第五章 繊細な彼女 4
翌朝、皆が雑談しながら朝食を摂っている中、ただ1人茜だけはボーッとしていた。それもそのはず。旅人庵では朝の起床時間早々『ラジオ体操の歌』が館内に響き渡る程のボリュームで流れ、その後すぐにミーティングを行った居間にて半ば強制的にラジオ体操に参加させられるのである。しかしリピーター及び初めてでも前々から旅人庵の”もてなし”を充分に知っている客であれば起床時間前にさっさと身支度を済ませ、いつでも動ける体制を整えるのが慣例であった。
一方何も知らない茜は前日の疲れがまだ取れ切っていないにも関わらず朝っぱらからとんでもない”BGM”によってたたき起こされた上、無理矢理ラジオ体操までやらされたおかげで朝食を食べる気力さえ失っていたのである。
「あら茜さんどうしたの?朝ご飯ちゃんと食べないとツアーの時に辛くなるわよ。」
陽子が心配そうに茜の顔を覗き込んだ。
「ううん、大丈夫。ただ朝っぱらからあんな大音量の音楽鳴らされるとね・・・・・。ありゃちょっといくら何でもキツいよ・・・・。」
「ああ、朝のラジオ体操の事ね。どう?”期待通り”だったでしょ?大丈夫よ、明日にでもなれば慣れるって!!!!」
「な、慣れるか・・・・アハハハハ・・・・・・・」
朝から元気いっぱいな陽子とテンションの低い茜であった。
「さぁ、早く食べて出かける準備しないとツアーの集合時間に間に合わなくなっちゃう!」
2人は素早くご飯を食べた。
「ええっと、タオルにティッシュにと・・・・・。」
朝食を食べ終えた2人は部屋に戻ってツアーに出る支度をしていた。急いで準備をする茜の元に化粧品の香りがしたので振り向くと陽子が鏡に向かって唇に口紅をつけていた。
「へぇ~、陽子さんって旅先でもちゃんと化粧するんですね。」
茜は感心しながら言った。というのも化粧道具こそ持参したものの、旅に出てから仙台で『憧れの君』こと入江勝と”強制デート”をして以来面倒になって大して化粧をせず、留萌から知床へ入った時は完全にすっぴん状態となっていたのである。
「あら、だって外に出る時に化粧をするのは当たり前でしょ?それに今みたいに紫外線が強い季節に素肌で外出するとあっと言う間にシミだらけになるわよ。」
陽子は当たり前の様な口調でキッパリと言った。
「あ・・・・・・はは。そうよね、やっぱり普段から肌の手入れは大切よねぇ~。」
思い切り痛い所を突付かれた茜は荷物から化粧ポーチを取り出し、久しぶりにファンデーションにアイブロー、アイラインにアイシャドウ、マスカラ、口紅等を施した。




