第五章 繊細な彼女 14
「あぁ、今日は本当に参ったよ!まさかヒグマに遭遇するとは思わなかった!!」
2日目のミーティング後の雑談タイムにて、ツアー参加者全員が集まって1日の行動を振り返っていた。
「えぇ?そんなに驚いたかしら?だって最初に”どんな事があっても絶対に大声を出したりしないで”ってペアレントさん達が言ってたでしょ?だからどうして皆あんなに大騒ぎするんだろうって不思議に思ってたのよ・・・・・」
陽子がサラッと平静な顔をして言った。
「ハァ?ちょっとアンタそれ本気で言ってるのかい?」
「すごーい。お嬢さん、おしとやかそうに見えるのに結構肝が据わっているんだね!」
一同呆気に取られていた。
この日のミーティングは荒井由実の 『やさしさに包まれたなら』 の合唱から始まり、その他数々のフォークソングを歌った後『ハンカチ落とし』など子供時代に遊んだゲームを行った。
前日ミーティングに馴染めなかった陽子もツアーで色々な人と親しくなる事ができたのがきっかけで徐々に旅人庵の空気に溶け込む事ができる様になっていた。
「ところで明日は皆どうするの?俺は美瑛方面へ移動するんだけど。」
ツアー参加者の1人が言った。
「私も明日は帯広方面に行くつもり。」
「自分はもう帰らなきゃな・・・・・・・」
出会いがあれば必ず別れがやって来るもの。殆どの人が明日移動してしまい、旅人庵に残るのは陽子と悟の2人だけであった。
「まぁ残念だけど又どこかで再会できる日を願って、住所交換しよう。」
別の参加者が名残惜しそうに言うと、お互いに住所交換をした。
間もなく消灯時間のアナウンスがあり、それぞれ自室へと戻って行った。
「中乃谷さん、ちょっといいかな?」
悟が陽子を呼び止めた。
「何かしら?」
「あ・・・あのさ、明日何か予定入ってる?僕さ、明日網走方面に行こうと思っているんだけど良かったら中乃谷さんも一緒にどうかな?」
悟は少々恥ずかしそうに言った。
「えっ・・・・・?明日は特に予定は入れてないけど、私と一緒で大丈夫なんですか?ご迷惑でなければご一緒させて下さい。」
陽子がOKの返事を出すと
「やった!断られたらどうしようかと思ってたんだよ。明日8時半に玄関前で待ち合わせしよう。じゃあ又明日、お休み!」
悟は嬉しそうに自室へ戻ろうとした時、
「あ、あの!!!!!!!」
陽子は何を思ったのか、思わず悟を呼び止めてしまった。
「ん?どうしたの?」
「あのっ、今日は・・・・・・・今日は私の事助けてくれて本当にありがとうございました。あの後笑ってしまったけど、本当はとても嬉しかったんです。だから笑ってしまった事について気になさらないで下さいっ!!!!!!」
「あ、ああ・・・・いいよ。別に気にしていないから・・・・アハハハハ・・・・・」
思い切り痛いところを突かれた悟は苦笑いをした。
「良かった!じゃあお休みなさーい。」
それぞれ自室へ戻り、明日に備えてすぐに床についた。
(阿部悟さん、か・・・・・・・・)
陽子は悟に対して何かときめく感情を抱きながら布団の中にいた。




