第五章 繊細な彼女 17
誕生日パーティの翌日は悟がチェックアウトする日であった。
「お世話になりました。たった3日間の短い滞在だったけど、本当に楽しく過ごせました。」
「おおそうか!そう言ってくれるとペアレント冥利に尽きるよ。又いつでも”帰って”おいで!」
出発の準備が整った悟がペアレントに挨拶をすると、『出発の儀式』の為に玄関前に出た。
「待って!」
中から使い捨てフィルムを片手に持った陽子が飛び出してきた。
「あ・・・・・あの!!!!最後に一緒に1枚写真を撮らせて下さい!!!!!」
陽子はありったけの勇気を振り絞って言った。前日の網走観光の際にも何度同じ事を言おうとしてもなかなか言えずにいたのだが、今日でお別れになってしまうしどうしても1枚一緒に悟と写真を撮りたかったのである。
「ああ、いいよ。」
悟は快く承諾した。
「それじゃあ僕が撮ろう。二人とも玄関前に立ってくれるかな?」
ペアレントが陽子から使い捨てフィルムを預かった。
「それじゃあ取るよー。ハイ、チーズ!・・・・・・あれれ???上手く行かないな。あれ?コレもうフィルム全部使い切ってあるよ。」
陽子の使い捨てフィルムは既に残り枚数がゼロになっていた。
「ええ、そんなーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
陽子は肩をがっくり落として落胆した。
(ああもう私のバカバカバカ!!!!どうしていっつもここ1番って時にヘマ犯すのよー!!!!)
落ち込む陽子の姿を見て悟が言った。
「僕のカメラで良ければ一緒に撮ろうか?」
「えぇ?私から頼んでおいて悪いし・・・・・・」
「気にしないで。僕はもう帰るだけだし、何しろこのままフィルム余らしても仕方ないからね。ペアレントさん、お手数掛けますがこのカメラでもう1回撮って頂けますか?」
「了解。それじゃあもう1回撮るよ。2人ともこっち向いて、ハイチーズ!」
ペアレントの合図と共に2人はカメラ目線で旅人庵の玄関前にて写真を撮った。
「じゃあフィルム現像できたら中乃谷さんの自宅宛に送っておくよ。あとペアレントさん、後日旅人庵宛にも1枚送っておきますので。」
「おお、有難いね!まぁいつでも君の都合の良い時で構わないけど、届いたら居間に置いてあるアルバムに追加しておくよ。」
間もなくして『出発の儀式』の時間がやって来た。
「えー、本日出発される旅人さん達ともそろそろお別れの時がやって参りました。がっ!またいつか、旅人庵に”帰って”来てくれる日を願ってお見送りをしたいと思います。では気をつけて『行ってらっしゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!!!』」
見送り部隊代表のヘルパーが挨拶をするとスタッフ及び連泊者達が一斉に財津和夫の 『サボテンの花』 を歌いながら次の旅路へと向かう旅人達を見送った。
「行ってきまーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーす!!!!!!!」
「又戻って来るからなーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
旅人庵を後にした旅人達が途中幾度無く振り返っては旅人庵に向かって言葉をかけた。
「行ってらっしゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!」
「必ず戻って来いよーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
見送り部隊も負けじとエールを送り、やがて旅人達の姿が見えなくなった。
ああ、行ってしまったか…。でもいいや、帰ってきたら阿部さんから
写真が送られて来るんだし。色々とあったけど私、本当に旅人庵に来て良かった!
『知床旅人庵DGH』、別名『歌声喫茶』に来てから4日目。すっかりと雰囲気に馴染んだ陽子はしばらく連泊する事となった。そして1週間後の夕食時にジンギスカンを再び堪能する事となったのである。




