第五章 繊細な彼女 8
歩へ
久しぶりだけど皆元気?
私は今、知床の方まで来てて今日は網走まで
1人でバイクで訪れてます。
添付画像だけど能取岬から撮ったもので、目の前に
見える海はオホーツク海です。
それじゃあ又後日メールします。ではでは!
(よし完了!送信しようっと。)
茜は携帯電話のデジタルカメラ機能で撮影した能取岬の画像付きのメールを妹の歩宛に送信した。
この日、茜は旅人庵のツアーに参加せずに愛車カワサキ250TRに跨って網走方面まで走った。道路に面しているオホーツク海はまさに絶景で、茜も途中でバイクを停めてデジタルカメラでその風景を収めたりしていた。
網走へ到着後真っ先に定番の 博物館網走監獄 へ訪れてはリアルな姿で再現されている囚人の蝋人形に恐る恐る触れてみたり、次に訪れた 北方民族博物館 では沢山展示されているアイヌ民族の衣装や道具等を鑑賞し、その後日の出と日の入りの名所である 能取岬 方面へと向かった。ここはオホーツク海や知床連山の景色を望む事ができ、又岬の道に面した 能取湖 では9月中旬になるとサンゴ草で埋め尽くされる事でも有名であった。
メール送信後、岬の道をぐるっと周る形でJR網走駅方面へと移動し、駅近くにある全国各地から
旅人が集まる事で有名な喫茶店で休憩をした。店内にはBGMが流れていた。
(この曲、昨日のミーティングで歌ったのと同じだ。)
そのBGMは前日の晩旅人庵のミーティング時に歌った荒井由実のヒットナンバー『ルージュの伝言』 であった。注文したメニューが届くまで時間があったので店内に置いてある旅人ノートを読んでいた。全国から旅人が集まっている場所だけあってノートの書き込み量も半端ではなく、壁にも大勢の旅人が残して行った写真やらJRの周遊券やらで埋め尽くされていた。
(ふ~ん、どこでもそうだけど旅人が集まる場所って自分の足跡を残したいのか、皆何かしら書き込んでいるんだね。)
茜は過去のノートを読みながらそう感じていた。初めて道内に上陸した記念書き込みに通算20回目の上陸記念書き込み等色々な立場や年齢層のものがあり、中には『恋人募集中』と銘打って住所と電話番号まで書き残した人までいた。するとその時であった。
(あっ!これ・・・・・・)
茜はとある書き込みに気づいた。それは1993年9月当時の陽子のものであった。
今日は知床旅人庵DGHからバスとJR石北本線を
使って網走までやって来ました。
初めての北海道&一人旅だからすっごく緊張して
いたけど、旅人庵のツアーで沢山の
仲間ができたし、今日もツアーで一緒だった人と
2人で訪れました。
能取湖のサンゴ草もとってもキレイで最高!
又いつか網走には訪れたいです。
1993年9月
千葉からやって来たナースのタマゴ
中乃谷陽子
更にその下には陽子と一緒に網走までやって来たと思われる人物の書き込みもあった。
上の書き込みの彼女と一緒に旅人庵から
やって来ました。
自分は明後日から仕事があるので明日の飛行機で
地元に戻るけど、又いつか絶対に
北海道に”帰り”ます!!!!!!!
網走にて 阿部悟
(この書き込み!今朝旅人庵のアルバムで見た男の人だ!!!!!)
この時茜は陽子が時々見せる寂しげで思い詰めた様な表情に手首のリストカット痕の事を思い出した。初日のミーティング時にペアレントが”悟君”と言った途端突然彼女の顔色が変わった事や翌日のツアーが終わった後にベンチで左手の薬指にある指輪をずっと黙って見つめている姿、そして陽子が初めて旅人庵に訪れた際に出会った阿部悟という男性の存在、これらの要素が一体どう絡んでいるのかは分からなかったが絶対に何か関係あるに違いないと茜は確信した。
「お客様?注文されたレモンティーでございますが・・・・・お客様????」
注文したレモンティーが運ばれた事にも全く気づかず、茜の頭の中は陽子の事でいっぱいになっていた。




