第一章 出発 3
せっかく大洗港に到着したものの既にフェリーが満席だった為、仕方なく近辺の宿を探す事となる。何件か空室を問い合わせてやっと見つけた宿へ向かい、部屋で一息つく。
(あー、初日からこんな目に逢うとは思ってもみなかった、けどよく考えると私の人生も似たようなモンか・・・)
急に今までの経緯を回想する茜であった。
あれは昨年の2003年晩秋であった。それまでの茜はビジネス系学科の短大を卒業してから7年間東京丸の内にある某一流企業で事務職に就いており、順風満帆な生活を送っていた。しかし長引く不況が職場にも影響が徐々に表面化し、賃金カットに慢性的な人員不足による長時間労働等が出てきたが、それでも『自分は絶対に大丈夫』だと思い込んでいた。新卒で7年間も勤務しているし万が一の事があっても会社は絶対に自分の首を切る様なマネはしないと『確信』していた。
が、しかし…
ある日の事であった。いつも通り出社して制服に着替え、仕事を始めようとした矢先、茜をはじめ同じ部署の事務職の女子社員が直属の上司と人事担当者がいる会議室に呼ばれた。何か嫌な予感がしたがまぁ大丈夫だろうとタカをくくる茜。しかしその嫌な予感は的中したのである。
『2003年11月某日をもって貴殿を解雇する』
今後事務職は全て派遣及びパートに切り替えるので正社員はもういらない、と宣告されたのである。
勿論『男性と同等に働く』仕事に就くのであればそのまま会社に残っても良いと言われたが現実問題無理なのは承知であるし結局『通常よりも多額の退職金』と『会社都合による退職』という手切れ金を受けて職場から立ち去ってしまったのである。
そしていつもなら楽しくクリスマスや年末年始を過ごすはずが、早々失業保険を貰いながら再就職活動をはじめ、多いときには1日3回も面接がある程多忙な日々を送っていたが、7年間の社会人経験があろうとこれと言って特別な技術も能力も身につけていなかった為に尽く不採用通知を受けていた。
来る日も来る日も面接をしても不採用通知、そして又面接をしても不採用通知と続き、その度に情緒不安定となってしまいには家族にも当り散らす様にもなった。しかしいくら頑張っても決まらないものは決まらない、全く持って現実とは厳しいものである。