第四章 イージーライダー 6
稚内を後にした2人はまずガソリンスタンドへ立ち寄って給油を済ませ、 ノシャップ岬へと向かい、次に 童夢温泉で疲れた体を癒した。そして『日本海オロロライン』と呼ばれる道道106号線を南下した。途中利尻富士が見えたので一旦バイクを停めて休憩がてらに日本海側に見える利尻富士を望んだ。
「どうよ、香深港の時よりもいい眺めだろ?ここは俺のお気に入りの場所なんだ。」
遠く遥かに続く一直線に爽やかな潮風、雲ひとつない青空にすぐ傍に見える利尻富士、ここは和義にとって北海道内でも最もお気に入りの場所であった。
「そうだ、この付近に サロベツ原野って所があるんだけど丁度今高山植物のシーズンでさ、
礼文にいた時に見たのと似たような花が沢山咲いているから今から行ってみよっか?せっかくはるばる遠くからバイク1台に荷物ぶら下げて北海道まで来たんだしさ、それらしい風景を見せてやりたいんだ。」
「サロベツ原野なら前もって調べたからある程度は知っているけど連れてってくれるんですか?わーい、嬉しい!是非行きましょう!」
茜と和義はそのままサロベツ原野がある方向に向かって各々の単車を走らせた。
「どうだーーーーーーーーー?!気持ちいいかーーーーーーーー?」
「あーーーーーーーっ!!!!風がすっごく気持ちいい!去年までは今頃はずっと会社で仕事していたけど、まさか自分がこうしてバイクに跨って北海道まで来るとは夢にも思わなかった!会社クビになった時はすごく辛かったけど、今考えると放浪の旅に出るチャンスだったのかもしれないって思える様になったんだ!」
「おおそうか、それは良かったな!俺もここまで連れてきた甲斐があったよ。何にせよ気の持ち方次第で人間前向きに生きられるって事だな!」
茜は旅に出てから様々な経験を重ねる内に、ようやくリストラの事が吹っ切れる様になって来たのである。
「おっ、もう2時過ぎてる。7月言えども夜になると道内は結構冷えるからそろそろここ引き上げて宿まで直行しよう。」
2人はサロベツ原野を出発して再びオロロラインを南下し、 留萌市へと向かった。
果てしなく続く一本道に右側には日本海、左側には広大な景色を見ながら走れる事は茜達ライダーにとってまさに至福のひと時そのものであった。和義は ステッペンウルフの『Born to Be Wild』を口ずさみながら相棒のチョッパーマシンを走らせ、茜も和義の後をくっつく様にしてカワサキ250TRを走らせた。
途中で一息入れようと和義はバイクを停めて茜のいる方向へ声掛けをしようとしたが、茜の姿が見当たらなかった。。多分少し遅れて、走っててすぐに到着するだろうと数分間待ってみたが、一向にやって来る気配がなかった。一体何しているんだろうとさすがに心配になったので和義は先程通った道を引き返す事にした。引き返す事10分弱、反対側の車線に1人立ち往生している人物がいた。もしや!と思い和義は急いでその人物のいる方向へ近づくと、そこには転倒したバイクの傍でおろおろしている茜がいたのである。
「一体どうしたっていうの?いつまで経っても来ないから心配しちゃったよ!あーらら、コケたんだね。怪我はない?」
和義はまず茜に怪我がないか第一に確認をした。
「え、ええ。とりあえず体の方は大丈夫だけど・・・・。問題はバイクよ!さっきから何度も起こそうとはしているんだけど、すっごく重くて全然駄目なの!!!!」
茜の250TRは見事に真横に倒れ、ブレーキハンドルもペダルも曲がり、周辺には積んだ荷物が散乱していた。
「うーん、とりあえず本体を起こさなきゃ話にならんわな。よっしゃ、俺が傍で見てやるから自分で頑張ってそいつを起こしてみて。ま、250TRならそんなに重くないし大丈夫だろ。」
「えーーーーーー?!!!!私がやるの?無理だって言ってるじゃない!それに今だって
ずっと和義さんが来るの待ってて起こしてもらおうと思ってたばかりなのよ!」
「何甘えた事言ってるんだよ!茜さん、これは君の相棒だろ?さっきも言ったよね、“自分の相棒ぐらい自分で面倒見なきゃダメだ”って。今ここで俺が起こすのは簡単な事だよ。けどこの先1人で走っている時に同じ事やらかしたらどうするんだい?誰も面倒なんて見ちゃあくれないよ。それに教習所時代に持ち上げる練習だってやっている訳だし、とにかく人に頼る前に自分で解決する力を身につけなきゃダメなんだって!さ、つべこべ言わないで持ち上げてごらん。それが終わったら今度は工具を貸すから曲がったハンドルも自力で治すんだよ、あと他に負傷した部分があるかチェックもする事、いいね!」
「そんな~!日が暮れちゃいますよ・・・・・。いつになるか分からないですよ!」
茜は半べそをかきながら和義に訴えたが
「ここからだったら留萌まで1時間もしないから大丈夫だよ。ホラ、さっさと起こして!あぁ、ホラホラ違う!こんな持ち上げ方しちゃあ起き上がらないじゃないか、全く!!!」
突如”鬼教官”に変貌した和義の指導の下で茜はふて腐れながら愛車の復旧作業を行った。
”鬼教官”の指導の下、何とか復旧作業を済ませて留萌に到着した時は既に午後6時半を過ぎていた。
「ホラ、ここが今日の宿だよ。ボロだけどすっごく雰囲気がいいんだよ。今日はかなり体使ってクタクタだろうからさ、ここでゆっくりするといいよ。あ!もちろんビデオ鑑賞してからだよ!」
「ハァ・・・・・・」
(何言ってんのよ!この人のせいでもう体中ボロボロなんだからっ!それに何よこの宿、まるで掘っ建て小屋じゃない。どうやってゆっくりしろって言うのよ!!!!)
和義がここだ、と指をさした『富沢ハウス』という看板を掲げたライダーハウスは築30年の木造アパートの方がまだ小奇麗と思われる程の”ボロ屋”で、お世辞にも一晩過ごしたいとは言い難い建物であった。
「さぁさぁ、先に入って。俺こう見えてもレディーファーストだからさ。」
(なーにが”レディーファースト”だよ!さっきまで人のバイクを起こすのを手伝うどころか散々叱り飛ばして自分は何もしてくれなかったくせに!)
茜はしぶしぶ『富沢ハウス』の玄関をくぐり、続いて和義も玄関をくぐった。そして
「おーーーーーーーーーーーーーい!俺だけどいる?」
と屋内に向かって和義が叫ぶとオーナーと思われる1人の女性がすぐ駆けつけてきた。
「和義さん!!!!全く遅かったじゃないのよ!私ずっと待ってたんだからねっ!」
「祐ちゃん!!!!ゴメンゴメン、ちょっと色々と手間取ってさ。それにしても
久しぶりだよね、元気にしてた?」
「私?私は相変わらずよ。本当に何年ぶりかしら?和義さんも全然変わってないじゃない!あ、ちょっとだけ老けたかな?ってゴメン!冗談だから気にしないで~!!!!」
「コラコラ、おじさんをからかうんじゃなーーーーーい!アハハハハ・・・・・」
和義と『祐ちゃん』と呼ばれる女性はお互いに久しぶりの再会を祝していた。
そしてそんな彼らをただ見つめながら富沢ハウスの玄関でボーッと立っている茜であった。




