第四章 イージーライダー 7
「ところでこちらのお嬢さんは?」
女性が茜の方をチラッと見ながら言った。
「あぁ彼女?この前礼文の宿で一緒になった娘でさ、今日稚内までツーリングに出かけた時に偶然再会したんだ。そんでもって泊まる場所がまだ決まってないって言うからよ、ここなら祐ちゃんがいるから安心だし連れて来たんだ。」
「ふうん、そうなんだ・・・。ま、いいでしょ。まだ夏休みのシーズン前でうちもガラ空きだしね。ところであなた、お名前は?」
女性は茜に問いかけた。
「大橋茜です。」
どこをどう見てもボロ屋としか言い様のないこの宿のどこが”安心”なのか茜には全く理解不能であった。
「茜さんね、分かったわ。私は祐子、富沢祐子。ホテルや旅館とは違って上げ膳据え膳みたいなサービスは一切できないけど、こうしてここにやって来たのも何かの縁だし折角だからゆっくりしてってよ。」
「え、ええ。飛び入りなのに済みません。」
茜は祐子という名の女性の気取らない大らかな態度に、少しは抵抗感が薄れつつあった。
「そんじゃ茜さん、部屋案内するから中に入って。それから荷物重いでしょ?私も手伝うからちょっとソレ貸して!」
茜は両手に抱えた荷物の片方を祐子に預けて中へ上がった。
「祐ちゃん、俺ちょっと彼女のバイク見てくるからさ。その間に茜さんに例のアレ、『イージー☆ライダー』のビデオ観せてあげて。」
「えぇ?和義さんったら又あのビデオ観せるの?もう一体今まで何十人の人に同じ事してるのよ。いい加減テープが擦り切れてるわよ!」
そう、和義はいつもツーリング中に出会った数多くのライダーを富沢ハウスに誘っては『イージー☆ライダー』を鑑賞させていたのだ。
「まあまあいいじゃないか。あの超名作を少しでも多くの人に知ってもらうって事でさ。あと”宝の山”に置いてあったテール・ボックスも貰っておくわ。」
「ハイハイもうどんどん持って行って頂戴!全くうちは物置小屋じゃないんですからね!」
富沢ハウスの庭には数々の宿泊客が不要になって置いて行った工具類やパーツ等が山積みになっており、和義はそれを”宝の山”と称していた。
「えっ!和義さん、私のバイクを見るって一体何をするんですか?」
茜が言った。
「あぁ、さっき君が修理した所をもう1度点検しようと思ってさ。それにボックスも付けた方が役に立つだろうし。君がさっき修理しているのを見てて何だか危なっかしくて心配なんだよ。」
和義が工具類を抱えながら言った。
(何よ、心配だって言うなら最初から全部アンタがやってくれれば良かったのに!)
茜は内心かなり和義に対してムッとしていたが、一応メンテナンス等でお世話になったし何しろ留萌まで連れて来てくれたのだから何も言えなかったのである。
その時であった。
「ママーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
奥から小さな子供の声がした。
「美久!どうしたのよ?」
(マ、ママ?!祐子さんって子持ちだったの?!!!!)
茜は非常に驚いた。
バスト95、ウェスト58、ヒップ80とまるでグラビアアイドルを彷彿させる体型に加え、ベルボトムに胸元が大胆に開いたチュニック、そしてペイズリー柄のバンダナを身にまとった、1970年代に流行ったヒッピーファッションからはとても祐子が子持ちには見えなかったのである。
「おお美久!随分と大きくなったなー。おじさんの事覚えてるかい?」
今度は和義が美久の事を抱き上げた。
「美久ももう3歳になったんだよな。と言う事はあいつが死んでからもう3年か・・・。本当に月日が経つのは早いよな。」
和義はそう言い残して茜の250TRが置いてある駐輪場へ行った。
「さあ美久、ママはちょっとお客様の相手をしなきゃいけないからあっち行って絵本でも読んでなさい。」
「はーーーーーーーーい、ママ。」
美久と呼ばれる祐子の娘は再び奥の部屋へ戻って行った。
富沢祐子 29歳
夫亡き後3歳になる1人娘を抱えながらライダーハウス『富沢ハウス』を女手1つで切り盛りをしている。和義とは元々夫の親友で結婚後も家族ぐるみで交流が続いていた。
「あ、ごめんなさい。着いた早々バタバタしちゃって。とりえあず荷物は全部私が部屋に運んでおくから、茜さんはそこの居間でお茶でも飲みながらビデオ観ててよ。」
「何から何まで済みません・・・・。」
祐子は茜の荷物を部屋まで運び、一方茜は案内された居間にて『イージー☆ライダー』のビデオを観る事にした。




