第五章 繊細な彼女 16
「お誕生日おめでとーーーーーーーーーーーーーーう!!!!!!!!」
旅人庵のスタッフと宿泊客達が一斉にお祝いの言葉をかけると陽子と悟の誕生日パーティが始まった。
この日は普段なかなか目にする事がないペアレント”自腹”の振舞い酒に女性ヘルパー手作りのデコレーションケーキ、他には鮭のチャンチャン焼きにジンギスカン等のご馳走が沢山振舞われた。
「美味しい!北海道に来てからジンギスカン食べたの初めて!!!!!」
陽子は目の前にある鉄板で美味しそうに焼かれているジンギスカンを頬張っていた。
「さあさあもっと食べて。今日は君が主役なんだからさ。」
ジンギスカンを焼く”係”の男性ヘルパーが陽子の皿に肉と野菜を溢れんばかりに乗せた。
「あら、こんなに食べちゃっていいの?」
「大丈夫大丈夫!そうだ、旅人庵じゃ毎週1回は必ず夕食時にジンギスカンを出す決まりになっているんだ。だからさ、次回またジンギスカンが出る日を”ここで”楽しみに待っていてよ!」
「”ここ”って・・・・まさか旅人庵で?!それってズバリ『連泊』って事!?」
「そう、その通り!なーてね、あはははははは!!!!!!」
ヘルパーからやんわりと連泊の勧めを受けた陽子は苦笑いをしていた。
「ところで・・・・阿部さんはどこに行ってしまったのかしら?あっいたいた!
あら、どうしたのかしら?食欲がないみたいだけど・・・・それにひどく顔色悪いわよ。」
陽子は隅っこで苦しそうに振舞いメニューを口にしている悟を見て心配そうにしていた。
「あ、ああ大丈夫だから気にしないで。ただちょっとお昼食べ過ぎたかも・・・・・。」
悟は昼間網走駅付近の喫茶店にて注文し過ぎたメニューを無理矢理平らげてしまったおかげで丁度今頃になって気分が悪くなり、パーティ前までトイレでずっと戻していたのである。
「お2人さん、ハッピーバースディ!!!!!!!」
背後から声がした。一昨日初めてのミーティングにて嫌がる陽子を無理矢理大広間へ誘い出した同室の女性常連客であった。
「まぁ嬉しい、どうもありがとう!ところでそのワインボトルとグラスはどうしたの?」
陽子は女性が持参したフルボトルの十勝ワインとワイングラスを見て尋ねた。
「ああ、これ?ちょっとテーブルから失敬してきちゃった。今日からあなた20歳でしょ?20歳といえばもう成人なわけだし、アルコールだって今日から”解禁”じゃない。さあさあ飲んで飲んで!」
女性はワイングラスに赤ワインを注ぐと陽子に差し出した。
「そうそう、そこのお兄さんも飲んで!」
悟にもグラスを差し出したが
「ごめん。悪いけど今マジで食欲ないし、ましてやアルコール口にしたら本当に倒れそうなんだ。せっかく注いでくれたのに申し訳ない・・・・・・・・」
と相変わらず具合悪そうだった。
「そっか、それは残念!せっかく今日の主役だって言うのに。けどまあいいや。それじゃあ私達だけで乾杯と行きましょうや!」
女性と陽子は悟の事を差し置いて2人で十勝ワインを楽しんだ。
「いただきまーす、ゴクゴクゴク・・・・・ああ美味しい、もう1杯!!!!」
陽子は初めて口にしたアルコールが美味しかったのか、すぐにおかわりをした。
初日のミーティングにて嫌がる陽子を誘っておきながらいざ始まると自分の世界に入ってしまい、陽子の事を完全に忘れ去ってしまった件があって、当初はこの常連女性客に対して嫌悪感を抱いていたが、3日間同じ部屋で共に過ごしていく内に次第に親しくなり、今ではお互いに気兼ねなく話せる仲までに至っていた。
「さて皆さん。宴も酣といった所ですが、そろそろこの辺で男子ヘルパーによるショータイムに移りたいと思いまーーーーーーーーーーーーーーーーす!!!!!!!」
司会進行役の案内と共に突然ジョン・レノンとオノ・ヨーコに扮した男性ヘルパーが前にやって来『ジョンとヨーコのバラード』 を歌い出したのである。
「ブッ!!!!!やめれーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
「おいおい誰かモザイクかけろーーーーー!!!!!!!」
「ヤバっ!!!!放送禁止だよコレ~~~~~~~~~~~~」
周囲から”ヤジ”を飛ばされつつも男性ヘルパーによるショーは大好評であった。
「それでは最後にペアレントより2人にプレゼント贈呈の後、それぞれに一言コメントを頂いて本日の宴はお開きにしたいと思いまーーーーーーす。」
ペアレント、陽子、悟の3人が前に出るとペアレントの手からプレゼントが手渡された。
「20回目のお誕生日おめでとう。」
「ありがとうございます。」
「おめでとう、さっきから顔色が良くないけど大丈夫?」
「あ、いえ・・・・大丈夫です。プレゼントありがとうございます。」
悟は胃のムカつきがピークに達していたが、何とかこらえていた。
「あら、これ・・・・・・・」
陽子がプレゼントのパッケージを開くと、そこには熊鈴が入っていた。
「いやー、実は昨日のツアーでの一件を思い出してさ、つい熊鈴を選んでしまったんだよ。」
ペアレントがそう言うと一同大笑いした。
「嬉しい!本当にありがとうございます。」
陽子は心底嬉しそうだったが、
「ハ、ハァ・・・・・・わざわざ気を遣って頂いてスミマセン・・・・・」
悟は昨日陽子を助けるどころか逆に醜態を見せてしまった事を思い出し、苦笑いをしていた。
「では本日の主役の2人から一言ずつコメントを頂きましょう。ではまずお兄さんからお願いします。」
司会進行役が悟にコメントをお願いした。
「えぇっと・・・・・今回初めて旅人庵に来たビギナーにも関わらず、ここまで盛大に誕生日を祝ってもらって本当にありがとうございます。自分は明日の飛行機で帰ってしまうけど、又いつか絶対に旅人庵に”戻り”ますので、その時は宜しくお願いします。」
と言うと一同盛大な拍手を送った。
「では本日めでたく20歳になられたお嬢さんにも何か一言お願いします。」
続いて陽子も感想を述べた。
「えぇっと・・・・私も今回初めて旅人庵に来て、当初は緊張の連続でなかなか馴染むことが出来なかったけど、ペアレントさんやヘルパーさん、そして周りの皆さんのお陰で楽しい一時を過ごす事ができて本当に感謝しています。それに今日はこうして20歳の誕生日を祝ってもらって私…。」
途中で嬉しさと感動のあまり泣き出してしまった。
「がんばれー。」
「お嬢さんファイトー!!!!」
周囲から声援を受けると陽子は笑顔で”ありがとう”と言った。
「よし、そろそろ消灯時間だ。明日も早いから片付けをして寝る事としよう。」
ペアレントがお開きの挨拶をし、全員でパーティの後片付けをして各自の部屋に戻って床についた。




