第四章 イージーライダー 4
2人は稚内港近くの喫茶店に入ってお茶をした。
「まさかここで山口さんと再会するとは思わなかった!声掛けられた時は本当にびっくりしましたよ~。」
「あはははは!まぁ世間は狭いって言うからね。それに君すごくインパクトあったしさ。だってオンロードでダート走る事堂々と言える事自体が驚愕モンだったからなー、久々に笑わせてもらったよ、あれ!」
「ハ、ハァ・・・左様でございますか・・・・・。」
よくもまぁそんな過去の事を覚えているな、と半ば呆れ顔の茜であった。
「まぁ俺もそんなに自慢できる腕前ではないんだけどね。たださ、21年間もバイク乗ってると何やってても四六時中バイクの事ばかり考えてしまう事があってさ、ツーリング先とかでもついつい他人のバイク観察したりお節介だと分かっていても口出ししたりするんだ。けど癖なのかどうしてもやめられないんだよな。アハハハハハハハハハ!!!!!!」
記憶力の良さだけでなく笑い方も尋常ではない豪快っぷりを見せていた。そしてそんな彼の姿を目の前にした茜はただひたすら顔を引きつらせて苦笑いする他なかった。
「あ、あの!ところで山口さん、先程”21年間バイクに乗っている”って言ったけど、失礼ですが一体お幾つなんですか?」
「年?俺もう41のオヤジ!けど中年オヤジだろうがカミさんと子供がいようがそんな事永遠のライダーには一切関係なーーーーーーーーーーーーーーーーーし!!!!」
サングラスに皮ジャンパー等といった外見からは全く想像がつかなかった茜は非常に驚いた。
「ウソ!!!!とても40代には見えないですよ~。だって見た目すっごく若そうだし・・・・。」
「だーかーらー!!!!!年とか背負っている環境なんて一切関係ないって言っているじゃん!少なくとも今君の目の前にいる俺はただのライダーに過ぎないんだからさ。好きな事ややりたい事に年齢なんて関係ないんだって!俺はただバイクが好きだかこうしてツーリングとかしているワケ!!!!分かった?」
「あはは・・・・そうですね・・・・おっしゃる通りでございます・・・・。」
(ちょっと、”永遠のライダー”って何よ?この人何だか凄く自分に酔ってる・・・・)
山口と呼ばれる男のオートバイに対するあまりの酔狂ぶりに少々危ないモノを感じる茜であった。
山口和義 41歳
元々本州に住んでいたが若かりし頃北海道へツーリングへ訪れたのを機に道内の魅力に取り付かれ、その後地元で働いて結婚して子供が生まれてしばらくの間有給休暇を使って北海道と地元の往復を続けるが、数年前に意を決して家族を連れて北海道へ移住し、現在は札幌市内の企業に勤務しながら休日になると道内、それも特にお気に入りの道北周辺を中心にツーリングに出ている生活を送っている。所有マシンは知人が経営する中古バイク屋にて手に入れた ハーレーダビットソン社の ソフテイルFXST系 を改造したタイプであるが、その改造具合がまた曲者であった。
「ところでさ・・・・君、茜さんって言ったよね?ゴメン、初っ端から馴れ馴れしくて悪いんだけど苗字で言うのも堅苦しいしさ。俺の事も山口さん、だなんて言わないで下の名前で呼んでよ。」
「あ、私は構いませんよ。そうそう、さっきからとても気になっていたんですけど…。和義さんの皮ジャンといいヘルメットといい、何だか偉く派手ですよね。両方とも星条旗が施されてますし。」
茜がそう言った瞬間、和義はよくぞ聞いてくださいましたと言わんばかりに『演説』を始めたのである。
「おっ!気づいてくれた?いや~、アンタ目が高いよ!それならさ、後で俺の相棒も是非見てくれよ!そう、そう言えば君さ、『イージー☆ライダー』知ってる?昔の古ーいアメリカ映画なんだけどさ、あの、えーと何だっけ・・・・、思い出した!自分のマシンをキャプテン・アメリカが乗っているのと同じ具合に改造しているんだよ。昔ビデオでイージー☆ライダー観てさ、それ以来俺ずっとキャプテン・アメリカに憧れてて免許取ってからもハーレーに乗りたかったんだ。けど若い頃は金がなくってさ、なかなか手に入れることができなくってさ、丁度2、3年前かな?知り合いの所で中古のソフテイル見つけて速攻で手に入れてさ、その後すぐに改造してやっと憧れが現実になった、ってワケ。実はさ、今日もそいつに乗ってここまでやってきたんだ。だから後で絶対に見てくれよ、な!」
あまりにも和義の話が止まらないので茜は口を挟んだ。
「あ、あの・・・・和義さん、ごめんなさい。私、そのイージー☆ライダーって映画観たことないからぜんぜん知らないんですよ。だから話について行けない・・・・・」
すると和義が言った。
「あ、そうなんだ~。そいつは残念!そっか・・・・まあいいや。ところで今晩の宿決まってる?」
「いえ、まだなんですけど・・・・・。」
「よっしゃ!そんじゃあ今日はとっておきの宿を紹介するよ。留萌にあるライダーハウスなんだけどいいかな?俺の知り合いが経営しててさ、俺も今日そこで一晩過ごすんだよ。」
まだ宿を決めていない茜にとって朗報であった。
「えっ?いいんですか?わーい!助かる。」
「良かった!そこのライダーハウスに行けばイージー☆ライダーのビデオが置いてあるから、到着したらすぐに観せてやるよ。」
「ハァ・・・・・・。」
結局和義の目的は『茜に教育を施す』事だったのかもしれない。
『イージー☆ライダー』とは1970年に公開された映画で、ピーター・フォンダ演じるワイアットことキャプテン・アメリカとデニス・ホッパー演じるビリーがチョッパーマシンで『自由に』生きながらフロリダの謝肉祭へ向かう物語だが、途中行く先々で彼らのヒッピー姿を見ただけで宿から宿泊拒否をされたり世間から冷ややかな目を向けられると言った、アメリカが唱える『自由主義』との矛盾も垣間見られる内容であった。
「そんじゃあ途中どこかに立ち寄りながら留萌に向かって出発する
2人は喫茶店を後にしてオートバイを停めてある駐輪場へと向かった。




