」
陽子は少々イライラしていた。
「体の具合でも悪いのかしら?それとも昨日のツアーの疲れが出てしまったとか?」
陽子は悟の額に手を当てようとすると悟はその手を振り払い、やっと口を開いた。
「あ、あのさ・・・陽子ちゃん。」
「何?どうしたのかしら?」
「いや別に・・・・。」
「????????」
悟はなんだかはっきりしない口調で言うので陽子は何言っているのか全く分からなかった。
「ごめん、そんなんじゃないんだ。た、ただあのさ・・・・・・・・・・」
悟の態度にいい加減陽子はしびれを切らしていた。
「本当にさっきから悟さん変よ。何が言いたいんだかはっきり言って頂戴!」
陽子はキッパリと言ったが、悟はまだブツブツと独り言を言っていた。
「ま、待って陽子ちゃん!ええっと・・・・・その・・・僕達そろそろ年が年だし・・・・違う!そうじゃない!僕達付き合いが長いし・・・・・そうじゃなくって!ええい、俺も男だ!陽子ちゃん、こうなったらハッキリ言う。僕達結婚しよう!!!!!」
悟は顔を真っ赤にしながら陽子に”結婚の申し入れ”をすると、恥ずかしさのあまりその場にしゃがみこんだ。
「け、結婚!?」
今度は陽子がびっくりして赤面した。
「ああそうだ結婚だ、僕は君にたった今プロポーズしたんだよ!!!!!」
悟はしゃがみこんだまま、ケースに入った婚約指輪を陽子に差し出した。
「悟さん・・・・・・・・・」
陽子は差し出された婚約指輪をじっと見つめていた。そしてゆっくりと口を開いた。
「お願い・・・・その指輪、悟さんの手で私の指に通してくれるかしら?」
と自分の左手の薬指を差し出して指輪を通して欲しいと悟にお願いをした。
「陽子ちゃん!それって・・・・・・」
「そうよ。あなたの申し入れ、喜んでお受け致します。」
陽子の目には溢れんばかりに嬉し涙がこぼれ落ちていた。悟はゆっくりと立ち上がり、指輪を陽子の薬指に入れた。その後2人は木漏れ日の中、紺碧色に輝く神の子池の前でさえずる小鳥達の鳴き声の祝福を受けながら誓いの口付けを交わし、抱き合っていた。
(これで私達やっと本当に幸せになれるのね・・・・・・)
2人は喜びに満ち溢れ、今まさに幸せの絶頂の中にいた。
しかし、そんな幸せも長くは続かなかったのである。




